『「ジョブ理論」完全理解読本 ビジネスに活かすクリステンセン最新理論』は、Biz/Zineでの連載に加筆・修正しコラムや図解、章を加えた1冊。破壊的イノベーションの提唱者として知られるクレイトン・クリステンセン氏が提示した新たな『ジョブ理論〜イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパー・コリンズ刊)の副読本ともいえる内容です。
ジョブ理論とは、人が商品やサービスを買うのは片づけたい用事=ジョブを解決するため、とする理論です。本書でも紹介される、クリステンセン氏によるミルクシェイクの逸話が最も分かりやすいかもしれません。
とあるファーストフードチェーンからミルクシェイクの売上を伸ばす相談をクリステンセン氏は受けた。その企業は氏に相談する前も、いくつものコンサルティング会社やマーケティング会社に依頼をしていたという。ミルクシェイクについての調査を行い、顧客アンケートを数多く行なった。味についての意見を数多く集め、フレーバーを追加したり、トッピングを加えたりしたが、あまり効果がなかった。あるいは、顧客情報からセグメンテーションを行なって対策しようとしたが、こちらもほとんど成果が出なかったため、クリステンセン氏らに依頼したという。
そこで、クリステンセン氏らは、商品がよく売れる平日の朝に来店客を観察することにした。しばらく観察し続けていると、ある一定のパターンが見えた。ミルクシェイクを買う顧客は一人で入店し、ミルクシェイクだけを買い、車でそのまま走り去るケースが多かったのだ。そのパターンが見えたところで、顧客に「何をするためにミルクシェイクを雇ったのですか?」と尋ねたという。もちろん、ミルクシェイクを「雇う」というのは突飛な質問なので相手も自分の行動を振り返って考えないと答えられない。すると、次のような状況でミルクシェイクを買ったと説明した。
- ・車での通勤途中である
- 一人で毎日運転するのは退屈である
- 手持ち無沙汰を解消するためミルクシェイクはぴったりだ
- バナナを食べながら運転したこともあるが、会社に着く前になくなってしまった
- ドーナッツを食べながら運転したこともあるが、手がベタベタするのが気になってふさわしくない
- ミルクシェイクは手も汚れず、長持ちする
顧客の状況から言えることは、「退屈しのぎ」のためにミルクシェイクを買っているということである。クリステンセン氏の言葉を借りれば、「退屈しのぎ」という「用事=ジョブ」を片づけるためにミルクシェイクを「雇っている」のだ。
(本書より)
個人や企業においては「退屈しのぎ」のようなジョブが常に発生していて、それを片づけるために商品やサービスを「雇う」のです。顧客側のジョブには機能的なものだけでなく、「いい印象を持たれたい」「誰かの役に立ちたい」といった感情的・社会的なものもあります。それに対して売り手側のジョブは売ることなので、そのギャップからミスマッチが起き、ビジネスが失敗してしまいます。そこを埋めるのがマーケティング活動の一つと言えるでしょう。
本書では親しみやすい事例を紹介しながら、理論を実践するためのフレームワークを提示していきます。世の中でヒットしているものがどんなジョブを解決しているのかを分析するのも、ジョブ理論を身につけるために有効です。
マーケティングを行ううえで顧客のジョブを中心に捉える考え方を養うために、ぜひ本書をお勧めします。読み終わったあと本家『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ ジャパン)を手に取れば、より深く理解しながら読み進められるのではないでしょうか。
目次
・「ジョブ理論」とは何か?
・ミルクシェイクが売れた理由
・床屋のイノベーションから「ジョブを見極める要素」を理解する
・なぜ顧客はあなたの商品を「雇わない」のか
・ユーチューブでクリステンセン教授の講義を聴こう
・B2Bにおけるジョブ理論
・ジョブ理論にまつわる、よくある質問
・無消費はチャンス
・ジョブスペックと解決策の設計
・あのヒット商品はどのようなジョブを解決したか?
・ジョブ理論を活用する
・ビジネスモデルとデータ分析の呪縛
・なぜジョブを中心に考えることができないのか?
・スタートアップにおけるジョブ理論
・ジョブ理論による成功するビジネスの予想
・クリステンセン教授が日本で語ったこと
・自分自身のジョブを省みる