具体的に営業部門との役割分担をどうするか
このようにマーケターには「売上を作るために営業と協働して『攻める』」という姿勢こそが求められているわけだが、ABMにおけるマーケティングと営業の役割分担とは具体的にどのようなものなのか。

大手ITベンダーを例に考えてみよう。ABMを利用した効率の良いアプローチのためには、大企業顧客と中堅中小企業顧客(SMB)とでは、マーケティングと営業、それぞれの役割が変わってくる。
大企業顧客は1社あたり売上高が大きいが社数が少なく、中小規模企業顧客は1社あたり売上高が大きくないが社数は多いという特徴がある。大企業顧客には営業担当が大勢張り付いているため、マーケティングの役割は相対的に小さく、新規コンタクトの獲得が中心になり、インサイドセールスが入るとしてもその任務はアポイント創出にとどまるだろう。
他方で、中堅中小企業顧客では、営業担当者は手薄になるため、マーケティングがコンタクト獲得から案件化直前までのナーチャリングまでを担うことになり、インサイドセールスによる企業絞り込みや案件化見極めに対する期待も大きくなる。
このように、企業セグメントごとに営業とマーケティングがどう役割分担をするのか、明確にして握っておくことがABM成功の要因になってくる。このセグメントは、企業規模や業種業態などの属性によって推測する、1社あたり期待収益規模をもとに決定することが一般的だ。
うちの会社にABMは向いているか?
だがABMはあくまでも手法の一つ。イケスを特定し、そこをしっかり狙うという手法が、適しているケースと適していないケースがある。
一般的に、BtoBビジネスで、商材の単価が高く、検討期間が長いか、購買関係が長期間にわたる場合はABM手法に重点を置いたほうがリターンが高い、と山田氏はいう。逆にいうと、どんな企業層でも使えるような汎用的な製品サービスや、企業規模を問わず購入可能な低単価商材なら、重点的にどの企業層を攻めると定義する必要は低いだろう。
ABMを展開すべきかどうかの判断材料になりうるのが、「売上の偏在性」だという。売上の目標に対して、どんな売上規模の企業群からでも、どの商材からでも目標額を稼げれば良いという場合もあれば、「このような企業群からこの商材で目標額を達成する」という経営戦略もある。ABMは後者に適していることになる。
これに加えて、見込み企業の属性や財務面で制約が多い場合もABMが有効だという。また、特定の地域を攻める、自社のブランディングのために有名企業の実績を作る、ライバルの牙城を切り崩す、といった目的で用いる例も考えられるという。どれも企業の営業戦略と密接に結びついていることに注意したい。
