「タイムシフト視聴」という味方
2018年4月から関東におけるテレビCMのスポット広告の取り引きが「世帯視聴率」から「個人視聴率」に変化した。また、放映後7日までのタイムシフト視聴も反映されることになった(All&P+C7※2)。タイムシフト視聴がそれなりの数字を持っているドラマなどは「タイムシフト視聴」という「新しい味方」を手に入れて、番組がより正しく評価されることになった。
そこで、インテージシングルソースパネル(i-SSP)を利用して、2018年春ドラマにおける視聴状況を分析してみた。i-SSPは「個人」の番組接触を計測しており、音声マッチング方式を採用することで、タイムシフト視聴を含めた「個人の総合接触」という新しい番組価値計測を実現している。
今回は接触率が安定してくる各ドラマの3話目を対象にランキングを算出してみた。ドラマの放送初期は「お試し視聴」も多く、話題性で数字を取りやすいが、3話目くらいになると「継続する/しない」がシビアに分かれてくることからコンテンツの真の評価が浮き上がってくる(図表2)。

リアルタイム、タイムシフトを統合した総合ランキング1位は「ブラックペアン(TBS)」。リアルタイムとタイムシフトともに1位であり、さらには、タイムシフトのスコアの方が上回っている。このような番組は視聴者に「見逃せない番組」というイメージが形成されていることが多く、最終回まで一定数の視聴者を維持する傾向がある。
また、「コンフィデンスマンJP(フジ)」や「Missデビル(日テレ)」、「モンテ・クリスト伯(フジ)」のように総合ランキングでみるとリアルタイムランキングの順位を上回るものもあり、リアルタイムだけでは評価しきれない価値を持っていることがわかる。タイムシフトという味方が、新しい番組価値を照らし出しているのだ。
※2 個人視聴率と7日後までのテレビ番組(プログラム)とテレビ広告(テレビCM)の意。
変わるテレビCMの見られ方
次にインテージの「Media Gauge TV」※3というスマートTVログを用いてタイムシフト視聴の実態を詳しく見てみる。スマートTVログとはネットに接続されたテレビの操作履歴データのことで、チャンネル選択などが秒単位で把握可能である。さらには、ネットに接続された録画機のデータも収集しており、再生はもちろん、早見再生(倍速再生)やCMスキップなど詳細な操作履歴の分析ができるため、広告主の関心の高い「CM飛ばし」などの視聴実態を浮き彫りにすることも可能である(図表3、図表4)。


図表3は2017年11月に放送されたあるドラマを「録画番組再生マップ」として視覚化したものである。縦軸は操作率、横軸は番組の経過時間軸を表しており、「どの時点でどのような操作が何%されているか」がわかる。また、黒く塗られた時間帯は「CM時間」を表し、テレビCM時間帯に再生しているのは4回のテレビCM時間帯中、概ね2~3割であることがわかる。テレビCM時間帯の6割程度は文字通り「スキップ=CM飛ばし」されている状態である。
図表4はテレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」のとある放送回である。多くのビジネスマンの情報源として愛されているこの番組は、音声が聞き取れる状態で早送りで再生される「早見再生」が多用されていることがわかる。「時短で。でも大切な情報は逃したくない」そんなニーズがこうした視聴形態を生んだと考えられる。CM時間帯も早見再生を含め、半数近くが視聴しており、完全にスキップしていた先ほどのドラマとは大きな違いが浮かび上がっている。「早見再生だと普通に聞こえる、早見再生を逆手に取ったクリエイティブ開発」など、妄想もむくむくと湧いてくる。
さらに異なる視聴タイプとして子供向けのアニメなどの場合、テレビCMそのものがコンテンツを模した設えとなっており、テレビCMがほとんどスキップされないという分析結果もある。タイムシフト視聴だからといって、必ずしも「CM飛ばし」されるわけではないということだ。
今後は、タイムシフトの再生状況を前提とした番組づくりやテレビCMづくりが出てくるのではないか、と期待している。
※3 Media Gauge TV(メディアゲージティーヴィー):ネットに接続されたテレビや録画機器の操作ログデータを利用することでテレビ視聴やタイムシフト視聴実態がわかるデータ。
「三方よし」を実現する世界に
「世帯視聴から個人視聴へ」という潮流は、広告主に新しい分析視点の整備を喚起している。その結果、呼応するサービスも次々と生まれている。詳細な属性設定はもとより、実際の商品購入やサービス利用状況や生活意識・価値観を加味したターゲット設定など、リッチな付帯情報を駆使した視聴者分析である。インテージ(DCG・サービス事業本部)の最新の取り組みでは耐久消費財・サービス系の広告主の分析視点に対応するため「生活者360°理解」をテーマに分析視点の拡充を行うことにより、特定番組あるいは特定時間帯の視聴者プロファイリングの高質化を試みた(図表5)。

詳細なターゲット設定を用いた分析は「届けたい人にメッセージは届いているのか?」を追求することであり、その活動は「必要な人に必要な情報が届く」ことにつながり、広告主と生活者に幸せな関係をもたらす。
さらには、個人視聴への変化は番組評価のみならず、テレビ局の「番組作り」をもシフトさせる。「誰に向かって」をより意識した番組づくりは、視聴者(=生活者)にとっても観たいコンテンツが増える可能性をはらんだうれしい変化であるはずだ。その変化はテレビ局や番組のファン層を育成する。
また、テレビ局にとっては、タイムシフト視聴を含んだ番組評価をすることにより、新しく正しい番組の価値が顕在化する。それは、スポンサーに対しての新しい価値証明につながるはずである。
テレビ視聴の実態把握における新しい視点はテレビ局、広告主、そして、生活者の新しい味方として、三方を幸せにするチカラがある。
マーケティングのデジタル化が「個」への対応を急がせている。その潮流はデジタル施策に端を発し、テレビをはじめとした様々な効果計測、プランニングにも及んでいる。「個」への対応は「新しい視点」を求めている。テレビは個人視聴率になり、デジタルとの統一指標開発も始まっている。他方では、タイムシフト、Netflixなどの動画コンテンツの充実、ロケーションフリーの持ち出し再生など、電通の奥 律哉氏が提唱する「一周まわってテレビ」※4という「テレビ」や「テレビを取り巻く場」の新しい潮流も動き出している。新しいテレビの見方を捉え、価値計測フレームの開発・整備を急がねばなるまい。新しいテレビの味方として。
▶調査レポート
「テレビのチカラの「新しい測り方」はだれを幸せにするのか? ーライフログデータが示す、メディアの未来#2」(Intage 知る gallery)