プレイドが広げるオープンなコミュニティ
本稿でレポートしているのは、プレイドのユーザー企業同士でナレッジを共有し合うミートアップだ。「ユーザー一人ひとりにフォーカスしたCX」を提唱しているプレイドは、ユーザー企業によるコミュニティの活性化に注力しており、ミートアップの他にも、業種ごとの分科会、各社のエンジニアを集めたディスカッションなどを開催している。
そして、プレイドがコミュニティに注力する理由は、“会社は違えど「CX」という一つのテーマに向き合っている企業同士で刺激し合い、事例や知識を共有していくことで、新しいユーザー体験が生まれる”という考えにある。オープンなカルチャーのもと、会社という枠組みを超えたコミュニティで何が共有されているのか。本稿では、その内容をお届けする。
グループ全体での導入・活用を進めるリクルートテクノロジーズ
今回、ミートアップの壇上に立ったのは、リクルートテクノロジーズとゴルフダイジェスト・オンラインだ。初めに登壇したリクルートテクノロジーズの橋本はるな氏は、「組織横断型のソリューション推進の仕組みづくり」をテーマに、ボトムアップの組織文化をもつリクルートがグループ全体でソリューションを導入する場合、どのような組織体制および導入準備が求められるかを話した。
リクルートテクノロジーズは、リクルートグループが提供する各サービスをテクノロジーの面から支えている。2017年11月から始めた「KARTE」の導入は、3つのフェーズを用意し、活用の範囲を拡大しながら導入を進めているという。
フェーズ1 現場の声を基にした課題の特定&全体設計
リクルートテクノロジーズが「KARTE」の導入を依頼されたとき、実は既にグループ全体の20サービスでKARTEは導入されていた。それらを取りまとめ、グループ全体での活用を模索するにあたり、橋本氏は事業会社の担当者へニーズのヒアリングを実施。その結果、「よりスピーディーに施策を回して成果を出す」「グループ内のデータを連携し活用する」という2つのニーズを満たすソリューションとして、KARTEを採用した。
次に橋本氏は、「広告配信の最適化」「最適チャネルの判別」「ターゲティング」「ABテスト」など、事業部側の施策を実現するためにどのようなデータが必要なのかを整理した。ソリューションの利用範囲が広がるにつれ、データ連携は難しくなるからだ。
さらに、事業会社の担当者が望む施策がセキュリティポリシーと関連法規に準拠しているかなども確認。リスクレビューは、グループ全体で活用するソリューションの選定には不可欠だと橋本氏は話す。
まとめると、フェーズ1では事業側との対話を通し、課題の特定と全体設計、契約を含めた基本的な事務手続きの取りまとめを行った格好だ。
フェーズ2 スムーズな運用を目指したシステム開発
フェーズ2では、コンサルティングと並行しながらシステム開発を実施。2018年4月からフェーズ2に入り、現在も進行中である。
このフェーズのゴールは、事業部側にシステムを引き渡した後の運用と業務支援を円滑に行うための仕組みづくりにある。
KARTEを活用し、グループとしてどのような施策を展開するかを明確にするため、橋本氏は二度目の個別面談を実施。ヒアリング内容を基に、業務への運用が有望と判断した施策は15件以上に上った。その中の1件は、実行可能調査が始まっており、今後はその施策によりどの程度のROIが見込めるか、どう進めていくかを事業側の担当者とともに検証していく計画だという。
また、KARTEを提供するプレイドとの定期コミュニケーションの場では、リクルートグループ内での取り組みの方向性について、議論を重ねている。現時点ではリクルートテクノロジーズとプレイドの2社のみが参加する場であるが、今後は施策を運用する担当者も含めユーザー会や勉強会を開催。各事業会社のユーザー同士で交流を深めてもらい、ナレッジの共有を促すことが狙いだ。
フェーズ3 活用範囲を拡大、グループ全体での活用による相乗効果を
フェーズ2が終わる予定の2018年9月末には、施策の展開やシステムの運用方法が定まる予定。そして次のフェーズ3では、フェーズ2で行ったコンサルティングからシステム開発、運用開始までの推進体制の範囲を拡大させていくと橋本氏は話す。
たとえば、今は事業会社ごとに行っているDMPを活用したデータ連携を、データハブによる共通の仕組みに変えるなど、共通化のメリットが大きい分野を見つけ、KARTEの実装でシステムや運用を見直していく。
リクルートテクノロジーズは、グループの中で「人」「データ」「業務」をつなぐ重要な役割を果たす。フェーズ3では、リクルートテクノロジーズによるグループ全体への支援体制を完成形に近づけるべく、取り組みを洗練されたものにしていくビジョンを橋本氏は描いている。
多数の施策を展開中!ゴルフダイジェスト・オンラインの運用現場
次に登壇したのは、ゴルフダイジェスト・オンライン(以下、GDO)の大友広貞氏。GDOは、ゴルフメディア、ゴルフ用品販売、ゴルフ場予約、ゴルフレッスンを主軸とした事業を展開している。その中でGDOは、ECサイトとゴルフ場予約サイトの2つの領域でKARTEを導入し、大きな成果を上げている。大友氏は、具体的な施策の内容と成果を共有した。
パーソナライズドされたクーポン施策によるCVRが大きく改善
2016年からのECサイトでのKARTEの活用は、1日限定のセール告知のポップアップ表示や、おみくじクーポンの配布から始めた。その後、Salesforce Marketing CloudとKARTEのデータ連携を実施。サイト会員の属性データ、購買データ、ログデータ、商品データを基に、より複雑な施策が展開できるようになったと大友氏は話す。
新しい施策には、会員限定の誕生月クーポンの発行や、ログインしたユーザー限定の会員向け割引価格の案内などがある。それぞれのCVRは、施策実行前と比べ、誕生月クーポンが4.29→5.10%に、会員向け割引価格の案内では3.44→5.21%に改善した。
さらに、会員を対象にパーソナライズドされたお知らせページ機能も間もなくリリース予定だ。この機能は、会員名、保有ポイント数、保有クーポン、お気に入り商品の内容、おすすめ商品の案内など、パーソナライズドされた情報を出し分けて表示するもの。よく見かけるマイページ機能は、開発に大規模な工数がかかる。しかしKARTEを活用することで、現場のデザイナー、エンジニア、シナリオ運用担当者らの数名体制で実現できたと大友氏は話した。
ECとゴルフ場予約サイトでのKARTE導入による相乗効果
2018年からはゴルフ上の予約サイトでもKARTEを利用している。ゴルフ場のあるページを何人の人が見ているのか、リアルタイムの閲覧者数を表示するようにしたところ、CVRは5.62%→5.83%に。ゴルフ場予約の場合、同じ時間帯にプレイできる人数が限られ、人気の時間帯はすぐに埋まってしまうため、このような改善につながったのだろうと大友氏は話す。
また、二つのサイトでKARTEを使うようになり、利用者を相互に送客できるようになったことも説明した。たとえば、ECサイトで何らかの商品を購入したらノベルティがもらえるプランをゴルフ場予約サイトに表示したり、ゴルフ場予約の日程に合わせて消耗品の案内をしたりすることで、それぞれのサイトの利用を増やすことができるようになったのだ。
KPIの設定、シナリオ設計などの課題
GDOでは、多くの施策を展開しているため、その分課題も多い。ミートアップで大友氏が挙げた課題は、大きく3つある。
1つ目は、施策の効果検証が難しいこと。たとえば、購入額のリフトアップをKPIにした施策では、PCとスマートフォンで全く逆の成果が出た。同一セグメントに対して施策を行っても、デバイスの違いが結果に及ぼす理由の検証に課題を感じているそうだ。
2つ目に、KARTEのメリットとして現場担当者でも扱いやすいことがあるが、最近ではJavaScriptの知識が必要な場合が増えていることも悩みの一つ。スキルがある人に開発を頼ることになり、施策展開までのスピードがダウンする懸念があるからだ。
最後に、KARTE運用者のレベルアップの必要性にも迫られているという。GDOでは、多くは一人の担当者が施策のシナリオを考えているが、それだと発想が行き詰まることもある。そのため、週に1回は複数人で集まりシナリオを考える機会を設けている。しかし、高品質なシナリオを設計するにはやはりKARTEの機能を深く理解している必要がある。よって、施策展開のバリエーションとスピードアップは、KARTEを理解するメンバーをどれだけ増やしていけるかにかかっていると言える。
この点について、プレイドの仁科氏は「多くの企業の活用現場を見ていると、当初は成果が出なかったケースが多い」とし、画面を見ながらのアクションベースで施策を展開すると失敗しやすい傾向があるとその場でアドバイスした。
同じ課題を持つユーザー企業には、「改善にはユーザー視点で施策を考える時間を確保することが大事」と助言。本質的な解決策は、質の高いカスタマージャーニーを描ける担当者を増やすと同時に、KARTEの使い方を理解している人を増やしていくことになるだろう。
大友氏は、「一人のゴルファーがGDOのどんなサービスを使っても、閲覧・回遊・購入・予約などの行動データを取得でき、接客・メール・LINE・プッシュ通知などを通してリアルタイムかつ一人ひとりのゴルファーに寄り添った接客ができる環境を整えていきたい」と今後の展望を語り、話を終えた。