なぜ今「UXデザイン」なのか?
はじめまして。株式会社コンセント プロデューサー/ディレクターの加川 大志郎です。
UXデザインという考え方が世の中に定着してから10年近く経ち、様々な手法やツールが普及するようになりました。しかしながら「UXデザインとは何か?」に対する回答が人によってまちまちという、これから業務の中で実践していこうとしている人にとっては混乱する状態になっていると感じています。
そこで、「WebマーケティングにおけるUXデザイン」を考える前に、なぜ今、UXデザインが必要とされているか、その背景について、UXデザインの黎明期からWebサイトの設計・構築・運用に携わっているディレクターの視点で振り返ってみたいと思います。
モノからコトへ、そしてコトのデザインへ
戦後の高度成長期にピークを迎えた大量生産・大量消費の時代は、モノを作れば売れる時代でもありました。多少使い勝手が悪く不便さがあっても、技術的な制約や生産効率を重視し提供される、「低価格で高機能な商品」が顧客にとっての価値でした。
そんな時代が終わり、モノが市場に溢れ、価格や機能だけが選ばれる理由ではなくなった現在において、製品・サービス単体ではなく、それらを取り巻く様々な事柄がつながった「一連の体験」が、顧客の求める価値になってきています。
こうしたニーズに対応するためには、製品・サービスの企画設計の対象を「モノ(=製品やサービスそのもの)」から「コト(=一連の体験)」に拡張する必要があります。「コトを企画設計する」つまり、「製品・サービスを起点とした体験価値をデザインする」ことが求められるようになってきています。
「コトのデザイン」を継続する仕組みづくり
実は「コト=体験価値をデザインする」という発想自体はそれほど新しいものではなく、優秀なプランナーやマーケターはこれまでも実践し続けてきた取り組みです。ですが、こうした属人性に依存している状態は、組織として常に一定水準以上の品質を提供できる環境とは言えず、事業継続の上での大きなリスクとなってしまいます。
なぜUXデザインが重要視されているのかというと、それが「価値ある体験のデザイン」だけでなく「価値ある体験を提供し続ける仕組みづくり」までを含む考え方と手法の集合体だからです。
たとえばペルソナやカスタマージャーニーマップというツールは、ベテラン営業マンが熟知していた「こんなお客さんが、こんな使い方をしている」を視覚化・外部化することを可能にし、チーム全体での顧客理解を深め、活動の拠り所を共有することに役立ちます。ワークショップやプロトタイピングのような手法は、異なる立場や職能のノウハウや知識を、領域を超えて共有・活用するために有効です。