価値ある体験を提供するためのWebサイトの運営
最後に、コミュニケーション方針に基づいた個別施策を実施するにあたって、Webサイトやランディングページをどのように設計、実装、運用していくかについても触れておきます。
WebマーケティングとUI/UX
UXデザインという考え方は、スマートフォンの普及とともに広がっていきました。従来のハードウェアUIに比べると比較的制約が少ないタッチディスプレイと、どこにでも持ち出せることで製品やアプリの外にある様々な事象とつながりやすくなったことが要因だと思われます。「UI/UX」という言葉を目にすることが増えたのは、こういった背景によるところも大きいでしょう。UI/UXデザイナーたちは、ここまでで述べてきたUXデザインを遂行し、提供したい体験を定義したうえで、その体験を提供する製品やサービスそのものを実体化させることができます。
一方で、Webマーケティングの領域でのUXデザインを「UI/UX」とまとめてしまうと、「媒体での広告表現」「自社サイトのビジュアルデザイン」など、具体化しなければならない対象の一部のみに注力するような印象となってしまいます。
こうしたユーザーの目に触れる表現の部分は、もちろん非常に重要な要素ではありますが、Webマーケティングの範囲とはいえ、提供したい体験は、雑誌やCM、交通広告などの媒体や、メールでの問い合わせ対応、実店舗での対面コミュニケーションなどディスプレイの外の実世界までを含んだものであるはずです。
ビジュアル表現やコピーライティングなども含めたUIデザイン主導でコミュニケーションを検討するのではなく、提供したい体験価値や、一貫したコミュニケーションの方針をよりどころにして、UIへの具体化を検討するようにしましょう。

UXとUIをつなぐ情報アーキテクチャ
また、提供したいUXをUIに落とし込む前に、情報アーキテクチャ(IA)の設計を忘れないようにしましょう。Web上には情報が溢れており、ユーザーが目的の情報にたどり着くまでの道のりが遠い状態です。IAとは、多すぎる情報を効率的に蓄積・活用し、ユーザーが見つけやすく理解しやすくするための技術です。

IAもUXデザイン同様に複雑で難解な側面を持つのですが、Webマーケティングにおいては、Webサイトでのディレクトリ・ファイル構成や、ページ上のテキスト情報の構造(親子・兄弟関係など)、サイト内での用語の統一などが特に重要になってきます。
個別の施策に注力してランディングページやキャンペーンページを作成していると、Webサイト全体で見たときには、似たような情報が若干異なる言い回しで複数ページに散りばめられていたり、カテゴリーによってディレクトリ・ファイル構造がバラバラでどこに何があるかわからなかったりといった状態に陥りがちです。
構造化された優良なコンテンツを多数持つことはSEO観点で有効であること、逆に不必要に重複するコンテンツが存在することがリスクとなることはご存知の通りです。また構造化・体系化されたディレクトリルールは、アクセスログ解析をしやすいという効果もあります。IA設計は、コミュニケーションの一貫性を維持し、施策の最適化や施策間の連携を推進するうえで非常に有用なプロセスとなります。
まとめ
どうしてもアカデミックになりがちなUXデザイン。興味や問題意識はあっても、業務に取り入れるための理解の難しさから躊躇している方も多いのではないでしょうか。
前回、今回とご紹介してきたように、Webマーケターのみなさんが普段意識しているユーザーへの心配りを大切にしていれば、専門知識やノウハウがなくても、できる範囲で、わかるところからUXデザインの考え方や手法を業務で活用できます。その際には、「属人性に頼らず組織的に継続できる取り組みにする」「できるだけ客観データに基づいてユーザーを想定する」というポイントを忘れないようにしてください。
【参考文献】安藤 昌也 (2016) 『UXデザインの教科書』 丸善出版
【図版作成】星川 萌美(株式会社コンセント)
前編:【まずは基本から】Webマーケティングに必要な「UXデザイン」ってなんだ?
UXデザインを取り入れたサイト制作の事例として、食品メーカー・はくばくとコンセントが共同で進めたオウンドメディア立ち上げプロジェクトについて紹介します。