アナログ施策の重要性を実感したシャノンの「失敗事例」とは
では最後にアナログ施策による顧客の「引き上げ」はどうだろうか。中村氏は「顧客の課題がまだ明確ではなく、ブランド認知もない場合、デジタルよりもアナログ施策に注力したほうが良いと思います」と語る。というのは、シャノン自身、デジタルマーケティングに舵を振り切って失敗した例があるからだ。
中村氏によると、シャノンがデジタルマーケティングに振り切ったのは2年前の2016年だという。当時同社は、展示会出展やセミナー数を削減して人件費をすべてデジタル施策の予算に回し、デジタル広告やSEO、ランディングページの改善などを行った。その結果、2015年度と比べて2016年度の資料請求数は248%、2017年度も324%と大きく伸びたという。
「ところがこのマーケティング部の成果は、会社の業績と必ずしも結びつきませんでした」
それはなぜか。中村氏は、「認知、興味・関心、比較・検討、商談というプロセスの中で、デジタル広告が得意なのは最後の刈り取りの部分です。しかし、興味・関心フェーズで競合が啓蒙活動を展開している時、刈り取りに注力するあまり、競合が作り出したマーケットで勝負をせざるを得なかった。そのため比較・検討フェーズでは第一候補となれず、『一応』という扱いをされ、問い合わせは多かったものの、勝率が著しく低くなったのです」と分析している。
商材や提案内容にもよるが、「課題を顕在化したのは誰か」という事実は、最終的な刈り取りフェーズでも大きく影響する。特に、セミナーや展示会など、人と人が直に接するアナログ施策での啓蒙活動は有効だ。
アナログ施策回帰で得られた成果
こうしたことから、シャノンでも改めてアナログ施策への再注力を決意。具体的には、定期セミナーの開催、外部リアルイベントへの積極的出展、ホワイトペーパーのフォローセミナーやインサイドセールスによる長期フォローという4つの施策だ。
特に啓蒙活動において、実際に時間を割いてもらうリアルイベントやセミナーの役割は大きい。たとえば動画コンテンツを30分継続して閲覧してもらうことと、セミナーの講演を30分聞いてもらうことを比較すると、後者のほうがしっかりと内容を把握でき、定着率も高くなる。実際、現在と2017年の同時期を比較すると、新規顧客獲得件数が147%と大きく向上しているそうだ。
2017年4月に東証マザーズに上場したECサイト支援システムのテモナも、「これから通販を始めたい」という層に対してリアルセミナーを開催し、近い距離でコミュニケーションを取ることを重視しているという。同時に、Web訪問などのデジタル行動もトラッキングして長期的なフォローができる体制を築いている。これによりエンゲージメントを高め、成果を上げているという。
中村氏は最後に「数々の事例を考えると、デジタルとアナログの組み合わせとして、顕在課題をフォローする、名刺を再活用する、アナログで引き上げる、という順番で実施することが重要。これにより手応えを得ながら、マーケティングプロセスの仕組みをより洗練できると思います」と述べ、講演を締めくくった。