P&G時代に学んだ、2つのこと
廣澤:しかしその軸やフレーム、指針を作ることが、一番難しいことだと思うのですがいかがでしょうか? たとえば、社内で共通言語を新しく一つ作り浸透させるにも、時間と労力が非常にかかる。P&Gならではの、みんながそれぞれ持っている基本的なマインドセットは何かあったのでしょうか?
井上:色々あると思いますが、私が大事にしている基本は2つあります。1つが「OGSM」というフレームワークで、プロジェクトを「目的:Objective」「ゴール:Goals」「戦略:Strategies」「評価:Measurements」という大枠の順番で考えるというもの。手段が目的になり、そもそも何がしたかったのか迷子にならないよう、物事を整理して考えましょうという考え方がコアになっています。

もう1つが、特にコミュニケーションをする時に「Who What How:誰に対して何をどのように伝えるのか」を考えるようにしていました。3つの要素が重なり合うことで、初めて自分の商品の魅力が消費者に伝わり、愛していただけているのです。そしてそれぞれの要素を広げていこうという考え方です。これらを常に頭に入れて整理していくと、マーケティングもコミュニケーションも、よりスマートになるとP&G時代には教えられました。
キャリアを「コントロール」することと「偶発性」
廣澤:最後のテーマは「働き方と生き方」です。皆さんは、キャリアにおける成功ってなんだと思いますか。
井上:自身のキャリアをコントロールできることですね。社内での仕事や転職、家庭と仕事の両立などを、自分の意思でコントロールできることが私にとっては成功なのかなと思います。
野口:私は「やりたいことをやり続けられること」だと思います。会社の中でやりたいポジション、プロジェクトをやり続けられている状態はまさにコントロールできている状態に近いと思います。
越智:自分のやりたいこと、好きなことに関わって生きていけることが大きいと思います。日本コカ・コーラでコミュニケーションに関する仕事に携わり、自身が携わった企画で消費者の方が喜んでくれたのをTwitterなどで目にし、心を動かせたかなと思った時にBtoCのコミュニケーション設計がとても好きなんだと思いました。

もちろん資本主義の国なのでただ「やりたいこと」をやるだけでなく、やりたいことでお金を頂けることが成功のひとつと言えると思います。
廣澤:では、最後に今回のディスカッションのまとめをしたいと思います。皆さんの話から “Planned Happenstance Theory(計画された偶発性理論)※” ということが重要なのかなと思いました。今回のセッションで1つキーワードとなったのが、「自分のキャリアをコントロールする」ということ。Planned Happenstance Theoryはそれとは対極の理論で、キャリアの80%が予期せぬできごとによって決められているというものです。
全部のキャリアを自分でコントロールするのは実際には不可能だと思うのです。偶然声がかかって起業することもあれば、一緒に仕事をした企業から引き抜かれることもあるわけです。こうした偶然は自分のキャリアプランには組み込めません。しかし、パネラーの3名は理想のキャリアプランに近づけることができています。そこには「越境性」、つまり自分で偶発的なチャンス、セレンディピティを積極的につかむことで、コントロール可能な領域を拡大することができているのだと思います。
良い偶然と出会うための5つの条件に「好奇心」「持続性」「楽観性」「柔軟性」「冒険心」があります。今回のセッションでは「好奇心」と「冒険心」をもとに、自ら行動を起こしている話が多くありました。つまり、そこを意識して動けるかどうかが、マーケターの今後のキャリアを考えていく上で大事なのではないでしょうか。
※【出典】 Kathleen E. Mitchell Al S. Levin John D. Krumboltz,JOURNAL OF COUNSELING & DEVELOPMENT,“Planned Happenstance: Constructing Unexpected Career Opportunities”, 1999
