コミュケーションや交渉力に弱い日本人
西口:前編では、石谷さんのキャリアとそれぞれの分岐点での考え方を教えてもらいました。ここからは一昨年から参画されているUCCでの役割についてお聞きしますが、同社で初めての女性役員に抜擢されたんですよね?
石谷:そうですね。それも含めて、外部の経験や考え方を活かした提言を求められていると思っています。実際、事前のトップや経営陣との面談でも、新しい視点を持ってきてほしいと言われましたし。男女というよりは、違う経験値を持つ人間が入ってくることがダイバーシティだと考えられていますね。
西口:長くP&Gにいた後に、歴史ある日本のオーナー企業にジョインしたのは、ちょっと意外でした。決め手はなんだったんでしょう?
石谷:ひとつは、さすがに自分が実務を担う段階でもなくなってきて、後進を育てていくことを考えると、日本企業に貢献したいという思いがあったことですね。米国本社では若い人もすごく上昇志向や交渉力が高く、方や日本人はいいものを作れば売れるという考えがまだ強くて、人は優秀なのに伝える力や交渉力がいまひとつだから抜きん出られない現状があるなと感じていました。
西口:それは、僕も強くそう思いますね。もったいない。真面目すぎて、1から10まで抱え込んでしまうところとかも。
石谷:そうなんですよね。そんな経験から、もし転職するなら日本企業というイメージは持っていました。もうひとつは、そんな折にお声かけいただいてオーナーである上島家の方々とお話ししたとき、オーナー企業にかける思いの深さに感動したことです。当たり前のようですが、オーナーだから、私たちのように転職したりイヤなら辞めたりという選択がないわけですよ。絶対に、守っていく。
オーナー企業の良さを活かしながら変革していく
西口:なるほど、僕もロート製薬でオーナー社長の下にいたから、わかる気がします。P&Gのマネジメントやリーダーシップは、それはそれで強いけど、創業家の社長のコミットメントはやはり次元が違う感じはある。
石谷:そうなんです。その上でやはり変わっていかなければいけないと、私のような外の視点を求められていたので、力になれるのなら、と思ったんです。
西口:特に外資から日本企業だと、望まれて入ったのに実際は聞く耳をもってくれなくて、残念ながらうまくいかないケースもしばしば聞きますよね。入ってみて、戸惑いとかはありませんでしたか?
石谷:そうですね、ないですね。もちろんカルチャーが違うので、ある程度は空気を読んでいるつもりですが…、でも少し時間が経ってから「石谷さんのあの意見、実はすごくびっくりしましたよ」とか言われたりするので、周りはどうなんでしょう(笑)。ただ、最初から「こういう人なんだ」と思われたほうがやりやすい気はしますね。
西口:なるほど(笑)。経営の観点でも上司としても、何か今のポジションで気をつけていることは?
石谷:ビジネスでいうと、もしこちらに意見や提案があっても、すぐには動かない。言うタイミング、言い方、言う場所、みたいなことはやはり気をつけないといけないと思っています。