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事業の軸足を転換したアルペンでの経験

――帰国後はマッキンゼーでのコンサルタントを経て、2005年にアルペンに参画されています。事業会社側に移ったのは、どういう意図があったのですか?

 私は名古屋出身なのですが、アルペンは名古屋の会社で、そこで経営改革できる人材を探していたんです。アルペンはスキーブームが過ぎた後の市場縮小に直面し、マーケティングに重大な課題を抱えていました。そこでの事業転換に携わるのは、やりがいがあるだろうと思ったんです。また、会社の改革をする修羅場的な経験がなければ、本当の意味でマーケティングとテクノロジーを統合する見方ができず、近視眼的な間違った判断をしてしまう事例をコンサルタントとして数多く見てきたことも、アルペンの仕事をやろうと思った動機でした。移った当時はまだ36歳だったのですが、その年齢でそうした経験ができる機会はあまりないと思ったのです。

――どのような転換をされたのでしょうか?

 当時は総合スポーツ用品店のスポーツデポやゴルフ専門店もありながら、まだ名実ともに“スキー用品の会社”で、社員も皆ウィンタースポーツが大好きな人たちばかりでした。事業の軸足を変えなければと言っても、誰もピンときていなかった。でもスキー人口は最盛期の20分の1になり、世の中は確実に変わっていました。

 そこで、2つのことを行いました。ひとつは、総合スポーツ用品企業への転換。もうひとつは、プライベートブランド(PB)の強化、すなわちSPA化です。スポーツ小売業界はどうしてもメーカー側の利益分配が大きく、小売りは儲かりにくい構造があります。その中でアルペンがスキーで好調だったのは、いくつかのメーカーのスキー用品部門を買収して、元々自分たちでも生産を手がけていたから。そこでPB路線は踏襲し、クオリティは2万円クラスのテニスラケットを5,000円で販売する、といった価格破壊でユーザーを獲得していきました。当時ユニクロが大きく伸びていた時期だったので、スポーツ用品のユニクロを目指そうと号令をかけ、“イグニオ”などの新規ブランドを立ち上げました。当時はPBで25%の売上獲得を目指していましたが、最近聞いた話ではもう50%を占めていて、業績も安定しているそうです。

マーケティングの基本を社員に浸透させた

――その状況下での転換となると、社内の意識統一も大きなハードルになったのでは?

 そうですね。非常にベーシックですが、マーケティングとはどういうことなのかを体感してもらうことを心がけました。メーカーのほうだけを見ず、世の中で売れているものを見よう、と。毎年のトレンドがどう生まれるのか、情報収集の仕方を学習する仕組みを会社として作ったんです。

 アパレルなら当たり前ですが、アルペンもゴルフウェアやスポーツウェアを扱っていましたし、PBならなおさらトレンドをキャッチするのは重要でした。同時に、プライシングの調査の仕方なども勉強しました。結果、スキー用品のPBがうまくいっていた素地もあって、総合用品もブレイクして過去最高益になり、私が来た翌年の2006年にいきなり東証一部に上場できたんです。

――そうなると、社内も盛り上がりますね。きちんと学べる仕組みができ、結果もついてきたから好循環が生まれたのですね。

 そうですね。他にも当時はアディダスやナイキが直営店を出したり、路面店より大型ショッピングセンターへの出店が集客上で有利になってきたり、そもそも少子化でスポーツ人口自体が減ったりと、スポーツ用品業界の構造変化が起こっていました。

 すると自分たちもショッピングセンターを重視し、また大人がスポーツ用品を買うときのついでにウェアも、子どもの物も、と買い回りができるようにしたほうがいい。さらに、たとえばジャージには日常着の側面もあるので、「スポーツデポに行くと少しおしゃれなジャージや靴下も安く買える」と認識してもらえるようリブランディングしていきました。

 顧客データも重視して、アルペンで独自のロイヤルティプログラムを作る一方、登場したばかりのTポイントを導入しました。当時は本当にまだ10社程度の初期メンバーでしたが、TSUTAYAでスポーツ雑誌を購入した人にDMを送るといったOne to Oneの施策が奏功し、これもまた売上に大きくプラスになりました。

新しい取り組みの決断は顧客の感覚が拠りどころ

――Tポイントもそうですが、新しい仕組みは成功の定石もなく、躊躇されがちです。どう決断されているのですか?

 たしかに、成功事例が出るまで待つ企業が大半だと思います。情報収集は基本として、私がマーケティングの中でいろいろと新しい仕組みや技術を取り入れるときの根拠は、周囲の企業の動向より、お客様がどう感じるかという観点にあります。これもベーシックなマーケティングだと思いますが、様々な手法で顧客に聞いていくと、その仕組みや技術が本当に求められているのか、売上につながるのかの“確からしさ”が上がってきます。その調査方法は、マッキンゼーで学んだものですね。

 そうして着実に、かつスピーディーに調査して、これは大丈夫だと確信できる方法を採ると、大きくは失敗しません。当然やってみないとわからないことは多いのですが、わかる範囲できっちり調べることが8割、9割じゃないかなと思います。実は、大きく伸びるというのはそういうことに基づいているのだろう、と。

――なるほど。和田さんは経営者のご経験もありますが、CMOに求められる条件とキャリアパスをどうお考えですか?

 CMOがしっかり機能するには、CEOとどれだけ密になり、会社全体を考えた判断ができるかが大きく関わります。マーケティングのことだけを考えて構築したマーケティング戦略では不十分で、失敗を招くことも多いと思います。

 なのでマーケティングの経験というより、子会社の社長や支店長、極論では店長でも、自分がひとつの組織のトップとして苦しむ経験が必要です。ひとつの組織やチームの中でトップを務め、PLと権限を持ち、自分で何かを最終決断して結果責任を負って、のたうちまわる。その経験がないと、CMOとして正しい判断ができず、会社全体を動かしていくというマーケティング本来の活動を実践できない時代だと感じます。

 経営トップは当然、ITや情報システム、人事も見る。マーケティングは人の心にとても影響しますが、トップとしては社員のマインドも含めて働きかけて動かすことも範疇です。そうでないと、最終的に会社全体の運動論として前進させられないので、CMOになる人は一度はどこかで、自分で最終決断を下す立場になることが大事ですね。

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事実か、意見かを明確に 科学的なリーダーシップを発揮

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/12/25 13:00 https://markezine.jp/article/detail/29958

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