「このサービスが広がれば、世の中が変わる」
——2022年は、御社にとって上場という大きな節目を迎えた年になったと思います。はじめに、石川さんは創業初年度に参画されたとのことですが、2015年当時はまだまだ生活者の理解が低かったサブスク型のサービス、しかも洋服のレンタルという事業になぜ飛び込まれたのかをうかがえますか?
おっしゃる通り、当時はとても新規性の高いサービスでした。サブスク型で、しかも第三者のプロのスタイリストが選んでくれる、この2つの掛け合わせが生活者に新しい行動を生み出していくと直感したことが、参画の理由です。
私は新卒で野村総研インドに入社したのですが、ネット広告でエアークローゼットのティザーサイトを偶然知ったときも、インドにいたんですね。当時は“シェアリング”という言葉が出始めてはいたものの、お洋服はやはり店舗で見て買うことがスタンダードだったので、もしこのサービスが広がったら生活者も変わり、世の中も変わるだろうとワクワクしたんです。それで、天沼(創業者で社長の天沼聰氏)に連絡をとったのがきっかけでした。
——そうだったんですね。ある程度の事業の勝ち筋や、自分が事業を伸ばせそうだという見込みに基づいているのだろうと想定していたので、意外です。
天沼と最初に話した際、事前登録は相当伸びていると聞いていたので、新しいコンセプトでも潜在的な需要があるのだな、とは思いました。安定的に実現するのは難しそうでしたが、だからこそ、実現できたら最高じゃないかと。人ができないことをやろうとしているからこそ価値があると思って、参画を決めました。エアークローゼットの企業理念である「新しいあたりまえを創る」に共感したことも、大きな理由です。
広告に依存しない計画的なグロースが課題に
——現在、月額制ファッションレンタルサービス『airCloset』を筆頭に、複数の事業を展開されています。概要をおおまかに教えてください。
『airCloset』のほか、スタイリストが提案する商品を自宅で試着して購入できる提案型ファッションEC『airCloset Fitting』や、オンラインでパーソナルスタイリングを受けられる遠隔パーソナルスタイリングサービス『airCloset Talk』、メーカー公認月額制レンタルモール『airCloset Mall』のサービスを展開しています。また、不動産のエイブルさんとコラボしたレンタルショップ店『airCloset×ABLE』も運営しており、こちらでもスタイリストの提案を受けることが可能です。
主軸の事業である『airCloset』は、初回の「ファッションタイプ診断」でユーザーの好みを把握して、以降はスタイリストが選んだお洋服をお届けしていく仕組みです。いちばんライトなプランは税込7,800円で、月に3着届き、毎月交換ができますが気に入ったお洋服があったら着続けていただいてもいいですし、そのまま購入することもできます。どのプランでも、返却時のクリーニングなどは不要です。現在約300ブランド・35万点以上のお洋服をそろえ、有料会員は3万人、スタイルなどの閲覧やエコセールへの参加が可能な無料登録会員は80万人を超えました(2022年9月末時点)。
ユーザーの属性は、20代後半~40代の方が72.3%で、お仕事をされている方が9割以上ですね。また、お子様がいる方が6割以上で、なかなか店舗でゆっくりお洋服を選ぶ時間がない方に多く利用されていると捉えています。
——それまでほとんどなかった「洋服をレンタルする」市場をどう切り開いていったのか、初期からの伸長の要因や、工夫したことなどを教えてください。
これまでも、貸衣装やドレスの単発レンタルはありました。ですが、僕らのような日常のお洋服で月額制のサービスはなかったので、発表した時点でティザーサイトやプレスリリースが多くの人の目に留まり、PRと口コミで認知が広がっていきました。最初はむしろユーザーが集まりすぎて、お洋服の仕入れやスタイリストの確保などのオペレーション構築に苦労しましたね。
2018年ごろから基盤ができてきたのですが、メディアに取り上げられるたびにウェイティングの方が出てしまう状況はまだあって。『airCloset』のモデルは、ユーザー数を予測し、先にお洋服を仕入れておいてサブスクで回す形なので、中長期的なグロースには計画的なユーザー増が必要だという壁に直面しました。そこで本格的に、マーケティンググループを立ち上げました。
——公表されている会員数の伸びを拝見すると、全体的に右肩上がりの中で、特に2019年に急激に伸びていました。これがちょうど、マーケティング発足の翌年なんですね。
はい。計画的に新規顧客を獲得していこうと、デジタルマーケティングを中心に様々な施策を打ち、失敗もたくさん重ねながらPDCAを回した成果が現れてきた時期でした。