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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

マーケティングを経営ごとに 識者のInsight

膨大なユーザーインタビューから顧客心理を知り、V字回復へ。エアークローゼットの市場創造への挑戦

新たな市場を創造する苦しみ

——マーケティングに注力する中で、具体的にどういったところが難しかったですか?

 第一に、2018年時点でも「お洋服の月額制レンタル」という概念自体が世の中にほぼなかったこと、また第三者に選んでもらうこともめずらしかったので、サービス内容が伝わりづらいことが大きな課題でした。

 初期の会員の方々は、ファッションに強い関心がある、いわばアーリーアダプターの方々です。グロースのためには、そこから広げてマジョリティ層にリーチしていくことが不可欠でしたが、その際にサービスの理解が壁になりました。説明しても「何それ?」という感じで。新しい市場やカテゴリー自体をつくることが、いかに難しいかを実感しました。

 CPAとLTVの検討や計測環境の整備、またマーケティングというよりは全体の話ですがコスト削減にも取り組みながら、どう訴求するとよいかを考えて、クリエイティブを大きく変更したんです。これが成長の弾みになりました。

——クリエイティブをどのように変えたのですか?

 以前は、サービスが伝わりづらいだけに、丁寧に説明することに終始してしまっていたんですね。それを止めて、感覚に訴えるアプローチに転換したんです。お洋服を一目見て、「かわいい!」と直感してもらい、「これを着られるの?」とサービスへの興味を引く。説明は、その後にするというコミュニケーション設計に改めました。

 ヒントになったのは、同じ20~40代女性に支持されている食の領域のサービスでした。サブスクなので一定の説明が必要ですが、まだ知らない人や非会員向けと思われるLPでは、トマトなどの鮮やかな野菜がどーんと打ち出されていたんです。まさに「おいしそう!」と直感し、それでLPに誘導する。

 僕らのサービスは衣食住でいうと「衣」ですが、理詰めで機能的な便益だけを選ぶわけではない、心に作用するようなところは「食」とすごく似ていると思ったんです。人の根源的な欲求にいかに訴えられるかが重要なのでは、と仮説を立てて試した展開がヒットし、マジョリティ層を獲得できて、大幅な成長につながりました。

コロナ禍におけるユーザーの心理変化をつかんだ

——その順調だった成長が、2020年にコロナ禍に突入して落ち込み、またV字回復しています。ここでの取り組みは?

 リモートワークが広がり、また外出自体を控えるようになった影響で、有料会員がいったん減ってしまったんです。そこで改めて、ユーザーインタビューから『airCloset』のメリットを探ってみました。

 これは、ある意味で衝撃でしたね。「家から出ないからお洋服はあまり要らないです」と聞き、お洋服が要らなくなったら僕らのサービスも要らないじゃないか、と思い至って愕然としました。

——サービスの根幹が揺らいでしまった。

 まさに。メディアでは「ファッションレンタル」と取り上げられることが多いのですが、インタビューでは「レンタルと言われても要らない」と答える人が少なくありませんでした。ただ、僕らのサービスの特徴は決してレンタルだけではなく、サブスク型で、かつパーソナルスタイリングをしてもらえることも大事な柱です。この3つの要素によって、“エアー”のクローゼットの中にあるたくさんのお洋服から、感動するような出会いを楽しんでいただける。中でも「プロがあなたのために選んでくれる」ことを訴求の中心にしていきました。

 また、外出が減ったからこそ「月1回くらいはおしゃれをして出かけたい」といったニーズが顕在化していたので、ライトなプランに訴求を切り替えました。これらを通して、2020年内のうちにV字回復することができました。

(タップで画像拡大)

——「誰に」届けるかは以前と同じでも、その方々の心理の変化を捉えて施策に転換したわけですね。

 そうですね。ただ「誰に」といっても、実はこの時期に初めてWHOとWHATをしっかりと定義したんです。本当に誰に届けるべきか、その方々にとってのメリットは何なのかをシャープにした結果、今この状況下で魅力を感じていただける提案や訴求に絞り込めました。

——お話をうかがっていると、やはり市場そのものを創ろうとされている分、一般的にマーケティング部が担う範囲よりもだいぶ広い領域を見据えられているように思います。MarkeZineでは「マーケティングを経営ごとに」と掲げ、4Pだけ、まして販促だけに閉じない役割だと考えているのですが、実際にはプロモーション推進のみを担う場合も多いと思います。

 確かに、僕らが取り組む範囲はそれよりはだいぶ広いですね。担当領域について、このような図で整理しています。市場創造にも販促や4Pも含みますし、僕らも初期は販促寄りのマーケティングに寄っていたと思います。次第により広い視野で、ブランド構築や市場そのものの理解に注力していきましたが、かといって販促をしないわけではないので、図の左上から右下の赤い枠までを振り子のように行き来している感じです。

 同時に、やはりサービスに価値を感じ、長く使い続けていただける方とつながりたい。とにかく新規獲得すればいいという考え方から、現在は中長期的な視点で僕らが貢献できる方に出会えるよう、LTVの最大化に向けて集客方法も見直しています。

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常にビジョンに立ち返れるいくつもの仕組み

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/01/04 09:30 https://markezine.jp/article/detail/40609

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