単なる好感度ではないキャスティングが必要に
今回ランクインした施策全体の傾向としては、SNS上で人気の「コンテンツ」(ex:銀魂・進撃の巨人)や「人」(ex:乃木坂46・三代目 J SOUL BROTHERS)とコラボレーションしている事例が多いことです。この傾向は年々強くなっていると感じます。
既にエンゲージメントポテンシャルが高いコンテンツや人とコラボレーションすれば、当然SNS上での大きな反響が期待できます。テレビCM全盛期には“好感度が高い”タレントを起用することが一般的でしたが、昨今ではテレビCMを見ない層も増えています。そのため、SNS上での影響力があり、エンゲージメントポテンシャルが高いコンテンツや人を起用する流れが強まっています。
余談ですが、特に「銀魂」は2018年に大きなエンゲージメント数を稼いだコンテンツの1つです。理由は先程のau広告の影響と映画のヒットにあります。
映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』は、同年公開のその他の映画と比べて圧倒的なエンゲージメント数を記録しました。SNS投稿の内容をざっと見た限り、(「銀魂」映画が実写映画だったことで)「このキャラクターは誰が演じるのか?」という話題が数字を押し上げたようです。au広告での「公式アンサー」ネタに加えて、この「配役憶測ネタ」があったことで大きなエンゲージメントを生んだと分析できます。
アニメや映画における「配役憶測ネタ」は昔から根付いているファンのネット上での遊びなので、実写化を機に必ず発生するこの種のトレンドをプロモーションに活かすのも1つの手かもしれません。
イシューに対するリアルタイム・レスポンスが話題に
広告・プロモーション施策とは言えないかもしれませんが、生活者の共感を呼ぶ情報発信でエンゲージメント数が急増した象徴的な事例を、2つランキングに反映させています。それは、キングコング西野氏による「リベンジ成人式」とHIKAKIN氏による「西日本豪雨募金への呼びかけ」です。
振り袖の販売・レンタルを行う「はれのひ」が成人式前に無断で営業停止したため、成人式当日に予約客が振り袖を着られなくなった「はれのひ事件」。キングコング西野氏は、その事件の直後、自身が全額負担する「リベンジ成人式」の開催を発表したことで大きな話題になりました。
一方HIKAKIN氏は、西日本豪雨の最中に、動画の中で自身もYahoo!募金の上限額である100万円を募金しながら視聴者に募金を呼びかけたことでエンゲージメントが起きました。ともに、広告媒体は一切使っていません。ブログやYouTubeなどの個人のアカウントからシンプルに情報発信しただけです。
2人の知名度、エンゲージメント力による効果はもちろんありますが、私はこれだけの反響を生んだのには2つのポイントがあると考えております。そして、そこからプロモーション戦略を考える上での重要な示唆が得られます。
1つは、「イシュー(社会課題・問題)に対するアンサー」であったこと。「はれのひ事件」の被害に遭い、成人式に振り袖を着られなかった新成人がいるというイシューと、「西日本豪雨」に見まわれ、土砂災害などでたくさんの被災者の方々がいるというイシュー。そういった世の中の重大な関心事に対して、生活者から共感や感心されるアンサーを示したことで大きな反響を得られました。
2つ目は、「リアルタイム・レスポンス」であったこと。世間の問題意識が高まっているまさにその時、即アクションしたことです。次々と発生する新たな情報に情報が押し流されやすい昨今、リアルタイムに即応したからこそ事件への関心がそのままエンゲージメントにつながっていったと考えられます。
企業組織の意思決定では、このようなリアルタイムの取り組みは当然難易度が高くなります。ただし、各社のSNSアカウントの運用体制も、数年前と比べると現場の裁量で動ける企業が増えたように見受けられます。2019年はこのような柔軟なリアルタイム・レスポンスが取り組みとして増えていきそうです。