「あほちゃうか」と言われながら立ち上げたボイスメディア

――創業期と比べて、「音声」に対する世の中の認識に変化はありますか。
緒方:大きく変わりました。会社を立ち上げたときは、まさに動画全盛期。クラシルなどの短尺動画が生まれ、VRにも注目が集まっていた時期でした。ですので、みんなに「あほちゃうか」とつっこまれましたね。
メディアの広告に関しても、DMPが登場し、空いている枠にどんどん広告を入れていく流れでした。高い費用を払った人の広告が多く出てくるようになっていて、メディアを作っている本人も、どんな広告が載るのかわからない。「クリック率が高ければいい」という雰囲気もありましたよね。そのような流れの中で、一見訴求力が少ない「音声」で起業したため、「本当にそんなサービスでいいの?」とはすごく言われました。
弊社は今年でちょうど3年目なのですが、最近「昔から音声は来ると思っていたよ」と言う人が増えました。まるでオセロのように手のひらがひっくり返っていく感じです(笑)。
――そうした逆境がともなう中で、「音声」にこだわり続けてきたのはなぜでしょうか。
緒方:「声」の魅力を活かしたかったからです。声は、メディアの中でも「好き」がものすごく含まれる商材だと思っていました。「声がいいね」と言われたら嬉しいし、信頼されているのだと思える。声を聴いただけで好きになる、ということも起こります。聞けば聞くほど好きになったり、じわじわ馴染んでいったりと、心への訴求力が高い点に注目していました。
たとえば、嫌々「ありがとう」と言ったら、「なに、その言い方?」と怒られたりすることがありますよね。活字だと、そういうことは絶対に起こらない。声には、その人の感情や健康状態、前後の文脈といった情報が含まれています。A=Bのインフォメーション以上のものを届けられるという点では、活字や動画以上に情報量の多いメディアです。
音声コンテンツはフローではなく「ストック」
――「音声」の強みをマーケティングに活用すると、どんなことが可能なのでしょうか。
緒方:音声が向いている領域は、ブランディングに近いのかなと思っています。じわじわとファンが増えていくので、ブランドリフトをしたい企業とは相性がいいですね。ラジオで流れた「スジャータ」や「タケモトピアノ」のCMって、一度覚えて好きになったら、ずっと好きなままではないですか?
その場ですぐクリックしてもらいたい場合は、間違いなく動画です。でも、5年間ずっと好きでいてもらって、人生で1回買ってもらいたい場合や、嫌な思いをしてほしくないというときに、音声はすごく向いている。その意味で、音声コンテンツはフローではなく、ストックと考えるべきです。
実は「ラジオは様々な通販のチャネルの中でいちばん返品率が低い」というデータもあり、カーテンや扇風機など、なんでも売れます。音声には「この人が勧めているなら買いたい」と受け入れてもらいやすい側面があると思います。
盛り上がるコミュニティをどうスポンサードすべきか
――ボイスメディア「Voicy」はマーケティングにどのように活用されていますか。
緒方:現在、2つの方法で企業のマーケティングをお手伝いしています。ひとつは、自社でチャンネルを開設する方法。たとえば、毎日新聞やスポニチさんのチャンネルでは、パーソナリティオーディションを実施し、チャンネルの構成を検討したり、運用をサポートさせていただきました
もうひとつは、パーソナリティのスポンサーになるケース。たとえば経沢香保子さんの「仮想銀座高級クラブ『かほこ』」に、スポンサーとして武田コンシューマーヘルスケアさんの「アリナミンRオフ」がついていたときは、彼女の放送を聞いたリスナーから、「アリナミン飲んで寝ます」というコメントが寄せられていました。
スポンサーコールも放送内容も、基本的にはパーソナリティに任せているのですが、リスナーには、「彼女と私たちのコミュニティを支えてくれているブランドだから応援しなきゃ」という考えができています。野球チーム「ヤクルトスワローズ」のファンだから、ヤクルトを飲んで応援しているというのに近い感覚だと思います。
なぜこうした雰囲気が生まれているのかというと、コンテンツに対してリスペクトがあるから。ボイスメディア「Voicy」では、スポンサーとパーソナリティはマッチングの形をとっていて、スポンサーにはコンテンツに口出ししないようお願いしています。コンテンツと人が喜ぶことがあって初めて、そこにスポンサーがつくのであって、スポンサーがつくからコンテンツがあるわけではないのです。
スポンサーが偉いのではなく、パーソナリティとリスナーのそのコミュニティが一番。それを支える役割としてスポンサーがいるというくらいが、いちばん好きになってもらえると思います。