ブランドの「知覚価値」を構成する“生活者主語”と“ブランド主語”
ブランドの定義と重要性について語った山口氏が、次に挙げたテーマが「ブランド戦略」の定義と成功のためのヒントだ。ブランドを構成する要素の1つ「知覚価値」のとらえ方が重要なのだという。
「マーケティングには『商品・サービス』『プロモーション』『販路』『価格』のいわゆる“4P施策”があります。具体的なマーケティング施策に一貫性をもたせるのに欠かせないのが、先ほど紹介したブランドの『識別記号』と『知覚価値』を踏まえたブランド戦略です。
商品やサービスを提供する側の企業は、えてして優れた商品・サービスにこそ“価値”があると考えがちです。ところが顧客側は『知覚認識』で商品やサービスを選びます。つまり商品・サービスではなくて、“知覚”にこそ価値があるわけです。優れた商品・サービスは、知覚をつくるための事実・エビデンスの一つです。この違いを認識することが大切です」(山口氏)
ここで山口氏は「ブランド知覚価値」の構造を図式で説明。「生活者主語の知覚価値」と「ブランド主語の知覚価値」とに分け、生活者主語の知覚価値として象徴的な顧客像や本音などブランドターゲットやインサイトによって構成されていると説く。
一方、ブランド主語の知覚価値を構成するのは核となる価値(コアバリュー)、人格としての印象(パーソナリティ)、物理的・心理的な便利さやメリット(ベネフィット)、裏づけになる論拠・事実・スペック(エビデンス)などだという。
「構成する要素が多いので、『ダイソン』を例に挙げるとダイソンの掃除機は理知的でハイテク製品好きというブランドターゲットがあり、高い吸引力の掃除機が欲しいというインサイト、生活者主語の知覚価値を満たしています。
さらに吸引力が下がらないというコアバリューや先進的・合理的なプロフェッショナルというパーソナリティのほか、十分なベネフィットやエビデンスも備えています」(山口氏)
「ターゲット顧客設定」は、ブランド戦略の一貫性を保つ生命線
山口氏が重視する一貫性のあるブランド戦略と、ブランド施策に欠かせないのが「ターゲット顧客」の設定だ。
「ターゲット顧客の設定にあたって、これもよく誤解されがちなのが顧客を絞りこむことで減らしてしまうことです。理想的なブランド戦略は、一貫性を保つとともにブランドの思想や世界観でユーザー像そのものを魅力的に見せることも必要だからです。
理想的なユーザー像を創出することで、企業とユーザーとがともにブランドを創出していくのが『ブランドターゲット』、ブランドターゲット像へのあこがれ、機能や性能、価格など多彩な切り口で購入へといたるターゲット顧客を『セールスターゲット』と位置づけます。セールスターゲットは市場シェアが高いブランドほど、購買理由の切り口の多彩さに応じて、複数の層を設定します」(山口氏)
ブランドターゲットとセールスターゲットとに分けた、具体的なマーケティング施策として次の2つが紹介された。
- リーチの広い企業主体の媒体は、ブランドターゲットを厳格に適用……テレビCMや企業・メーカーの公式ウェブサイト、企業・メーカー作成のカタログなどがこれにあたる
- リーチがせまく個別対応が可能な媒体は、セールスターゲットの適用も……セールスマンが作成する提案書、地域・エリアの事業所・営業所ごとのカタログ、ユーザー主導のウェブメディアなどがこれにあたる
この施策の具体例として紹介があったのが、生活者主語の知覚価値を構成する「インサイト」に訴えかけるチャンス喚起とリスク喚起のアプローチだ。
「この商品・サービスを使えばいいことがある、楽しいことがあると思わせる『チャンス喚起』、逆にこの商品やサービスを使わずに放置すると自分の生活の課題が解消できないかもと思わせる『リスク喚起』は、生活者主語の『インサイト』に訴えかける典型的なアプローチの1つです」(山口氏)
ブランド戦略の策定にあたって、山口氏が注意点として指摘するのが典型的な“失敗例”だ。
「最初に紹介した『識別記号』と施策の両方に一貫性があるかどうかが重要なチェックポイントです。ブランドのロゴばかりを整えても施策との一貫性がなければ、ユーザーの知覚に価値として蓄積されませんし、せっかくいい施策に取り組んでいてもロゴマークやカラー、キャラクターなどの識別記号との一貫性がないとこれまた同じブランドとして認識されません。よくある失敗例なので注意していただきたいですね」(山口氏)