リアルタイムCDPがもたらす価値
CXMを実現するための基盤にあたるのが、キーノート内で紹介されたAdobe Experience Platformだ。この日から一般提供開始となった。
Adobe Experience Platformは、CXMを実現するために必要な顧客プロファイルを格納・統合し、顧客体験を高めるためのアクションをリアルタイムで実行するための箱と言える。

各製品群と連携するイメージ
Adobe Experience PlatformはリアルタイムCDPという言葉でも表現された。CDP(Customer Data Platform)は、顧客一人ひとりのデータを収集・格納・統合するためのプラットフォームという意味合いで既に使われている言葉だが、リアルタイムCDPでは、顧客が何かしらのアクションを起こした結果を、まさに「リアルタイム」で収集・格納・統合し、顧客プロファイルをより鮮明にしていく。顧客体験を高めるために必要な顧客プロファイルを、リアルタイムで構築していく点がこれまでのCDPとの違いだ。
たとえば、サイト上の行動データを元にレコメンドへ反映させるなどは、既にできていることだ。一方店舗での購買行動をした顧客に対して、自動的にプッシュメッセージ送るなどは現実的には難しかったが、オンライン、オフラインの境目なくシームレスな顧客体験を高めるアクションができるという。先ほどのベスト・バイの事例はまさにそれらを実現した例だ。
リアルタイム以外にも、XDM(Experience Data Model)というデータ規格に則って設計されている点や、GDPR対策にもしっかりと対策されている点などが、Adobe Experience Platformの特徴として挙げられる。
各製品ごとの視点ではなく、顧客視点から施策実行
Adobe Experience Cloudなど各製品との関係性および、Adobe Experience Platformと連携することで実行環境はどのように変わるのだろうか。
Adobe Experience Platformを導入していない場合、各製品間の連携は共通のIDを用い、顧客の識別子だけを共有している状態と言える。
たとえば、Adobe Campaignを活用しマーケティングを実行する場合、顧客プロファイルはAdobe Campaignの中にある。顧客がサイトに訪問したタイミングでメールを配信するという施策を行う場合には、行動情報の取得はAdobe Analytics側となり、顧客がアクションを起こした段階で、データを渡し施策実行となる。
一方でAdobe Experience Platformを導入することで、各製品のデータはAdobe Experience Platformに格納されているので、データを取りにいけばよい。また各製品ごとのデータの受け渡しおよび個別でデータをもつ必要がなくなる。
これまでメール、広告など施策ごとに設定していたのを、今この状態の顧客にはこういう施策を打ちたいという、あくまで顧客の状態に合わせたフレキシブルな施策の実行が可能となるわけだ。そして全製品に対してアドビのAI・マシーンラーニング技術であるAdobe Senseiが連携し、学習を重ねることで施策の精度が高まっていく。
買収がもたらした新たな可能性
昨年買収したMagento Commerce、マルケトからのプレゼンテーションも行われた。それぞれAdobe Experience Cloudの製品群に統合されていくことで、これまで足りなかった部分が補なわれ、より良い顧客体験が提供できる可能性が示された。元マルケトのCEOでアドビではデジタルエクスペリエンス事業部門担当 シニアバイスプレジデントへ就任したスティーブ・ルーカス氏は、熱のこもった口調で次のように語った。

「デジタル時代となりBtoCとBtoBのビジネスの境目がなくなりつつあります。アドビとマルケトが連携することでBtoE(Everyone)が実現できると考えております」

あわせてマイクロソフトとのパートナーシップ拡大とLinkedinとの新たな連携も発表。アカウントベースドマーケティングを進化させた、アカウントベースドエクスペリエンスを加速させると強調した。
具体的には、マイクロソフトのMicrosoft Dynamics 365 for SalesやLinkedinとのデータ連携をすることで、企業単位ではなく企業内個人を特定し、より良い顧客体験の提供が可能になるという。

顧客体験という言葉が広まって久しい。2009年のオムニチュア買収を契機に、アドビは本格的にデジタルマーケティング領域へ参入したが、従来から顧客体験の重要性を主張していた印象だ。顧客体験を向上させるための手段としてテクノロジーの活用は不可欠。今回の様々な発表はもう一段上の顧客体験を提供するための道筋を、アドビは示したと言えるだろう。