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アプリは新しいチャネルではなく“ハブ” 最適な「個客」体験をつくり出すためには

 ECでも実店舗でも一貫した顧客体験を提供するためには、複数のチャネルを横断して顧客を一意に識別し、その購買履歴や行動を把握できるようにする仕組みが必要だ。その実現方法として、ランチェスターでは「アプリをハブにしたマーケティング」を提唱している。具体的にどのような効果が期待できるのか、同社代表取締役社長の田代健太郎氏が「ECzine Day 2019 Spring」に登壇し、事例を交えて紹介した。

なぜ一貫した顧客体験を提供できないのか

 優れた顧客体験は、顧客を正しく理解し、1人ひとりに対して最適なサービスを最適なタイミングで提供することによって生まれる。しかし、前提である「顧客を正しく理解する」というところでつまずいてしまうケースが実に多い。

 ランチェスター代表取締役社長の田代健太郎氏は、その原因として「顧客情報が各チャネルでバラバラに管理されていること」を挙げる。

「多くの企業では、ECや実店舗、コンタクトセンターといったチャネルが垂直に立ち上がり、顧客情報を管理するシステムもそれぞれのチャネルで作られています。こうした環境では、1人の同じお客様に対してもチャネルによって取得している情報が異なり、それぞれ連携もできていないので、そのお客様が同一人物であることを認識できません。その結果、提供するサービスも一貫性のないものになってしまいます」

株式会社ランチェスター 代表取締役社長 田代健太郎氏
株式会社ランチェスター 代表取締役社長 田代健太郎氏

 たとえば、店舗である商品を購入した顧客がECサイトに来た際に、購入済みの同じ商品をレコメンドに挙げてしまうようなことが起こりうる。これでは企業やブランド全体として、顧客にネガティブな印象を与えてしまうだろう。

 さらに、複数のチャネルでビジネスを展開していても、力点が特定のチャネルに偏ってしまっているケースも少なくないと田代氏は指摘する。

「チャネルを増やしたはいいけれど、顧客情報はバラバラで、力の入れかたもバラバラ。そのような状態では、1人ひとりのお客様に対して最適な『個客』体験を提供することはできません」

解決策は、アプリをハブにしたマーケティング

 こうした状況を改善するには、「アプリ」の活用が有効だと田代氏は主張する。ただし、どのような位置づけでアプリを導入するのか注意が必要だという。

「アプリを新しいチャネルと捉えて導入されているケースもよく見受けられますが、それでは分断されたチャネルがさらに増えるだけです。アプリを新しいチャネルではなく、既存のチャネルやシステムを統合する『ハブ』として位置付け、アプリを中心としたマーケティングを実践していくことが重要です。これにより顧客を『個客』として正しく理解することができ、最適な個客体験づくりを実現することができます」

 アプリをハブにして既存のチャネルやシステムが統合されれば、顧客を一意に識別してデータを取得できるようになり、MAツールなどを使ってさまざまな分析や行動履歴に基づいた適切なコミュニケーションも可能となる。

最適な個客体験をつくり出すアプリの活用例

 アプリを中心としたマーケティングとは、具体的にどのようなものなのか。田代氏は5つの事例を紹介した。

アプリ会員証で店舗とECのポイントを一元化

 顧客の利便性向上はもちろん、より精度の高い顧客データを収集するためにも有効なのが、店舗とECのポイントサービス一元化だ。ポイントカード機能を持つアプリ会員証を導入することにより、とくに実店舗での会員登録促進が期待できる。

「インストール時にアプリIDが自動発番されるようにしておけば、ポイントカードIDと紐づけることで、従来のような手書きの申し込みも不要となります。店舗で初めて買い物する際にアプリをインストールし、その日からポイントを貯め、後日ECのアカウントを紐付けるといったことも可能です。また、財布がかさばるために従来のポイントカードを敬遠していたようなお客様も取り込めます」

顧客は店舗とECのどちらで購入しても共通のポイントサービスを受けられる
顧客は店舗とECのどちらで購入しても共通のポイントサービスを受けられる

商品カタログを軸に店舗とECをつなぐ

 買い物をする顧客のニーズとして「ネットで見つけた商品を店舗で実物を見て購入したい」というものもあれば、逆に「定番商品なのでネットで今すぐに買いたい」というパターンもありうる。

 いずれも軸になるのは、アプリの商品カタログの機能だ。アプリの機能として商品の基本データに加えて、店舗在庫の表示およびショッピングカート(決済機能)を持たせることで、どちらのニーズにも対応できるようになる。

既存コンテンツを集約・活用

 ブログやSNS、オウンドメディアなど、さまざまなコンテンツを運用し、タッチポイントの拡大を図る企業も増えてきた。一方で、顧客にとっては「必要な情報を得るためにどこを見ればよいかわからない」といった状況も生まれている。ランチェスターが提供するモバイルアプリプラットフォーム「EAP」には、さまざま既存コンテンツを自動で取り込み、アプリ内に配信する機能があり、こうした課題に対しても有効だという。

「散在していたコンテンツが集約され、コンテンツに応じて表現方法も柔軟に設定できるので、ユーザーはアプリを利用することで必要な情報を探しやすくなります。企業側にとっても、アプリ用に新しいコンテンツを追加する必要がなく、運用負荷を抑えられるというメリットがあります」

One to Oneコミュニケーションを支援

 「ダウンロードの壁」を越えてアプリを利用しているロイヤリティの高いユーザーに対しては、きめ細かいパーソナライズされたコミュニケーションが求められる。それを実現するカギとなるのが、顧客を「個客」として一意に識別することだ。

 EAPを利用してアプリを設計することで、店舗やECなど複数のチャネルから個客を識別して行動履歴などのデータを取得することが可能となる。あとはこのデータに基づき、MAツールなどでシナリオに沿ったコミュニケーションを実践していくことになる。

 あるサロンの事例では、カスタマージャーニーに沿ってアプリでタッチポイントを設定しており、予約やリマインドの連絡もアプリ経由で行っている。来店翌日にアプリのプッシュ通知でお礼のメッセージとともにアンケート依頼を配信するようにしたところ、メールでの依頼に比べて回答率が約10倍に伸びたという。個客の行動に沿ったコミュニケーションを設計し、最適な手段を選ぶことが重要だ。

複数のチャネルから個客を識別した上でデータを蓄積
複数のチャネルから個客を識別した上でデータを蓄積

チャネルを横断した分析で個客理解を深める

 One to Oneコミュニケーションが実現できる環境が整えば、チャネルを横断した個客動向の把握も実現できるようになる。要となるのはOne to Oneコミュニケーションと同様に、あらゆるチャネルから個客を識別して、行動ログや購買履歴などのデータを蓄積することだ。そこさえできていれば、あとはデータを抽出して分析すればよい。

「個客理解を深めるためにも、チャネルを問わずに最初の段階でしっかりと個客を識別していくことがもっとも重要なポイントとなります」

自社に最適なアプリ開発手法とは

 アプリの開発にあたっては、いくつか選択肢がある。田代氏は、代表例として「スクラッチ開発」と「パッケージ開発」のふたつを挙げ、それぞれのメリットとデメリットを説明した。

 ゼロベースで作っていくスクラッチ開発は、自社の好きなように仕様を決められるし、デザインの自由度も高い。しかし、導入費用が非常に高額になり、完成までに長い期間を要してしまう。

 一方、パッケージを利用した開発は、標準的な機能は最初から用意されており、低コストで素早く導入できるのがメリットだ。ただし、カスタマイズが難しく、どうしても自社の希望どおりの施策ができない場合もある。

パッケージ開発とスクラッチ開発それぞれのメリット/デメリット
パッケージ開発とスクラッチ開発それぞれのメリット/デメリット

 これらスクラッチ開発とパッケージ開発のメリットを両立できるのが、ランチェスターのモバイルアプリプラットフォーム「EAP(Engagement Application Platform)」だという。

スクラッチ開発とパッケージ開発のメリットを両立するEAP

「もともとランチェスターでは、スクラッチでの開発も行っていました。経験上、企業によって実現したいことが異なるのは承知しており、スクラッチ開発の優位性はわかっています。ただし、開発期間を短縮したい、コストを抑えたいという企業ニーズの高まりも認識しており、それらを両立させるプラットフォームとしてEAPを開発しました」

 EAPには、ランチェスターがこれまで取り組んできたさまざまな成功事例から抽出した標準機能が実装されている。デザインの自由度も非常に高い。そして、田代氏がもっとも強調したポイントは、「拡張性の高さ」だ。

「プラットフォームとして、既存システムとシームレスにつながる拡張性の高さにこだわりました。これにより、アプリをハブにして複数のチャネルを連携・統合し、最適な個客体験を提供することが可能になります」

EAPにより既存システムとシームレスにつなげるアプリを開発できる
EAPにより既存システムとシームレスにつなげるアプリを開発できる

 EAPを使ったアプリ開発の実績としては、バロックジャパンリミテッドの会員証アプリ「SHEL'TTER PASS」や、パタゴニア日本法人の公式モバイルアプリなどがある。バロックジャパンではアプリ経由の会員登録数が増加。パタゴニアでも、アプリから店舗の在庫を見るアクションが多く、実店舗購入への誘導にも効果を発揮しているという。

 田代氏は最後に、「店舗とECのどちらも『主役』のチャネルとして活用でき、最適な個客体験づくりの中心となるアプリを開発したいと思われている方は、ぜひご相談ください」と呼びかけ、セッションを終えた。

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この記事の著者

萩原 敬生(ハギワラ タカオ)

ライター。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/04/19 11:00 https://markezine.jp/article/detail/30779