価値ある体験を作るには「顧客のインサイトを咀嚼する」

西井:ファッションの「airCloset」と有機野菜宅配のオイシックスは、どちらもリアルな「モノ」を扱うサービスのため、お客様の声や反応を、デジタルで捉えきれない部分があると思います。どのように工夫されているのでしょうか。
天沼:アイテムの返却時にいただくフィードバックは、顧客体験を測るための重要な接点です。「次のスタイリングの参考にします」とお伝えすることで、高い回答率を維持しています。
西井:モノを扱うサブスクリプションは、フィードバックを貰いやすい仕組みにすることが重要ですよね。グループインタビューやアンケートに関してはいかがですか。
天沼:私たちもグループインタビューを行っていますが、お客様の要望を聞くことが目的ではありません。体験価値を届ける「airCloset」の場合は、お客様のインサイトを知ることが目的です。
サプライズでパーティを開きたいときに、「どんなことしたら、驚く?」とは聞きませんよね。それと同じで、お客様に要望を聞くのではなく、どう感じたのかを丁寧に聞いて、それを自分たちで咀嚼してから体験価値として届けるべき。要望を満たすのではなく、感動を届けるのだという意識を常に持つようにしています。
西井:顧客インサイトを理解しなければ、サービスは作れませんよね。
オイシックスも、サービスを開始した2000年当初から、「安心な無農薬の野菜食べたい」というユーザーがいたわけではなく、どのようなお客様がオイシックスを必要とし、喜んでくれるのかを探っていました。インサイト、仮説、そしてデータを均等に見ないと、良いサービスは作れません。
天沼:そして、サブスクリプションモデルの良さは、現在提供しているサービスが決して完成形ではないというところ。お客様の利用状況や反応がよく見えるサブスクリプションモデルだからこそ、私たちには、お客様から学び、サービスを改善し続ける責任が生じる一方、そのモチベーションも生まれてきます。常に疑問との戦いになるからこそ改善を繰り返すことを楽しめる組織でいるということも大切にしています。
西井:特にモノを扱うサブスクリプションは、数値管理や運用に手間がかかり、ある種、泥くさいことも多いのですが、その大変さがあるからこそ、成功したときに楽しいんですよね。
それでは最後に、今後の展望を教えてください。
天沼:「日常の中にワクワクするファッションとの出会いを作る」ことに、一層注力していきたいです。スタイリングの精度を高めることはもちろん、ターゲットの幅を広げることも考えています。
そのためには、お客様とのコミュニケーション頻度を増やし、もっとお客様のことを知ることが大切。お客様も変化していくので、スピーディーに対応できる体制をさらに整えたいですね。
また、ファッションをより広く考えるとインテリアなども含まれ、ライフスタイルとも関連しています。将来的には、その領域でのご提案もできたらと考えています。