知名度だけに頼らないメディアとの関係作り

セッションの後半では、いくつかのトピックスを通じて、スタートアップ広報ならではの悩みとその打開策が披露された。
最初のトピックは、メディアとコミュニケーションする機会が乏しいという課題。創業から日が浅く知名度が低い企業の場合、記者や編集者との接点をどのように作り出せば良いのだろうか。
日比谷氏が実践していたのは、純粋な競合だけでなく、同じ課題解決を提供している企業、つまり「ベネフィット的な競合」にもアンテナを張ることだ。そうした企業が「どのような露出をしているか」「メディアがどういう切り口で取り上げているか」に注意を払い、自社のPRに活かしていく。
さらに、記者への関係作りに関しても次のように紹介した。
「普段からどんな人がどんな領域を担当しているのか把握しておくことです。その上で、カンファレンスやイベントの会場でメディア席に座っている人の顔を覚える。そして休み時間に、『この前、セールスフォースのネタを書いてましたよね。実は日本発のセールスフォースといわれるサービスがありまして……』と切り出して、私は「Sansan」を紹介していました。記者さんも、担当領域で知らないスタートアップが出てくると、ウォッチしておこうと思ってくれるものです」(日比谷氏)
また「人を探すのではなく、向こうから見つけてもらうことも大事」と、谷本氏。メディアが追えていない新しいファクトを提示しながら、記者や編集者の側からコミュニケーションをとりたくなるよう仕掛けていくことの重要性を説いた。
その際に重要なのが「掛け算」の視点だ。時事ネタ・トレンド・自分たちの独自性を掛け算にして仕掛けると、メディアの興味をひきつけるファクトを作ることができる。自社と他社のサービスを掛け合わせてイベントを開催したり、SNSを活用したりするのも良い。
さらにエッジの効いた掛け算を生むには、自社と競合他社だけではなく、より広い領域の情報を知ることが大事だ。日本だけではなく、海外の話題もキャッチアップしていくことで、発想は広がっていく。
メディアに見つけてもらうために、石渡氏が意識するようにしているのは、メディアの先にいる視聴者や読者だ。彼らがどう感じるのかを考え、ニュースバリューがどこにあるのかを判断する癖をつけているという。
たとえば、2019年3月にストライプインターナショナルが京都にドーナツファクトリーをオープンしたときのこと。「アパレル企業がドーナツファクトリーをオープンした」「店舗デザインは建築家の隈研吾」というファクトに加え、石渡氏がメディアに提示したのは、その1ヵ月前に中目黒で「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」が営業を開始しており、その店舗デザインも隈研吾だったという情報だ。「東の隈研吾と、西の隈研吾を取り上げてみては」と、より世の中の動きとリンクした提案を行うことで、露出へとつなげたそうだ。