プロダクト横断型のマーケティング組織を目指して
――まず、Pardotを導入された背景を教えてください。
大塚:私どもデジタル事業部門では、国内外の記事・企業情報を収録した検索型データベースサービスの「日経テレコン」、企業分析や事業企画に必要な情報を提供する「日経バリューサーチ」などをはじめ、法人向けのデジタル情報サービスを展開しています。Pardot導入の背景には、組織的な課題感がありました。BtoB事業ではよく聞く課題だと思うのですが、プロダクトラインでマーケティングや営業活動を行っていたため、KPIや評価の指標がバラバラだったのです。また採用しているマーケティングツールや運用手順も標準化されていませんでした。
大塚:お客様に向き合っていくためにはこれらの指標や運用体制を統一し、組織的にマーケティングスキルを向上する必要があると考え、2018年のはじめに組織体制を見直しました。具体的には、プロダクト横断型のマーケティング体制を構築し、新たにインサイドセールスチームを立ち上げたのです。これをきっかけに、かねてから営業支援システムとして活用していたSales Cloudとの連携を前提として、同年の4月からPardotを導入しました。
4つの用途でPardotをフルに活用
――Pardotはどのように活用されているのでしょうか?
大塚:主に、「インバウンド」「ナーチャリング」「アウトバウンド」「既存顧客とのコミュニケーション」という4つの用途で、活用しています。インバウンド用途では、コンバージョンポイントとなる資料請求やトライアル申込みなどのフォームを設置し、それらへのアクションやサイト閲覧履歴から、ホットなリードを判断して、インサイドセールスへつないでいます。
菊池:ナーチャリングでは、資料のダウンロードのみなど興味度合いが浅いライトな状態のリードに対して、職種ごとの活用事例やトライアルを訴求するコンテンツをメールマガジンでご案内しています。そこから、トライアルや商談希望のご連絡があれば、インサイドセールスへつなぐという流れです。
――どのようなシナリオを設計されているのでしょうか。
菊池:たとえば、日経バリューサーチの資料ダウンロードが発生した場合、1回目はインサイドセールスから私信ふうのメールを送信します。2回目以降は、お客様の職種から営業系か経営企画系かを判断し、経営企画系には企業価値を上げるための使い方、営業系はターゲットリストが作成できるなど、具体的な活用方法をご案内します。
トライアルの場合は、スムーズにご利用頂くために、ログインIDのご案内や、機能の使い方といったフォロー系のメールが多いです。やはり、トライアル中の利用体験が成約率に関わりますから、メール開封には注力しています。失注や商談化に至らなかった場合でも、定期的にセミナーやワークショップのご案内をお送りしています。
インバウンド・アウトバウンドの両立が可能に
――インサイドセールスでは、どのようにPardotを活用していますか。
平塚:インサイドセールスでは、Pardotで「お問い合わせに至るまでどのページをご覧になっているか」などの行動履歴を確認し、お客様の関心に沿った対応を考えて連絡するようにしています。
平塚:Pardotを導入してから、販売代理店との連携も取りやすくなりました。当社のインサイドセールスが詳細なニーズやプロファイルをSales CloudやPardotにきめ細かく更新し、それを販売代理店のフィールドセールスが見てクロージングするというワークフローが構築できています。
――アウトバウンドのアプローチリストはどのように作成していますか。
菊池:日経バリューサーチでは、業種や企業規模を軸にターゲットリストを作成することはもちろん、「研究開発費を増やした」「新規事業を立ち上げた」などの様々な切り口で企業を抽出することができます。さらに、日経バリューサーチ for SFAを用いると、SFAへデータを組み込むことができ、新規開拓のリストを作成することができるんです。
アプローチ先の部署や担当者を探すときにも日経バリューサーチの30万人の人物情報を使い、トークスクリプトの組み立てにはSales Cloud上に自動配信される新聞ニュースや企業情報を活用します。私たち自身が日経バリューサーチfor SFAをSales Cloudとつないで利用しています。その後のフォローはPardotで自動化することにより、工数削減もできています。
――既存顧客とのコミュニケーションも、Pardotで行っているのでしょうか。
大塚:そうですね。使い慣れているPardotで既存顧客とも定期的な接点を構築しています。Sales Cloudの契約情報と紐付け、メール配信による新着情報や定期的なアナウンスメント中心にコミュニケーションを行っています。
従来は営業担当者を介した契約のみでしたが、近ごろはオンラインで完結する契約も増えてきました。契約後使い始めの重要なタイミングにおける体験をMAでフォローする、カスタマーサクセスのような支援も徐々に開始しています。
リード獲得が2倍に/作業の効率化も実現
――Pardot導入から1年が経っていますが、どのような成果に結びつきましたか?
大塚:まず、商談化につながるリード件数が2倍になりました。これまで、リソースの関係から契約に近いリードを中心に施策を組み立てていましたが、Pardotを導入してライトリードをナーチャリングできるようになったことで、ライトリードが多いアッパーファネルへのキャンペーンを回せる体制が整ったのです。結果、2019年5月の時点で、2018年の年間数値に届く勢いのリード数を獲得できています。リード数が増えていますが、商談化率は変わっていませんから、しっかりと成果につながってきていると思います。
岡本:施策担当としては、PDCAを早く回せるようになったことも利点です。Pardotは簡単にHTMLページの作成やシナリオの変更ができるため、どんな担当者でも視覚的に理解でき、使いやすいのです。このような高い操作性が、成果にも影響していると思います。導入の過程でデータのクレンジングも行いましたが、メール配信先の重複も見つかり、データ整備が正確な実態の把握につながると実感しました。
平塚:インサイドセールスでは、見込み客の反応に合わせた資料送付の自動化ができたことが大きかったです。以前は、1日に20件近くの資料送付を人手で対応していたのですが、Pardotの「Engagement Studio」機能を用いて送付の仕組みを設計したところ、一瞬で完了しました。また、メール開封の有無もわかるようになり、そのアクションの違いでフォローコールの内容を変化させています。
――課題として挙げていた、活動指標と運用手順の標準化は、いかがでしょうか。
大塚:揃いはじめていると感じます。獲得やライトリードの定義、商談化率、成約などの大きなKPIは、各プロダクトで基準が揃い、状況の判断がしやすくなりました。また、担当者間で再現性の高い知見を共有できるようにもなっています。担当変更時も運用のトレーニング工数が必要なく、マーケティングスキルの標準化も進んでいます。
人のコミュニケーションをMAで代替する視点が大切
――MAを導入しても、なかなか運用に定着しないという課題も多く聞かれます。日本経済新聞社では、どのようにして運用フローを構築されましたか。
岡本:導入当初は、別のメール配信を利用していた頃の“ステップメール”の機械的な感覚を捨てることに苦労しましたね。しかし、MAの本質は、人が行うことをシステムで代替することだと考えています。システマティックに、「何日後にこのメルマガを送る」のではなく、お客様の属性や行動履歴を参考に、営業担当者が送るようなタイミングでコミュニケーションを行っています。
――コミュニケーションを組み立てる際の、考え方には変化はありましたか。
菊池:従来のステップメールは、「このようなシナリオであれば、態度変容が起きるのではないか?」と仮説を立てるものの、その検証ができずに空回りしてしまう印象がありました。対してMAは、お客様の反応や行動がわかり、PDCAが回せます。それらのデータをもとに、「自分ならば、その見込み客とどのようなコミュニケーションを図るか?」を基本に、運用しています。
大塚:合わせて、お客様情報をSales CloudとPardotというセキュアなソリューションで一括管理できることは、非常にメリットです。特にお客様に対面での提案を行う代理店やパートナー企業との情報共有が、1つの仕組み完結できることは大きいですね。スピーディーに対応でき、顧客体験の向上にもつながっていると思います。
顧客接点を拡大し、最適なサービスの提案につなげたい
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
菊池:Pardot導入の成果にもありましたが、プロスペクトから広くライトリードを集められるようになりましたので、商談化率を高めたいです。その成功ロジックを、Pardotを活用して確立させたいですね。お客様の業務課題と、興味を持っていただいたプロダクトがミスマッチになっている場合も少なくありません。プロダクト横断でコミュニケーションをしてお客様に最適なプロダクトのご紹介につなげたいと思います。
大塚:大きく2つあります。Pardotの導入により、これまで把握できていなかった、リードにつながるプロスペクトの全体量が見え、アクティブなお客様が可視化されました。このようなお客様との接点を増やすことを、新たなKPIに設定し、マーケティングを行いたいと思います。
もう1つは、顧客体験の改善につながる顧客コミュニケーションの実現です。特に、営業担当者を介さないお客様と、どのようなコミュニケーションを行うかを体系立てていきたいと思います。私共のプロダクトも常にアップデートを行い、進化しています。お客様のビジネスにフィットするサービスや活用方法に気づいていただけるよう、データに基づいたコミュニケーション改善を常に行っていきたいです。