ビジュアル先行の強みは「ANAを知らないお客様と接触できること」
――はじめに自己紹介をお願いします。
平口:全日本空輸(以下、ANA)の宣伝部でグローバルマーケットを担当し、主に欧州エリアへのプロモーションを統括しています。ソーシャルの施策に関しては、全体のKPIを管理していて、今回ご紹介するInstagramのアカウント「All Nippon Airways(@allnipponairways_official)」にも携わっています。
片山:私はグローバルマーケットの中で、特に北米エリアにおけるコミュニケーションと販売促進を担当しています。他にも「IS JAPAN COOL?」という訪日プロモーションや、米国女性ゴルフのLPGAツアーも担当し、コミュニケーション上の様々な場面でSNSを活用してきました。
希代:フェイスブック ジャパンのクライアントパートナーマネージャーとして主に旅行業界を担当しており、ANAさんをはじめとしたトラベル業界のアカウント運用をお手伝いしています。
――早速ですが、Instagramアカウント「All Nippon Airways」における、運用の目的やKPIに関してお聞かせいただけますか。
平口:「All Nippon Airways」は日本国外に向けて発信するアカウントで、認知向上を目的に2014年からスタートしました。ANAの国外での認知度は、まだ十分とは言えません。少しでも多くの方に知っていただき、エンゲージメントを高めていきたいという目的で運用しています。
フォロワー数は現在24万人を超えていて(2019年6月時点)、25~34歳のミレニアル世代が中心となっています。男女比は男性が6割、女性が4割で、ANAをビジネスでご利用いただくことが多い男性にも届いているという印象です。
片山:グローバルマーケットにおけるANAの課題はまず「ANAを知ってもらう」ことなので、KPIに関してはリーチ数を重視してきました。加えて「投稿が響いているか」を見るためにいいね!の数などのエンゲージメントも追いかけています。
――実際にアカウントを運用されてきた中で、Instagramの特徴や強みはどのような点だと考えていますか。
片山:やはり、ビジュアルでのコミュニケーションでしょう。投稿を気に入っていただくことができれば、ANAという名前を知らないお客様とも接点をもつことができるのが良いところだと思います。
テキストを主体とするSNSは対話を通じて関係性を作っていく要素が強いのに対し、Instagramは画像を用いてもう少し直感的にメッセージを受け取ってもらえることも特徴です。
平口:Instagramはブランディング施策との親和性が高いと感じています。弊社ではFacebookには新規路線の就航やスポーツ選手との協賛契約といった広報的なお知らせを、Twitterではリアルタイムな運航情報を中心に発信しているアカウントもあります。SNSが多様化し、フォロワーが求める内容がプラットフォーム毎に異なってきていることを鑑み、プラットフォームごとに投稿内容を使い分けていくことが大切ではないかと考えています。
「ANA=日本の航空会社」と覚えてもらうための工夫とは?
――海外へ発信するにあたって、コンテンツ制作の面で意識されていることはありますか。
片山:まず重視しているのは「ANA=日本の航空会社」だと覚えてもらえるようにすることです。日本の文化をフックにしたり、弊社が就航している都市を紹介したりしています。一方でいくら綺麗な写真を載せても、誰が投稿したものなのか伝わらなければ、認知してもらうことはできません。そのため、ANAブランドのカラースキームに合わせた投稿することで、弊社の雰囲気が伝わるクリエイティブを作成しています。
また世界観が重視されるInstagramだからこそ、写真に添える文章にも配慮しています。ANAはフレンドリーな会社であるという印象をもってもらえるよう、文体や口調を統一するなどの配慮をしています。
平口:よりインタラクティブなやりとりが可能なストーリーズも活用しています。「Ana」という女の子のキャラクターが日本全国を旅する「#AdventuresofAna」というシリーズがあるのですが、ストーリーズの「アンケートスタンプ」機能で次の行き先を2つ提示し、どちらかに投票してもらうという企画を実施しました。ストーリーズでは生配信もできるので、イベントの様子を配信することもあります。
平口:ハッシュタグを戦略的に活用していくことも欠かせません。弊社のアカウントも、ハッシュタグからの流入が多くを占めています。私たちは「#flyana」というハッシュタグを積極的に活用していて、お客様にも使っていただくよう呼びかけてきました。検索からの流入を増やすには、「#travel」といった大きな括りのハッシュタグを押さえる、なるべく多くのハッシュタグを入れるなどの工夫も重要だと思います。
――フェイスブックではグローバル向けのコンテンツ制作に取り組んでいる企業に対して、どのようなアドバイスをしているのでしょうか。
希代:ベストプラクティスや活用のヒントは「見る人の心をとらえるInstagramクリエイティブの作り方」という公式ブログ記事でお伝えしていますが、絶対に押さえるべき要素は、オーガニック・ペイドに関わらず、どこの国でも同じだと思います。
Instagramはモバイル上で見られるため、縦型のスクリーンの画角に合わせた素材の方が目に止まりやすいというのは万国共通で重要です。また、モバイルは速いペースでコンテンツが視聴される傾向が強いため、動画コンテンツに関しては、開始数秒でできるだけ早くアテンションをとるのがコツだとお伝えしています。
グローバル展開にあたっては、同じクリエイティブでも国ごとにカラーやテイストを少し変えてエンゲージメント率を見てみたり、広告であればリフトテストを行ってみたりしながら、勝ちパターンを見つけていくのが一番の近道です。ANAさんにも、日々細かく検証していただいています。
ターゲティングを機械学習に委ねることで、意外な潜在層を獲得
――ANAではオーガニック運用に加えて広告配信にも取り組んでいるとのことですが、どのような狙いがあるのでしょうか。
平口:各キャンペーンの目的に合ったターゲットにリーチすることと、既存のファンと類似した層にリーチすることを目的にしています。特に、Instagramはミレニアル世代に人気のSNSだと認識していますので、ミレニアル世代がターゲットのキャンペーンについては、Instagramを活用して広告配信をしています。
類似フォロワーへの拡張配信に関しては「オーガニック投稿でファンになってくれたフォロワーと似ている層だけれど、ANAのことを知らない」というお客様がまだたくさんいらっしゃると認識しており、「類似オーディエンス」機能を活用して、コミュニケーションをとっています。
――ターゲティングは細かく設定されているのでしょうか。
片山:あえて絞らずに、配信しながら精度を上げていくという前提で運用しています。ターゲットを絞り過ぎないことで、自分たちでは到底想像できないような潜在ユーザーも見えてくるのです。たとえばスポーツが好きな方や、週末にアクティビティを楽しんでいる方などのアフィニティを活用したターゲティングをすることで良い結果に繋がっています。
平口:最初から細かくターゲティングし過ぎてしまった結果、リーチ数が減ってしまうのはもったいないことですよね。弊社でもかつては、エアラインに興味関心が強い人ほどエンゲージメントは高いだろうという思い込みから、ターゲティングを狭めてしまっていました。でも思い切って機械学習に任せてみたら、非常にポテンシャルの高い潜在ユーザーにリーチできたのです。
希代:機械学習に任せることは、Instagramに蓄積されるユーザーの興味関心や行動に関するシグナルを最大限活用し、効率的にリーチを獲得することにつながります。ターゲティングに加え、フィードとストーリーズどちらに掲載するか、さらにFacebookとInstagramのどちらを活用するかという配置面の選択についても、機械学習を活用すると高い効果を発揮します。ANAさんにも、その手応えを感じていただけていることが嬉しいです。
一度の接触で終わらせず、ANAのエコシステムへ誘導していく
――ANAではInstagramを工夫しながら活用することで、言語や文化を超えたブランド認知に取り組んでいることがわかりました。2020年には東京オリンピックを控えており、グローバル向けのプロモーションを加速させる企業は増えていきそうですね。
希代:Instagramの国内月間アクティブアカウント数は3,300万を超えて成長していますが、グローバルでは10億にものぼり、グローバル向けプロモーションにご活用いただく企業様は増えています。
国際的な第三者調査機関であるIPSOSによる調査「Instagramが日本経済に与える影響」によると、調査対象となった国内の中小企業のうち43%が「Instagramの投稿がきっかけで国外から顧客が訪れたことがある」と回答しています。また、2017年のインバウンド観光による経済効果のうち9%にあたる3,747億円にInstagramが関わっていたという推計も紹介されていて、Instagramは国外の顧客にリーチするのに適したメディアであることが伝わると思います。
さらに、オリンピックが近づいていることもあり、Instagramを使ったグローバルプロモーションにアスリートを起用したいというお問い合わせもいただきます。Instagramは、アスリートの勝負の一瞬だけでなく、トレーニングの舞台裏やプライベートの様子を知ることができることから、アスリートをより身近に感じられる場所です。ANAさんの所属アスリートもInstagramをご活用いただいている方も多く、グローバル認知を高める施策の一環として、アスリートとコラボレーションしたプロモーションに取り組むのも良いと考えています。
――ANAではInstagram運用に関して、どのような点に手ごたえを感じていますか。
平口:これまでリーチできなかった層に届いているのは、評価するべきポイントだと思います。まだ飛行機に乗って日本に来たことがない若年層についても、早い段階から積極的にリーチし、ANAを認知してもらえる機会があることは貴重だと思っています。彼らが日本に来るとなった暁には、一番にANAを想起してもらえることが理想です。そのため、基本的には短期ではなく中長期的な目線でアカウントを育成しています。
片山:Instagramの運用が、潜在ユーザーとの向き合い方を考えるきっかけになりました。一回の投稿で成果を実感できることはほとんどないはずなので、一度接触したユーザーをいかにANAのエコシステムに誘導できるかを重視していきたいと考えています。
――最後に、今後「All Nippon Airways」を通して挑戦してみたいことを教えてください。
片山:目下の目標は、ANAに親近感を持ってもらえるような投稿を通じてユーザーとの距離を縮めることです。またUGCの活用も積極的に考えていきたいです。
平口:データ活用をさらに加速させることも目標のひとつです。コメントを寄せてくださるお客様がどんなことを考えているのかをより深く知るために、テキストマイニングにも取り組みたいです。また、ブランディングにとどまらず、航空券予約などの獲得を目的とした海外配信にも発展させていくためには、SNSと自社サイトのクッキーデータを紐づけて分析し、広告パフォーマンスを高めていきたいですね。
Instagramのマーケティング活用事例は、フェイスブックの「Instagram Business」にて紹介されています。詳しく知りたい方はこちらから!