※本記事は、2019年7月25日刊行の定期誌『MarkeZine』43号に掲載したものです。
「テレビ」の名称に潜むビジネスにおける機会損失
数あるマーケティング・広告業界の用語の中で「テレビ」という言葉は、長年にわたり自然に使われてきた。このマーケティング用語としての「テレビ」の意味を標準用語化するために、日本のマーケティング業界は暗黙のうちに下記の2つの意味合いを排除していた。
(1)本来の語源である「テレビジョン電波」を指す用法
放送、通信や遠隔監視に使用される、遠方へ映像を送る電波・シグナル技術を指す
(2)上記電波技術を受信する「テレビ電波受像機」を指す用法
ソニーやパナソニック製等のモニター機器を指す
上記2つの意味合いを排除して「番組」や「テレビCM」を指す価値に限定・特化させていた。おかげで広告主と代理店の会話の中で「テレビを増やそう」というやりとりがあったとしても、まさか「ソニー製50インチのテレビを購入して増やす」というような意味違いは起こらない。
この影響で何気なく使っている「テレビ」という用語が、実は気が付かぬ間に近年大きな機会損失を招いている。その理由は、「テレビ」という単語には、略されていたはずのテレビ「電波上の」の意味合いが強く残っているからだ。「50インチのモニター画面(旧テレビ)」に登場するコンテンツすべてを「テレビ」と称してしまうと、ネット経由で視聴している「One to Oneの価値を生むコンテンツ」をも包括してしまう。この結果、ネット上特有のコンテンツ価値を毀損するのは明らかで(マス向けに割安に仕向けられる)、これを知る欧米のデジタル・エージェンシーやマーケターは、「テレビ」という言葉をあえて避け始めている。
日本での顕著な例が、「Hulu」や「AbemaTV」が「インターネット・テレビ」と呼ばれている状況だ。この呼称はネット上ならではのOne to Oneのコンテンツ価値を、テレビ電波上のマス割安価値に置き換えてしまいがちになり、価値毀損を生んでいる。米国ではネット上のコンテンツを「OTT(Over the Top)」と単語を使い分けているが、日本では「テレビ」の呼称が根強い。
この「(ネット上の)One to Oneの価値」をあやふやにする気配は意識したほうが良い。たとえば「テレビCM」と呼ぶ施策や予算は、「テレビ電波に乗せる番組に寄り添うCM」と捉え、「電波」の意味合いを意識する。つまり、「テレビCM」と呼ばずに、「テレビ電波CM」と頭の中で整理するほうが、本来の価値に気づきやすい。