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BtoBマーケ虎の巻

LTVの高さが、BtoBマーケティングの自由度を決める

 CPA(Cost Per Acquisition)やCAC(Customer Acquisition Cost)の改善は、BtoBマーケターにとって大きなミッションだ。しかし才流・栗原氏は「より重要なのは、LTVを伸ばして、CACに投下できる十分な費用を確保すること」と説く。その背景には、想像以上に営業コストがかかるBtoB特有の購買特性がある。本記事では、1顧客の取引価値を高める重要性と少しの工夫でできるLTV改善策について、事例を交えながらお伝えする。

BtoBマーケの大前提「CACは一定以下には下がらない」

 様々なBtoB企業のマーケティングプロジェクトに関わる中で、見落とされがちだと感じる大前提がある。それは「BtoBマーケティングのCAC(※1)は無限には下がらず、一定以上のコストがかかる」ということだ。

 「CPAを○○万円以下にする」「目標のCPA以下で運用できるチャネルを見つける」といった点を議論することも重要だが、本質的にやらなければいけないのは、LTV(※2)を伸ばしてCACに投下できる十分な費用を確保し、良質なマーケティング活動ができる土台を作ることである。

 本記事では、BtoBにおけるCACの特徴とLTVの重要性、そして顧客単価と継続期間に着目してLTVを高める様々な工夫についてお伝えする。

※1 CAC(Customer Acquisition Cost):顧客獲得単価。一定期間の(広告宣伝費+営業人件費)÷新規顧客獲得数で算出する。

※2 LTV(Life Time Value):顧客生涯価値。平均顧客単価×継続期間(月額サービスでない場合は、購買回数)もしくは、(平均顧客単価×収益率)÷月次解約率で算出する。

顧客獲得にコストを要するカラクリ

 そもそもBtoBにはBtoCと違い、以下の購買特性がある。

・衝動買いが少なく、購買までの検討期間が長い
・購買に複数人、複数の役職が関与するため、社内調整や社内説明、稟議などのプロセスが必要。商談から受注まで長期間に渡る
・販売チャネルは店舗やECサイトではなく、営業パーソン。訪問、提案、見積もり、契約などにおいて営業パーソンが介在する

 想像以上に、営業コストがかかるのである

 仮に、リスティング広告によってお問い合わせや資料請求レベルのリードをCPA15,000円で獲得し、その後の商談受注率は25%、営業が1回の訪問で決めるという理想的なケースだったとしても、CACはこれだけかかることになる。

(CPA15,000円÷受注率25%)+(営業人件費5,000円/時間 × 移動、商談時間など合計4時間÷受注率25%)=140,000円

 同様に、Facebook広告で、ホワイトペーパーDLレベルのリードをCPA3,000円で100件獲得し、そのうちの5件が商談化し、1件受注したとしても、CACはこれだけかかる。

(CPA3,000円×100件)+(営業人件費5,000円/時間 × 移動、商談時間など合計4時間÷受注率20%)=400,000円

 これに加えて、展示会やイベントで見込み顧客を集客した上で、MAツールやインサイドセールスによってリードを育成し、検討段階の上がった見込み顧客と商談を設定するBtoBマーケティングモデルを実行するなら、CACは最低でも500,000円程度は必要になる。

 「いやいや、口コミや紹介経由で案件が獲得できていて、広告宣伝費はかけていないし、受注率は50%を超えているよ」という方もいらっしゃるかもしれない。しかしビジネスを成長させるためにチャネルを広げる際、どうしても広告宣伝費は必要になり、受注率は20~30%以下に低下していく

 「BtoBにおいて、CACは一定以下には下がらない」。この事実から、BtoBマーケティング施策、そしてビジネス全体を設計することの重要性をおわかりいただけるのではないだろうか。

1顧客との取引価値が、BtoB企業の強さを決める

 BtoBではCACを下げることに限界があるからこそ、1顧客との取引の価値をいかに高めるかが企業の強さを決めるBlossom Street Venturesが米国のSaaS企業37社について、上場時のACV(Average Contract Value:1顧客あたりの年間契約金額)を分析した調査を見ると、その重要性をよく理解できる。

Blossom Street Ventures「Your target ACV – $25k」より著者作成
Blossom Street Ventures「Your target ACV – $25k」より著者作成

 年間平均単価が150万~250万円前後のレンジには会社がまったく存在していない。

 同社が行った別の調査によれば、米国で上場しているSaaS企業81社のうち78社が中堅・大手企業をターゲットにビジネスを展開していた。上場できる規模までビジネスを成長させようと思った場合、年間平均単価50万円以下でセルフサーブに近い形でサービスを提供するか、中堅・大手企業向けに年間平均単価360万円以上のサービスを提供するかの2択になるということだ。

 なおSaaSビジネスの世界では、年間平均単価50万〜360万円の間は「死の谷」と言われており、ビジネスとして成立させるのが難しいとされている。

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この記事の著者

栗原 康太(クリハラ コウタ)

1988年生まれ、東京大学文学部行動文化学科社会心理学専修課程卒業。 2011年にIT系上場企業に入社し、BtoBマーケティング支援事業を立ち上げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。2016年に「才能を流通させる」をミッションに掲げ、経営者・事業責任者の想いの実現を加速させる株式会社才流を設立し、代表取締役に就任。 アドテック東京などのカンファレンスでの登壇、宣伝会議・広報会議など主要業界紙での執筆、取材実績多数。 Twitterアカウント(https://twitter.com/kotakurihara) | Facebookアカウント(https://www.facebook.com/kota.kurihara)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/09/20 07:00 https://markezine.jp/article/detail/31888

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