SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

おすすめのウェビナー

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第99号(2024年3月号)
特集「人と組織を強くするマーケターのリスキリング」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

MarkeZine Day 2019 Autumn(AD)

ユーザーの課題解決と営業促進を両立 日立製作所が挑む、事業に貢献するコーポレートサイト構築

 2019年9月12日〜13日にホテル椿山荘東京で開催された「MarkeZine Day 2019 Autumn」。デジタルを活用し、マーケティング活動のさらなる向上を実現している様々な事例が発表された。なかでも日立製作所が発表したのは、Marketo Engageを導入してコーポレートサイトを改訂し、訪問したユーザーに対してトップページがユーザーの課題解決や営業促進に一役買う“コンシェルジュ”化する、という事例だ。コーポレートサイトを管轄する日立製作所 ブランド・コミュニケーション本部だけでなく、事業部門や、IT分野の営業部門でデジタルマーケティングに取り組む部署などを巻き込み、コーポレートサイト改訂を成功に導いたそのノウハウを紹介する。

ブランド価値向上だけでなく、事業に貢献するコーポレートサイトへ

 「デジタルマーケにできること」をテーマに開催されたMarkeZine Day 2019 Autumn。9月13日のセッション「コーポレートサイトが、デジタル活用で事業に貢献するコンシェルジュに変わる」では、2019年6月にリリースされた日立製作所のコーポレートサイトリニューアルに関する取り組みが紹介された。

 同社のコーポレートサイトリニューアルにおいて目指した姿は、UIやルック&フィールの改善だけでなく、Webサイトを訪問したユーザーに対して、知りたいことや問い合わせの窓口などが掲載されているページにスムーズにつながるようにするだけでなく、日立製作所が伝えたい情報もお伝えする、いわば訪問したユーザーが心地よさを感じることができるような「コンシェルジュ」になること。これにより、多くのコーポレートサイトが担っているブランド価値向上だけではなく、事業に貢献することも目指しているという。

 以前の同社コーポレートサイトは、改訂した2014年にWebグランプリを受賞するなど一般的に評判が高いものだった。そのWebサイトがなぜ、リニューアルに乗り出すことになったのか。講演した日立製作所 ブランド・コミュニケーション本部 デジタルコミュニケーション部 部長代理の米山卓美氏は次のように語る。

 「デザイン自体は定評があるものでしたが、私を含め事業部門にいた立場からコーポレートサイトに来てみると、探そうにも探せないし使いづらいと感じていたんです。そう思っていたら、2018年4月に、現在の部署に異動することになり、ちょうど、コーポレートサイトを改訂しようか、という話が出ていました。その準備として、前年に外部のコンサルタントに依頼し、コーポレートサイトを検証したところ、様々な課題があると突きつけられました。それならばと、『お客様にとって快適なWebサイトを提供する』ことを実現したいと考えたのです」(米山氏)

株式会社日立製作所 ブランド・コミュニケーション本部 デジタルコミュニケーション部
部長代理 米山 卓美(よねやま・たかみつ)氏

必要な情報にたどり着けない構造が課題に

 ひとくちに日立製作所といっても、事業領域は非常に幅広い。一般ユーザーには白物家電でお馴染みだが、街中を見渡すとビルのエレベーターや電車が日立製であったり、企業や金融機関、自治体の情報システム、さらには発電所などの重要なインフラ設備を担っている。昨今は、これまで培った制御・運用技術(OT)と情報技術(IT)、そして高信頼なプロダクトを組み合わせて、お客さまとの協創で、さまざまな課題を解決する社会イノベーション事業に注力している。

 だからこそ、同社のコーポレートサイトを訪れる人の目的は様々だ。一般ユーザーに馴染みの深い家電分野といっても、同社のビジネス領域からいったら一部でしかない。だが、家電の情報を探したり、家電のマニュアルを探すために同社のコーポレートサイトトップページに訪れるユーザーがかなり多かったという。原因は、家電専用サイトではなく、「日立」と検索してコーポレートサイトに来てしまう方が多かったほか、価格比較サービスを提供しているサイトのそれぞれの製品情報ページに、日立のコーポレートサイトトップページのURLが掲載されてといったことだった。しかし、トップページに来ても、ユーザーが自分の欲しい情報にスムーズに行き着けないことから、そのまま離脱していまうケースも多々あったそうだ。

 「それ以外にも、日立が取り組んでいる社会イノベーション事業の情報や、自分たちの強みであるキーワードが反映されていないなど、伝えたいことを伝えきれていないという問題がありました。また、当時のWebサイトでは、トップページにタイムラプスの動画を挿入していたのですが、このために読み込みに時間がかかるという課題も指摘されました。そのほか、サイト内検索の精度が悪かったり、そもそもサイトデザインが陳腐化して、最新のデバイスの解像度で閲覧すると、幅が狭いという見た目の課題もありました」(米山氏)

 こうした課題が明らかになり、2018年から本格的にコーポレートサイトの改訂プロジェクトがスタート。今回のコーポレートサイトの改定におけるビジョンとして「コーポレートサイトは顧客課題に応えるために、デジタルを活用した日立グループのコンシェルジュになる」ことを掲げ、ミッションを「ブランド価値向上だけでなく、事業にも貢献する」と定義。「事業に貢献する」とは、ブランドや製品を知ってもらって満足するだけでなく、「訪問してくれたユーザーを促して、ビジネスに貢献するWebサイトにする」ことを目指すものだ。

 これを実現するゴールとして、(1)欲しい情報へ容易にたどり着ける、(2)日立の認知を上げ、興味をもってもらう、(3)さらに日立が伝えたい情報をしっかり届ける、の3つを設定。この実現に向け、プロジェクトがスタートした。 

以前のコーポレートサイトが使いにくかった根本的な理由

 構築にあたって、様々な分析を行ったそうだが、実際にユーザーのWebサイト内での行動を解析したところ、当時のWebサイトではユーザーの振る舞いが期待通りではないことも明らかになった。

 たとえば直帰率を見ると、月間40〜50%がそのまま直帰してしまう。ひどい時には直帰率が60%に上ることもあった。これが意味するのは、「日立製作所のコーポレートサイトが、ユーザーにとって、情報収集に貢献していない」という事実だ。実際、先述したように家電情報の収集をしようとしたユーザーが多かったが、検索キーワードを見ると、家電の品名や型番、マニュアルが上位にあることが判明したという。

 米山氏がまず目指したのは、抜本的な情報構造の見直しだ。昨今の企業サイトは、会社の情報であればコーポレートサイトに集約し、製品の情報であれば別にドメインを取って専門サイトを立ち上げ、そちらに製品情報を集約スタイルが多い。

 これに対しそれまでの日立製作所のWebサイトでは、情報が適度に分散せず、すべてを1つに集約させており、そのせいでユーザーは欲しい情報をかえって探しにくくなっていた。これに対し、米山氏が掲げた目標が「シンプル化」だ。

 もう1つ、「情報を探しにくい」という面を解消するために模索したのがレコメンド機能だ。ECサイトでは普通に使われているレコメンド機能だが、この機能が搭載されているBtoBサイトは少ない。最も、ECサイトの場合、過去の購買履歴や閲覧履歴をもとにユーザーが欲する情報を提示するが、BtoBのコーポレートサイトの場合、そうした蓄積データをもとにレコメンドを行うのが難しいという側面もある。だがもし実現できれば、ユーザーにとって快適なWebサイトになることは間違いない。

 これと同時に、ユーザーが情報迷路に迷い込まないよう、知りたい情報の元へ、ページベースで誘導する仕組みを実装する検討も進めた。

匿名ユーザーへのパーソナライゼーションを実現するMarketo Engage

 目指すべきコーポレートサイトの方向性が徐々に固まりつつあるなか、課題となったのは、「やりたいことを実現するため、どんなデジタルツールを導入するべきか」ということだった。そこで社内の営業部門から紹介されたのが、アドビ システムズが提供する「Marketo Engage」だったという。

アドビ システムズ株式会社 マルケト事業担当 営業本部 水野 雅夫氏

 米山氏に先立ち登壇したアドビ システムズ マルケト事業担当 営業本部の水野雅夫氏によると、Marketo Engageは文字どおり「エンゲージメント」をコンセプトに、企業とユーザーとの長期的な関係構築を支援するソリューションだという。「より具体的にいえば、顧客体験を通して、企業の売上や利益向上に貢献することを謳っています」と水野氏は説明する。

 Marketo Engageのオプション機能の1つが「Webパーソナライゼーション」だ。これは、アクセスしてきた匿名ユーザーに対し、ドメインなど把握できる情報を活用して、関連性の高いコンテンツやパーソナライズドメッセージを届ける機能のこと。だが、これはあくまでオプション機能であり、Webパーソナライゼーションを利用するには、MAツールのMarketoの導入が必要だった。

 「私たちはブランド・コミュニケーション部門なので、営業活動を支援するMAツール本体は管轄外でした。ただ、やりたいことが実現できるのでどうしようか悩んでいたところ、日立製作所のIT分野の営業部門で、デジタルマーケティングに取り組んでいる部署があることを知り、そこに相談したのです」(米山氏)

投影資料より:クリックで拡大します

 米山氏が描いたのは、次のようなMarketoの利用イメージだ。コーポレートサイトでは、Marketo EngageのWebパーソナライゼーションを利用し、訪問してきたユーザーにより快適で、欲しい情報や事業部窓口に誘導できる仕組みを整える。一方受け手である事業部門では、Marketo本体を導入し、コーポレートサイトから誘導されてきたユーザーをとらまえて、事業部のマーケティング・営業活動につなげていく道筋を作る。こうすることで、コーポレートサイトのミッションである「事業にも貢献する」ことが実現できると考えた。

 2018年7月に、アドビ システムズから話を聞いた米山氏は、Marketo Engage本体の管理・運営をIT分野の営業部門に担わせ、Webパーソナライズ機能をブランド・コミュニケーション部本部が担うという分業体制で、自部門や関係部門を説得。予算も捻出し、同年10月からの導入を即断したという。

BtoBコーポレートサイトで実現する、最適なパーソナライズ

 こうして2018年11月から、コーポレートサイトでMarketo EngageによるWebパーソナライゼーションを施行した。まずは大きな課題となった家電の価格比較サイトからの訪問者を対象に、家電情報を集約したWebサイト「家電FANサイト」へ誘導するウィジェットを表示するというリコメンドを実施した。一般的に、こうしたウィジェットのクリック率は1%前後といわれているが、なんとクリック率が30%となり、非常に大きな成果が出たといえる。なお、「モバイルデバイスからのアクセスの多くは、日立製の家電情報を探している」という解析結果を踏まえ、現在モバイルユーザーに対しては必ず家電FANサイトへの誘導ウィジェットを表示するようにしている。これもクリック率が5%と、送客という点でも大きな成果につながっているという。

 改訂したコーポレートサイトが本格始動したのは、2019年6月のことだ。情報構造は米山氏が考案し、上段のグローバルナビには「企業情報」「ニュースリリース」「IR情報」「採用情報」「お問い合わせ・サポート」を集約。そしてメインとなるブランディングエリアに関しては、「ユーザーが一番に知りたいことは、日立の製品やサービスのこと」(米山氏)という考えから、Marketo Engageを利用し、訪問したユーザーの属性に合った画像・リンクを表示し、ニーズにマッチしたサイトへの送客を実現するようにした。たとえば金融機関からの訪問者に対しては、金融ソリューションのWebサイトに誘導する画像を掲出するという具合だ。また、製品やソリューションは、業界種別の表示ではなく、一覧表示からも探せるようにし、欲しい情報にダイレクトに到達するように全般的に情報構造を見直した。

 検索機能も、ボックス位置を中央に配置して、検索機能を大きくアピールし、検索ですぐに情報を探せるようにしたほか、チューニングして検索精度を上げ、事業部門やグループ会社サイトへの送客を強化。また、日立から伝えたいメッセージを的確に届けられるよう、最新情報をHighlightsの形で表示するようにした。

直帰率が改善、事業部のデジタル化推進にも貢献

 こうした改訂により、直帰率は30%と大幅に改善。またシンプル表示にしたことで、表示速度が1秒程度となったことも、ユーザーストレス軽減と直帰率の低減に貢献したと考えられる。

 他に大きな成果として、コーポレートサイト改訂をきっかけに、営業部門のデジタル化が加速したことも挙げられる。米山氏自身、Marketo導入に際して事業部門からの協力を促すために、「コーポレートサイトのトップページにあるブランディングエリアを、事業の告知のために自由に使えるようになる」と説得し、これに興味を持った事業部門がコーポレートサイトを入り口にした集客や告知に乗り出した。

 コーポレートサイトのトップページからの送客が増えることで、案件獲得などの営業活動効果がアップすると期待できるため、事業部門のSFA活用も促進される。仮にMarketoの使用に慣れていなくても、Marketo Engageでは訪問したユーザーがWebサイトをどれだけ閲覧したのか、レポートメールを配信できるので、それを起点にデジタル活用を促進できるという。

 今後の展開としては、まずコーポレートサイトトップページを活用していくことに加え、オウンドメディアやペイドメディア、アーンドメディアを組み合わせた集客強化、リード獲得の向上に向けて進化させるという。さらに、グループ全体のインターナルコミュニケーションの促進や、採用活動や広報活動、IR活動の成果としてコーポレートサイトの訪問状況をKPIとして使うなど、より範囲を企業活動全体に広げながら効果を高めていく方針だ。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • Twitter
  • Pocket
  • note
関連リンク
この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2020/01/16 10:00 https://markezine.jp/article/detail/32078