思考の基礎体力を高める:論理的思考
基本情報
「論理的思考(ロジカル・シンキング)」とは、結論と根拠のつながりを明確にし、客観的かつ合理的に考えるための思考法です。「◯◯だから△△」でつながる考え方ともいえるでしょう。結論と根拠がつながっていないと、何を考えているのかわからず思考が迷子になったり、他者に伝えたい場合に理解してもらえないといった状況に陥ります。そうならないために、筋道立った思考が必要になるのです。
論理的思考は様々なエッセンスを含む概念ではありますが、ここでは「結論と根拠がそれぞれ明確であり、さらにそれらが適切に結びついているか」という視点を日々の思考の中に取り入れるためのポイントを解説します。
考え方
(1)[論点を決める]
何について考えるのかを「論点」として設定します。上図の例では「苦戦しているアパレルショップ事業から撤退すべきか」を論点にしています。
(2)[情報を集める]
(1)で設定した論点に対する結論を出すために必要な情報を収集し、整理します。情報はやみくもに集め始めるのではなく、事前に論点をある程度分解し、集めるべき情報の全体像を可視化しておくと効果的です。
(3)[何がいえるかを考える]
(2)で集めて整理した情報から何がいえるかを考えます。情報から「解釈」を引き出すステップといえます。個別の情報が意味することを考えながら、最終的に(1)の論点に対する結論を出すことを目指します。情報から解釈を引き出すための考え方としては、演繹的思考、帰納的思考、アブダクションが基本となります。
(4)[論理を構造化する]
最終的な結論に至ったら、その結論までの思考の筋道を整理します。結論と根拠の全体像を整理するには、結論を頂点としたピラミッド構造に整理するのが有効です。「Why So(なぜなら)」と「So What(だから)」でそれぞれがつながっているか、漏れなくダブりなく考えられているか(MECE)をチェックします。
思考のヒント:思考に詰まったら頭の中から出してみる
論理を組み立てるのに詰まったら、頭の中だけで考えるのではなく、外に出してみましょう。人に伝えようとすると、自分以外の人でもわかるように論理を整理する必要があります。人と話したり文章を書く過程で見えていない部分がわかるので、論理的な思考を促進することができます。
アイデアの発想力を高める:図解思考
基本情報
「図解思考」とは、図の作成を通して複雑な情報の関係性をシンプルにとらえる思考法です。文章で書き出して考えるだけでは難しい、要素と要素の関係性を理解しやすい点が魅力といえます。
図解思考でポイントとなるのは「抽象化」と「パターン化」です。抽象化により、複雑な物事の全体像や要点を理解し、表現することができます。パターン化によって、類似の問題の事例から、解決策を考えるための糸口を見つけやすくなります。
アイデアの収束・発散はもちろん、プレゼンテーションや企画提案などの様々な場面で活きる思考法です。上図では、結婚相談所の持つ機能を図解しています。
考え方
(1)[図のパーツを書き出す]
考える対象に関する部分的な情報をパーツ(部品)として書き出します。これを組み合わせて図を作り上げます。色々な情報の中から、全体を説明するために必要なポイントとなる要素を抽出しておくことが重要です。
(2)[関係性を整理する]
パーツ間にある関係性を考えます。例えば何かが交換されているのか、従属関係・包含関係・対立関係などの関係性があるのかを整理します。
(3)[図として表現する]
パーツとその関係性を図解します。作成した図を見て、そこから得られる着想をもとにアイデアを磨きます。図解の表現方法に絶対的なルールは存在しませんが、下記のような代表的な表現方法を知っておくと、図解思考がはかどります。
思考のヒント:まずは四角形と線を使いこなせるように
図解思考の基本は、四角形と線を用いて要素と要素の間にある関係を表現できるようになることです。
ヒト・モノ・コトなどを四角形に、その間で移動・交換されるものを矢印として表現します。身近な物事の関係性を図解で表現できないかトライしてみましょう。
ビジネス思考力を高める:コンセプチュアル思考
基本情報
「コンセプチュアル思考」とは、目には見えない物事の本質的な性質をとらえる思考です。物事への理解を促進するとともに、意味を再定義することで、新しい認識や見方を生み出します。価値の設計や、組織のビジョン構築など、大局的な思考を要する場面で特に大切な考え方です。
ここでは再定義の過程で重要な、「抽象と具体」「主観と客観」の軸を往復する思考について紹介します。
考え方
(1)[意味を理解する]
考える対象となるテーマを設定し、その物事が持つ意味や一般的な認識を調べます。
(2)[客観的な事実を見る]
テーマに関連する具体的な情報を収集して、事実に対する理解を深めます。事例や関連分野の情報、その物事がたどってきた歴史などに着目します。
(3)[自分の経験とひもづける]
客観的・一般的な定義や事実に加えて、自分自身の持っている経験や考えを書き出します。一般論を述べるだけでなく、「自分ごと化」することがポイントです。
(4)[意味を再定義する]
ここまでに収集した情報を踏まえ、自分なりに物事の意味を再定義します。左ページは「銭湯」について考えている例です。銭湯とは、一般的にはお風呂に入る場所(機能)という認識がありますが、自身の経験から実際にはそれだけではなく、利用者同士の交流や、地域のセーフティーネットワークも担っていると考え、銭湯を「地域住民の交流拠点」と再定義しています。ここで再定義される内容は短い言葉でも、一般的な意味や事実に加え、自身の経験や考え方が集約されていることが重要です。
(5)[表現する]
生み出した新しい考え方でアクションを考えます。例でいえば、単なる浴場ビジネスとしてではなく、地域交流の面からも銭湯の活性化に取り組む活動を考えられます。組織のビジョンについて考える場合には、ビジョナリー思考と組み合わせることで、より結晶度の高いビジョンを生み出すことができます。
思考のヒント:イメージ化にも挑戦してみる
(4)のステップでは、言葉によって再定義することで概念を理解します。同時に、イメージを考えてみることも概念化を促進します。例えば、銭湯の意味や役割を図やイラストにするとどうなるでしょうか。
正解ではなく納得を目指して、再定義に挑戦してみましょう。
プロジェクトの推進力を高める:抽象化思考
基本情報
思考の軸として重要な要素に「具体と抽象」があります。「具体化思考」とは、物事の意味や様子を細分化してはっきり明確に考えていく思考です。思考対象を要素分解して細かく考えます。
一方、ここで紹介する「抽象化思考」とは、個別でバラバラな物事の中から共通点を見つけ出し、より大きなまとまりで考える思考法です。分解より統合、部分集合よりも全体集合を考えます。
仕事の中では、具体化思考と抽象化思考はセットで使うことが重要です。具体化思考は行動に直結する部分を考えることに強みがあります。抽象化思考は全体像と各部分の関係性を理解し、物事の本質的な部分を考える際に強みを発揮します。何を、なぜ考えるのかを考え、それを他者と共有するには抽象化思考が欠かせません。
考え方
(1)[思考内容のリストアップ]
いま具体的に考えている情報をリストアップします。例えば飲食店で仕事をしていて、「店舗の掃除」や「さわやかな接客」について考えているのであれば、その内容を書き出します。
(2)[共通点を探して抽象化する]
リストアップした情報の中にある共通点を探し、大きな意味でのまとまりを考えます。例えば上記の例の場合、「快適な空間の提供」という共通点が存在しています。このように掃除や接客から「快適な空間の提供」という大きなまとまりへ、そのまたさらに大きなまとまりの「食を通じて人々の日常を彩るお手伝い」へと、高いレベルで考えていくのが抽象化思考です。
例:思考の切り口
共通点を考えるのに詰まる場合は、物事の間に共通して存在する「特徴」「属性」「意味」に着目したり、「そもそもこれらの要素を考える目的って何だっけ?」といった切り口で、リストアップした要素を一段高い視点から見比べてみます。
(3)[階層を整理する]
抽象度(まとまりの大きさ)を整理し、全体と部分がわかるよう階層化します(上図参照)。特に、複数人で1つのことを考えたり議論したりする際、考えている階層がズレていると話が噛み合わないため、すり合わせることが重要です。
(4)[全体を見て欠けている点を補う]
階層を整理して抽象度の高い視点から全体を見てみて、思考が足りていない部分がある場合は、逆に掘り下げて(具体化して)考えます。
思考のヒント:単に抽象的であるのと抽象化できるのは違う
ここでは抽象化思考のメリットや活用法を紹介しましたが、具体を伴わない「単に抽象的なだけの状態」は思考があいまいなだけで、行動につながらないため注意が必要です。
具体的な情報、抽象的な情報がそれぞれひもづき、具体と抽象を行き来できる状態を目指しましょう。
分析力を高める:仮説思考
基本情報
「仮説思考」とは、問いに対する仮の答えである「仮説」を立て、その仮説が正しいかどうかを検証しながら、結論の質を高めていく思考法です。限られた時間の中で、問題解決のスピードを高められる点が魅力です。
仮説思考では、物事を考えるにあたり「情報をすべて網羅してから結論を出す」ということはしません。まず手元にある情報や比較的入手しやすい情報から「仮に結論を出す」ことを重視します。仮の結論があることで全体の見通しが立ち、的を絞ったうえで、必要な情報の収集や分析を行うことができるようになります。
なお、仮説思考は「問題を発見する(結論=解くべき問題)」「解決策を考える(結論=解決策)」のどちらの場合でも活用可能ですが、ここでは問題を発見するために活用することを前提に説明しています。
考え方
(1)[仮説を立てる]
考えるべきテーマに対する自分なりの仮説を立てます。「売上が伸びていない」という状況だとすると、いま手元にある情報や過去の経験から「おそらくこういう点が問題だろう」という仮説を用意します。左ページの例では「広告の効果が落ちている」という仮説をまず考えています。
補足:仮説とは
仮説とは、問題解決の場面においては「仮の答え(仮の結論)」を意味します。どんな仮説を立てるか迷ったときは、観察できる事実に対して「なぜ?」と問いかけ、「その状況が起きる理由を説明してみる」つもりで考えます。仮説を深掘りする方法については、Why思考やアブダクションも活用できます。
(2)[仮説を検証する]
必要な情報を追加調査し、仮説の正しさを検証していきます。方法としては、顧客データのチェック、テスト施策の実施、インタビュー、アンケート、行動の観察などがあります。具体的には、テスト用の商品や施策の反応を見たり、顧客や周囲の人にヒアリングして仮説と事実のズレを可視化します。検証する仮説の規模や必要なコストを考慮し、ベストな検証方法を選択しましょう。
(3)[仮説を進化させる]
得られた検証結果から、次の仮説(進化した仮説)を立てます。実際に検証した結果、「広告効果」は問題ではなく「他人に紹介しにくい」ことがネックになっているとわかったら、そこを中心に深掘りして考えます。以降、「(1)仮説→(2)検証→(3)仮説の進化」というサイクルを回し、最終的な結論(ここでは解決すべき問題)を導き出します。
思考のヒント:試行錯誤で最適解を目指す
仮説思考を実践するためには、「100%正しい答えを最初に出すことはできない」という前提を持っておくことが重要です。時間をかけて入念に情報収集・分析するのではなく、一定の期間で仮説検証の数を増やすことや、動きながら検証の精度を高めていくことが必要になります。