味の素/デジタルでトレンドを掴み、テレビCMをいち早く展開
続いて齋藤氏は、メーカーへのマーケティング支援事例を紹介。齋藤氏はまず、クックパッドのデータから流行をいち早くキャッチし、マス向けのプロモーションを展開することに成功した、味の素「丸鶏がらスープ」の取り組みについて明かした。
取り組みのきっかけは「無限ピーマン」というレシピ。2016年にある主婦がSNSで「子どもが無限にピーマンを食べてくれた」という文言とともに、作り方を投稿したのがブームの始まりだった。すぐにクックパッドにもレシピが投稿され、「無限ピーマン」の検索も増えたという。
クックパッドでは、このようなトレンドの兆しを見つけたとき、「使われている食材・調味料は何か」「ユーザーのどのようなニーズを反映しているのか」などを分析している。無限ピーマンについて調べたところ、多くの場合、調味料には「中華だし」が使われていることがわかった。そこで2016年末に、取引先だった味の素に「無限というキーワードを、生活者とのコミュニケーションの軸にしてはどうか」と提案した。
その後、味の素とクックパッドは、「無限シリーズ」として数々のレシピを開発。ピーマンだけでなく、「無限ニンジン」「無限キャベツ」とシリーズ化して公開したほか、クックパッドで「無限ピーマン」と検索すると、味の素の「無限シリーズ」のバナーが表示されるようにした。その結果、「無限」に関する検索では、味の素のレシピが1位を獲得した。

デジタル上のユーザーの反応から手ごたえを掴んだ味の素は、タレントの渡辺直美さんを起用したテレビCMを制作し、放映。齋藤氏は、「デジタルでトレンドの兆しを掴み、マス向けに展開するという流れは、味の素さんでも初めてと聞いています」と話した。
花王/クリック率の高さは、リアル店舗の購買に結びつくのか?
またクックパッドは2016年から、花王の食器用洗剤「キュキュット泡スプレー」のマーケティングも支援している。この取り組みを紹介するにあたって齋藤氏が会場に問いかけたのが、「クリック率は何を語っているのか」。クリック率はデジタル広告の重要なKPIと考えられているが、食品や日用品など、リアル店舗での購買が中心の商材においても、それは当てはまるのだろうか。
検証のために、両社は2種類のクリエイティブを用意。「お弁当箱の汚れをこすらず一気に落とす」という製品の価値を訴求するクリエイティブ(下図の左)と、「家族が喜ぶ時短お弁当レシピ」としてシーンに寄り添った訴求をするクリエイティブ(下図の右)をテスト配信した。

するとクリック率は、前者が0.19%、後者が0.4%という結果に。しかし「シーン訴求のクリエイティブは確かにクリック率は高いが、本当に製品の価値を伝え、売り上げにインパクトをもたらすことができているのか疑問だった」と齋藤氏。その問いがクリアになるまで、2つのクリエイティブをもう少し配信し続けることにした。
一定期間が経過した後、外部調査会社を通じてバナーの効果を詳細に調べてみたところ、商品の認知・購入意欲については、クリック率が低かった製品価値を伝えるクリエイティブに軍配が上がった。
さらに実際の購入についても、製品価値を訴求したバナーは2.9%と、クリック率が高かったレシピ訴求の2.1%を上回る貢献をしていた。

「特にリアル店舗を主戦場とする商材を扱う場合は、クリック率のみをKPIとしてもよいのか、慎重に考える必要があることがわかりました」(齋藤氏)
なお、このような測定が可能なのは、クックパッドが約5万人のモニターをもつインテージの消費者パネル「SCI(全国個人消費者パネル調査)」とデータ連携をしているためだ。齋藤氏によると、データのシンク率は70~80%。実際に広告に触れたか触れていないかを判定して、購入率を把握できるという。