経験から導き出された課題と手応え
MarkeZine編集部(以下、MZ):まず、それぞれのご提供されているサービスの概要と特長をお聞かせください。
酒井:弊社は「VANDLE CARD(バンドルカード)」という、どなたでも作れるVisaのプリペイドカードのアプリを提供しています。特徴的なのが「ポチっとチャージ」というサービスです。他のプリペイドカードでも一般的なコンビニなどでの事前チャージのほか、後払いチャージでも使用でき、その金額は翌月末までのお好きなタイミングにお支払いいただくというものです。また、アプリだけでなくリアルカードを発行することもできるので、ネットでもリアルでもお買い物にご利用いただけます。
西林:我々、Libalent(リバレント)の広告事業は、お笑いを中心にタレントを起用したエンタメ性の強いプロモーション動画制作や、インフルエンサーマーケティングを主戦場としています。クライアント様にとってベストなプロモーションにすることはもちろんのこと、ユーザーに楽しんでもらえる広告にするという点を最も注力しています。
MZ:VANDLE CARDではこれまで様々な動画を作ってこられたそうですが、どのような取り組みを行い、どういった課題感を持っていたのでしょうか。
酒井:VANDLE CARDのような金融系サービスは、しっかりと説明をする必要があります。最初はフリー素材を使い、サービス説明を重点的に行う硬めのクリエイティブを作りました。しかし、日頃から金融系サービスに興味を持っているという人はあまり多くないので、丁寧に説明することでCVRは高かったものの、配信ボリュームが出ず、CTRやエンゲージメント率が低いことが悩みでした。その次に、もう少し柔らかめの内容にしてみました。そうすると今度はCTRとエンゲージメント率は上がったのですが、逆にCVRが低くなりました。これにより、クリエイティブのおもしろさと自分ごと化できるようなサービスの訴求の両立という課題が見えてきました。
酒井:次にYouTuberを起用したものも制作しました。YouTuberの方はユーザーと距離感が近いので、自分ごと化してもらいやすいのではないかと考えてのことです。ただ、YouTuberの方にサービスを完璧に理解してもらうことは難しく、撮影は基本的にお任せなので、内容をコントロールしづらいという問題がありました。そのため、せっかく撮ったのに使えなかった動画もありました。公開したものについては、YouTuberの方のファンコミュニティを取り込めるので、CTRやCVRは非常に高かったです。一部現在も使い続けている動画もあります。ただ、YouTuberさんの場合、コンテンツの内容的にユーザーからネガティブなコメントが入ることもありえます。その場合、両者にとってイメージダウンにつながるのではないかという懸念が拭えません。金融系サービスにおいては大きなネックです。
Twitterとの親和性が高いNON STYLEを起用
MZ:そこで芸人さんを起用した動画を作ることになったのですね。Libalentさんとは、どのようにつながられたのでしょうか。
酒井:Twitterさんから、IVS(インストリーム動画スポンサーシップ)というメニューを一度試してみませんかとご提案をいただき、同時にTwitterのコンテンツパートナーであるLibalentさんを紹介していただきました。芸人さんを使ったことはありませんでしたし、つてもありませんでしたから、ここは一度挑戦してみようかという話になりました。
MZ:人気芸人の起用となると予算もかかるかと思うのですが、その点はいかがでしたか。
酒井:それまで目指している獲得数を達成できたことが少なかったので、ここで予算をかけても攻めていかなければいけないと考えていました。クリエイティブに予算をかけたほうが成果につながることは過去の実績からもわかっていましたし、獲得数を達成するために投資をしようという判断です。
MZ:動画にはNON STYLE(ノンスタイル)さんが出演していますが、どういう経緯でキャスティングが決まったのですか。
西林:我々がキャスティングの候補を出すポイントは、企画や訴求内容とマッチするかということと、ターゲット層とマッチしているのかの2点になります。前者では、VANDLE CARDはきちんと説明しなければいけないことが多いので、コンビの掛け合いで説明するのがわかりやすいと考えました。NON STYLEさんはスピード漫才が売りで、説明的な言葉の中にも笑いを入れられます。後者に関して、NON STYLEさんは女子高生の人気芸人ランキングで1位になるなど、若年層から絶大な支持を得続けています。Twitterでのエンゲージメントもすごく高いんですよ。Twitterユーザーに受け入れられやすいということは、それまでの他のクライアントさんとの施策でも見えていました。
酒井:Libalentさんのキャスティング資料でも、NON STYLEさんの好感度は圧倒的に高かったんですよ。NON STYLEファンの方以外に広告が当たっても、好感度が高ければネガティブなコメントがつきにくいだろうというのが決め手の一つでした。また、 NON STYLEの石田明さんと井上裕介さんのTwitter投稿を実際に見てみても、1つの投稿に対して何万いいね、何千リツイートという反響があり、エンゲージメントの高さを実感しました。
アドリブも活かした動画制作
MZ:動画制作は、どのような手順で行っていくのでしょうか。
西林:まず我々が用意しているフォーマットに、クライアントさんの訴求テーマや入れたいキーワード、NGワードなどをご記入いただきます。そして通常は、弊社の構成作家やクリエイティブチームと共に台本を作ります。その後、出演する芸人とも打ち合わせをし、もっとこうした方がいいのではないかというような意見を反映させて台本を仕上げます。ただNON STYLEさんに関しては特殊で、石田さん自身がネタを作って、台本を書いています。石田さんはクライアントさんの訴求内容を咀嚼して理解してくれ、笑いもしっかり入れたネタを作り上げてくれるのでこういった形で実現できました。本当に頭が上がらないです(笑)。
MZ:撮影時の雰囲気はどういった感じなのでしょうか。
西林:撮影には必ずクライアントさんにもご同席いただいています。その場で表現などについてチェックしていただくためです。撮影のときに僕らが意識しているのは、現場でクライアントさんにも楽しんでもらうことです。台本を作ってはいるものの、ボケなどに関しては芸人さんに自由に変えていいよと伝えています。クライアントさんをお客さんと見立てたお笑いライブにしちゃうことで、芸人さんのアドリブも引き出せて、結果的に台本以上のものが出来上がります。
酒井:お笑いの部分は芸人さんにお任せして、サービスの特徴をちゃんと伝えるというところの補足は自分がやらせてもらうという、良好なバランスで撮影ができました。丸投げではなく、一緒におもしろいものが作れたなという感覚があります。
MZ:その時の施策としては、何本の動画を制作したのでしょうか。
酒井:5本です。最初に、漫才フォーマットがいいか、楽屋などでラフに話している感じのオフシーンフォーマットのどちらがいいかという議論がありました。Twitterの事例でエンゲージメントが高いのは、漫才フォーマットでした。ですが、僕らのサービスは決済手段の課題を解決するものなので、それを自分ごと化させるためにはラフなシチュエーションのほうが伝わるんじゃないかと考えました。そこで、漫才フォーマットで3本、オフシーンフォーマットで2本の動画を制作しました。
獲得ボリューム2.5倍の成果とそこからの発見
MZ:NON STYLEを起用した動画の成果について教えてください。
酒井:獲得ボリュームは2.5倍に伸び、動画の視聴率が10%上がりました。CVRも上がり、ボリュームが出たのでCPAは安くなりました。また、動画につくコメントが、ポジティブなものばかりだったんですよ。
先ほどもお話したとおり、金融系サービスでは信頼感や印象といったものが非常に大切です。NON STYLEさんの動画はYouTuberを起用したときとは反響がまったく異なり、「この動画はおもしろい」とか、「何度でも見ちゃう」など、ユーザーが広告をコンテンツとして楽しんでくれたのがわかりました。よい広告フォーマットを見つけられたなと思いました。僕らとしてはメリットしかなかったです。
MZ:動画マーケティングでよく話題になる尺について。最適解はあるのでしょうか。
酒井:一番効果がいいのは30~45秒くらいですね。5~6秒の短尺も、1分半~2分くらいある長尺も試したのですが、短尺だとうちのサービスの利便性を伝えきれませんし、尺が長すぎるといくらおもしろいコンテンツだとしても、やはりユーザーのストレスになってしまいます。
西林:それは他の案件でも同じような結果が見えてきています。飽きさせない内容で、なおかつ訴求とお笑いどちらも伝えられる尺が30~45秒なのだと思います。
新作動画と今後の展望
MZ:NON STYLEが登場する新しい動画も制作されたとのことですが、どのようなものになりますか。
西林:前回の動画でより成果があったのは、漫才フォーマットではなくオフシーンフォーマットのほうでした。オフシーンのものは、説明するのではなく本人が体験している形になるので、ユーザーさんの共感を得られたのではないかと思っています。そこで、今回はすべてオフシーンフォーマットだけにしました。
酒井:以前はピザや化粧品といった具体的なモノを買うシーンを入れる動画も作っていました。ですが、前の動画でNON STYLEの石田さんが「白いパンツを買おうと思ったんだけど、今手持ちの現金もクレジットカードもないから買えなかった」というネタを入れたんですよ。普段白いパンツを欲しいと思っている人は多くないので、商品に意識がひっぱられないのが良いなと思いました。そこで今回は、購入するものをあまり出さないように意識しました。そのほうが、具体的な利用シーンを限定せず、ユーザーも受け入れやすいと考えてのことです。
MZ:今後の動画活用の展望について、VANDLE CARDではどういったクリエイティブや広告展開を考えていますでしょうか。
酒井:今回の芸人を起用した動画制作で学んだことを、他にも当てはめて新しいチャレンジをしていきたいなと思っています。いくら結果がよかったからといって、芸人を使ったものばかり続けていくわけにもいきません。プラットフォームによっても受け入れられる形も違うでしょう。たとえば、TikTokではどうなるかも考えていかなければなりません。
ネット広告はユーザーにとってストレスになることが少なくありません。単なる広告では、ユーザーの時間を奪うだけです。ユーザーに楽しんでもらいながら、正確な情報がしっかり伝わるコンテンツを送り出していければと思います。
MZ:Libalentとして今後どのように広告主を支援していくか、ビジョンをお聞かせください。
西林:広告事業部としては、SNS×動画×エンターテインメントという分野でナンバーワンにならなければいけないと思っています。お笑い芸人だけでなく、アイドルやインフルエンサーも起用し、成功事例を積み重ねていきたいですね。
尖りすぎた企画はボツになることもありますし、かといって置きにいった企画では話題にもなりません。クリエイティブの面では、振り幅のバランスを見てプラットフォームごとの最適解を見つけていければと思います。