組織を見れば戦略と課題が見えてくる
全3部で開催したMarkeZine Trend Seminar vol.3、第2部ではニューバランス ジャパンの鈴木健さんをお招きした。最初に、定期誌『MarkeZine』第44号の特集「今、広告主に必要な組織」にていただいたコメントを紹介しておきたい。
現在のマーケティング部門の組織体制
約30名で、マーケティング機能別のチーム体制となっています。ブランドのビジネス領域が拡大するにしたがって、マーケティング組織も規模が大きくなり、業務が複雑になってきました。そのため、ここ数年はチーム体制も試行錯誤しつつ変化させてきています。
特にデジタルマーケティング領域は予算の比重が高くなり、オフラインでのマーケティングを含めた統合型のマーケティング活動が増えているものの、そのぶんデジタルチャネルにおけるマーケティングを俯瞰して捉えることが困難になりつつあることが課題です。
他部門やパートナーとの関係構築のコツ
ブランドがターゲットとする顧客とそのコミュニティの特性から、顧客のライフスタイルと文化を肌で理解しているかどうか。そして、その顧客のインサイトからブランドのユニークさを顧客と結びつけるクリエイティブおよびマーケティングのアイデアを実現できるかどうかを重要視しています。
その他にも、デジタルをはじめとするメディア接触や購買行動のカスタマージャーニーを把握し、適切なタイミングとタッチポイントでブランド体験を設計できること、活動に関して定性的および定量的に結果を把握し、その分析から次のアクションを検討できるデータ分析スキルと提案力を持っていることも重要ですね。
同特集では他にも多数のBtoB、BtoC企業の方にコメントをいただいたが、鈴木さんは組織について明かすのは勇気がいることだと指摘した。なぜなら、組織のあり方からその企業の戦略や課題をうかがい知ることができるからだ。それゆえに、競合の組織について語られているときはじっくり読むことを鈴木さんは勧める。
マーケティング部門のあるべき像とは?
では、今回の本題であるマーケティング部門に関してもそのあり方が企業の戦略を表しているのだろうか。鈴木さんはまず、マーケティング部門には機能別と事業別の2種類があると話す。
機能別とは、広報やPR、広告、デジタルなどマーケティングの機能ごとに部署を設けた横断的な組織体制のこと。日本では伝統的で、専門性が高くなり仕事のクオリティを高めやすい。しかし、事業部門との結びつきが弱いため、どうしても売上や損益(P/L)の認識が甘くなる。社内での下請け的な立場にもなりやすく、依頼されて唯々諾々と作業することがメインタスクになってしまいがちだ。
一方で、事業別(ブランド別)ではP/Lに紐づいたマーケティングが可能になり、事業と一体となって戦略を立て施策を進めていくことができる。だがこちらも一長一短があり、事業ごとにマーケティングのノウハウがばらばらになり、同じ会社でありながら部署間でやっていることや目標まで異なってしまう可能性がある。
この2種類の組織体制は、実は企業がどの段階にあるかに直結しているという。だから、組織を見れば企業の戦略や課題が見えてくるのだ。それでは、実際にマーケティングに取り組む際、機能別と事業別のどちらを目指すべきなのだろうか。それには自社の段階を考慮すべきだというのが鈴木さんの考えだ。
企業規模の小さい創業期には事業とマーケティングが一体化した組織がふさわしい。そもそも事業自体が1つしかないので社内全体でKGIを共有しやすく、垂直構造ですばやい意思決定をすることも可能だ。
だが、企業が成長期に差しかかると、どうしても高い専門性が必要になる。ECから実店舗へ進出したり、よりマーケティングを強化したりしたいとき、機能ごとに部署を設けることが事業の効率性を高めることにつながる。ただ、企業規模としてはまだ大きくないのと、従業員に創業時のパッションが残っているため、機能別の組織体制にしても大きな問題は生じにくい。
これが成熟期に入るとどうなるか。大企業化して安定するが、市場は成長しないのでその中で事業を営んでいくことになる。効率的な人員配置とマネジメントが重要になり、総合力や育成が必要となる。マーケティング部門は機能が統合されつつも、事業部門とはやや離れていることが多いと考えられる。
そして企業は回復期へと進む。これは事業がうまくいかなくなってきた段階であり、従業員のモチベーションは極めて低い。ビジネス全体を見渡し、自分たちの強みやコア機能に集中する必要がある。創業期のマインドセットを思い出し、それに組織体制も合わせなければならない。
企業としては成熟期の勢いのままイノベーションを起こしたいと考えるだろう。その際、企業規模は大きくても創業期のような組織を作ることが求められる。たとえば、新規事業を立ち上げる場合にも、創業期の組織体制で従業員も兼任ではなく専任で取りかからなければならない。
鈴木さんは社内起業家を育てたいという声に対しても、同じ組織の中で育てるのは不可能なため、環境を変える必要があると話す。イノベーションや新規事業の立ち上げが失敗するのは、人や社内文化よりも組織構造の問題だそうだ。
鈴木さんは、この組織構造の問題についてサフィ・バーコール氏の『Loonshots:How to Nuture the Crazy Ideas that Win Wars, Cure Diseases, and Transform Industries (St. Martin's Press、2019年)』で書かれている「Phase Separation」が原因ではないかとした。結びつく力の強いすでに固まった組織の中では、人は自由に動けない。サフィ・バーコール氏はこれを水と氷に例え、イノベーションを起こすには自由な液体である水(新組織)のほうがよく、すでに固体となった氷(既存組織)とは分けるべきとしている。
また、広告主が代理店といい付き合いをするためにも、自社がどの段階にあり、どういった機能を必要としているのかを理解しておくことが大切だ。創業期なら代理店には専門性を求めるべきで、成熟期や回復期ならリーダーシップそのものを要求する場合もありうる。