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顧客が求めるパーソナライゼーションをAI×ヒトで実現 今、マーケターに求められるものとは?

 今CXの文脈で最も注目されている領域の一つ、パーソナライゼーション。ユーザーの状態や属性をもとにサイトなどを最適化し、ユーザーストレスを取り除いて望ましい行動を促す方法である。かつてアクサダイレクト生命保険でUX施策に注力し、現在はアドフレックス・コミュニケーションズのディレクターを務める岩本大輔氏に、パーソナライゼーションの真髄を聞いた。

Amazonがユーザーのパーソナライゼーションへの期待値を高めた

――岩本さんは前職のアクサダイレクト生命保険で、WebマスターとしてUX設計をはじめとするデジタルマーケティング業務に携わっていらっしゃいましたが、UX設計において最も大切な点は何だとお考えですか。

岩本:私がUX設計において重視してきたのは、「脳みそを使わないサイト作り」です。一説によると現代人は1日に9,000回くらいの「決断」をしているといわれています。情報の洪水によって1日に決断しなければいけない数が人間のキャパシティを超えている状態で、私たちは「決断疲れ」の時代に生きていると言えます。そこで、「いかにユーザーの思考に負荷をかけず、決断コストを下げるか」が大事なのです。

株式会社アドフレックス・コミュニケーションズ ストラテジック パートナー ユニット ディレクター 岩本大輔氏
株式会社アドフレックス・コミュニケーションズ ストラテジック パートナー ユニット ディレクター 岩本大輔氏

――ユーザーが簡単に決断できる設計にすることで、ユーザーに企業にとって望ましい行動をとってもらうわけですね。

岩本:はい、世の中の成功したプロダクトは、決断をスムーズにさせるという思想でUX設計されていることが多いのです。直感的に操作できるiPhoneは、典型例の一つです。

 同じことがWebの世界にも浸透していて、たとえばAmazonのようなUXを重視している企業のECサイトでは、ユーザーに考える負担をかけないための工夫が随所になされています。そしてユーザーも、AmazonのようなWebサイトに接触し続けることで、スムーズで快適なUX設計を当然視するようになってきました。そうした疲れにくいUX設計の本質が「パーソナライゼーション」なのです。

優れたパーソナライゼーションの条件とは

――Amazonのようなパーソナライゼーションが行き届いたサイトにはどのような特徴があるのですか。

岩本:まず、企業がお客様に伝えるメッセージの量が、受け取るユーザー側のキャパシティを超えていない、つまり、情報量が絞られていて見やすいことが特徴の一つです。

 また、メッセージの伝え方もUXに影響します。たとえば、喫煙者かどうかを尋ねる際に「あなたは喫煙者ですか」と表示し、「はい」「いいえ」で答えてもらう質問を、回答ボタンのテキストを「喫煙している」「喫煙していない」に変えるだけで、質問文を読まずとも直感的に答えやすくなります。

 このように、情報がスッと頭に入ってきたり、適切なところでナビゲーションが出てくるなど、一人ひとりに沿ったコンテンツが適切に配置されているWebサイトはUXが優れています。言葉にすると当たり前に聞こえるもしれませんが、こういうことを実現できている企業は少ないと思います。

――必死に情報を探したり、悩んだりする必要がなく、ユーザーが必要とする情報が自然に手渡されるUX設計というわけですね。

岩本:そうですね。私も前職時代にはWebサイトへの訪問回数や滞在時間などのユーザー行動、それに性別や年齢、家族構成といった属性情報をもとにセグメントを切り、セグメントごとにどういうメッセージを出せばいいのかを一生懸命分析していました。

 とはいえ、時間的にも技術的にも、できることには限りがあります。開発や手動での設定などに手間がかかるため、なかなかマーケターの理想通りにはいかず、ユーザーが期待するパーソナライゼーションを実現するのは非常に難しいのが実情です。

AIと人間が手を携えることで質の高いパーソナライゼーションが実現

――想定するユーザーのペルソナやシチュエーションを増やしていくと、パーソナライズというのは途方もない労力を要しますよね。

岩本:おっしゃるとおりです。パーソナライゼーションを進めるにあたって、「誰に」「どんなメッセージを」「どのタイミングで」を設計するのかが、重要な要素になります。ここで問題になるのが、出し分けの基準となる「誰に」の設計は正解にたどり着くのが難しく、非常に手間がかかることです。

 たとえば、初回来訪の方なのか、2回目の方なのかで当てるべきメッセージが違うかもしれませんし、どの商品を見ているかによっても出し分けたほうがいい場合もあります。考えるほどにテストパターンは膨大になり、検証や情報の取りまとめにも時間がかかるため、マーケターはCXの追求において妥協せざるを得ませんでした。しかし、ここで救世主となるのがAIです。

 人間であれば、膨大なパターンを考えセットして検証するのに時間がかかりますが、AIは無数のパターンを試行して最適化し、考えもつかなかった知見を一瞬で引き出してくれます。このように、人が考え出すパターン数や実行するスピードには限界がありますが、AIを使うことで想定外のセグメントに意外なメッセージが刺さる、というケースも出てきます。

――なるほど。人間がWebサイトの施策をプランニングするにあたり、AIとの分業も必要になってくるのでしょうか。

岩本:はい、AIが得意なことと人にしかできないことがあると思います。たとえば「どんなメッセージを伝えるか」を考えるのは人間の役割であり、「誰に対して」×「どのメッセージを」の効率的な組み合わせを考えるのはAIが得意な領域です。最近では「誰に対して」の部分、つまりセグメント設計までAIでできるようになりました。

 ECサイトのパーソナライゼーションならば、AIにCRM情報を連携させてユーザーの会員ランクを最適化の材料に加えることも、コールセンターへの入電有無や対応内容など、様々な要素を勘案させることもできます。

 このように、パターンの検証、高度な分析の加味といったマーケターが理想とするパーソナライゼーションがAIによって実現すると言っていいと思います。

マクドナルドが惚れ込んで買収したAIパーソナライゼーションツール

――岩本さんが特に注目しているAIのパーソナライゼーションツールを教えてください。

岩本:我々は米マクドナルド社がヘビーユーザーで、買収するにまで至ったことで話題となった「Dynamic Yield」に注目しており、お客様への導入を支援しています。

 Dynamic YieldはいわゆるWeb接客ツールですが、他のツールにはない特徴的な機能が3つあります。一つは「プレディクティブ・ターゲティング」と呼ばれる機能。AIが最も効果が高いと推定されるメッセージとターゲティングを提示し、ボタンを押せばそのまま施策を実行できます。

 もう一つは「ダイナミック・アロケーション」。A/Bテストの結果をモニタリングし続け、外部要因の影響を小さくしながら、随時結果が伸びそうな配信パターンへの配信数を自動的に増やす機能です。

 最後に「レコメンデーション」です。一般的なレコメンデーションは、「一緒に購入されている商品」や「人気商品」などを提示しますが、Dynamic Yieldのレコメンデーションの場合、13ものレコメンドアルゴリズムを備えており、そのアルゴリズムを組み合わせて使うことが可能です。また、アルゴリズムをどう割り当てていいかわからない場合、AIが自動的に最適なアルゴリズムのパターンを導き出すので、負荷なく高い効果を期待できます。

――アルゴリズムをAI側が自動的に選んでくれるのはすごいですね。

岩本:レコメンドの中のどの枠にどのアルゴリズムを適用するかは、セグメントと同様にいくら考えても正解のない領域だと思います。人間ならではの知恵が活かせない領域で頭を悩ませるのは生産的とは言えませんよね。

 世の中には様々なパーソナライゼーションツールがありますが「7割の人には最適だが、3割の人にはうまくあてはまらない」パーソナライゼーションになっているケースが多いように感じます。7割の適合率を10割に近いところまで持っていき、精緻で細分化されたパーソナライゼーションを実現できるのは、AIならではだと思います。

――どういった業界での成功事例が多いのでしょうか。

岩本:アパレルやECのように、SKUが多い分野で多くの実績があります。米マクドナルド社はドライブスルーでDynamic Yieldを導入し、車のナンバーや気候などのデータを活用しながらドライバーごとに最適なメニューを提示して成果を挙げています。一方で、SKUは少ないけれど、パーソナライズが有効な分野でも事例が増えつつあります。

他部署連携による顧客理解の深化がマーケターのミッションに

――AIをうまく使うことで人間には向いていない作業が省力化され、効率的にパーソナライゼーションができるようになるとすると、マーケターの役割はどのように変わるのでしょうか。

岩本:私としては人間の果たす役割は依然として大きいと考えています。マーケターは組織の壁を破ってコラボレーションを推進するという新しいミッションに取り組む必要があるでしょう。

 海外の事例を見ると、コールセンターとの密なやり取りを競争力に変えている企業が強く、中国ではマーケティング部門とコールセンターが統合する事例も増えているようです。真のパーソナライゼーションを実現するには、マーケティング組織だけに閉じず、様々なコンタクトポイントで得た顧客理解など、担当者の知見が求められます。

 かつ、「どういうことを伝えたいのか」といった根本的な点はAIが肩代わりするわけではありません。顧客と直に接する人間の知識を活かしながらインサイトを得た上で、優れたメッセージを作るのはマーケターの腕の見せ所であり続けるはずです。

 本当に大切なのは、マーケティングツールの管理画面という「箱」から外に出て、顧客視点で自社のビジネスを見つめ直し、成長のヒントを探ることです。私は事業会社時代に、お客様に直接対応している部署へのインタビューを一人ずつ地道に行い、UX施策に役立ててきました。

 こうして培った、社内のコラボレーションをディレクションして全体最適を実現していく基本姿勢や、事業会社のマーケティング組織でビジネスを成長させるために知恵を絞ってきた経験は、クライアントを支援させていただいている現在も役立っていると感じます。

 アドフレックス・コミュニケーションズには私を含め事業会社での経験が長いメンバーや、AIやUXなどのプロフェッショナルであるコンサルタントがおり、それぞれの専門性を活かした社内横断的なプロジェクト推進を得意としています。AIツールを導入して終わりではなく、「施策を進め、事業を成長させる」ためのトータルなビジネスプロデュース支援をこれからも提供していきたいです。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2020/01/09 11:00 https://markezine.jp/article/detail/32608