検討候補率とWebサイトアクセス数がKPIに
――ちなみに、統合マーケティングを始めるようになった理由を教えていただけますか。
自動車の購買行動の変化が大きいと思っています。今ってディーラーに行く回数が昔に比べて減っているんです。これは当社に限らず、自動車業界全体の変化と言えます。以前は、ディーラーに行ってみて1から10まで話を聞き、家に帰って検討して、もう1回ディーラーに行って試乗して、帰って再検討して……みたいなことを繰り返すのが一般的でした。
しかし、現在はほとんどのお客様が、事前にWebサイトで調べた上でディーラーにいらっしゃいます。そのため、車種も決め打ちで検討しているケースが多い。興味がある車種の機能や特徴も既に頭に入っているので、商談もかなり突っ込んだ内容になることがあります。
――以前よりも、デジタルでのタッチポイントの影響力が高まってきているということでしょうか。
その通りです。セグメントによっても多少異なりますが、現在の自動車の購買行動を踏まえると、デジタル上のタッチポイントで適切に接触して、検討候補に入っていくというのは非常に重要なことだと思います。
――現在、統合マーケティングを進める上で、重要としているKPIはありますか。
中間指標のKPIとして置いているのが、車種の検討候補率とWebサイトへの能動アクセス数ですね。検討候補率を上げる上で欠かせないのが、テレビCMやリーチ目的のデジタル広告です。リーチ量が適切に増えれば、検討候補率の向上と相関することがわかっています。
また、先ほどお話ししたように、デジタル上で検討している車種について調べるケースは増えているので、各車種のWebサイトにどの程度アクセスが集まっているかも指標としては追いかけています。
購入者調査とアクセスログでジャーニーを描く
――御社では各車種で複数のセグメントを用意し、セグメントごとのカスタマージャーニーを考え、それに合わせて施策を実施しているとのことでしたが、具体的にどのようなプロセスで設計、実行しているのか教えてください。
まず、セグメントに関しては基本的にはデモグラフィック情報をベースに考えます。ターゲットとなる層のライフスタイルや自動車に求めるものを、リサーチなどを用いて徹底的に洗い出します。その上でセグメント選定を行い、それが正しいかをディーラーへのヒアリングやリサーチでも検証します。地域によって、セグメントごとのボリュームやニーズも変わってきます。
そして、各セグメントのターゲット像をプロファイリングして、細かなニーズを探っていきます。
――各セグメントのプロファイリングとは、ペルソナを作り上げていくイメージでしょうか。
それに近いと思います。たとえばファミリー層向けの自動車の場合、子どもの年齢によって自動車に対するニーズも異なってきます。子どもが未就学児なら乗り心地を重視していたのが、子どもが小学生になると室内の大きさなども気になってきます。そして、子どもが親離れしたなどになってくれば、車を走らせる楽しさや燃費の良さなど、求めるものが違います。その違いをセグメントごとのニーズを詳細にし、カスタマージャーニーを作成します。
――カスタマージャーニーも何かのデータをもとに作成されているんでしょうか。
基本的には自動車購入者調査のデータとWebアクセスログなどのデジタルデータです。自動車購入者調査に関しては、我々の自動車を購入された方に対して、どういった情報源を見たか、自動車に重視していることなどをフォローアップしています。このデータはセグメント選定の際も参考にしています。Webアクセスログに関しては、ファーストパーティーデータとサードパーティーデータと組み合わせて解析し、各セグメントがデジタル上でどういった行動をしてきたのかを把握するようにしています。
また、我々のWebサイトの中でどういった回遊が行われているのかも分析し、いくつかのパターンに分類するようにしています。
これらのデータをもとに、「どれぐらいのタイミングで購入を考えているのか」「何を見て検討している傾向が強いか」などを分析した上で、カスタマージャーニーマップを作成します。
細かな調整の積み上げが成果となる
――カスタマージャーニーマップを描いた後、いよいよメディアプランを考えるのでしょうか。
そうですね。セグメントごとに、最適なタッチポイントはどこかを検討してメディアプランも考えます。ただ、結果として似通ってきてしまうこともあります。
私が思うに、統合マーケティングは取り組めば売上がすぐに大幅改善するような魔法の杖ではありません。各セグメントで細かなチューニングをしても、毎回何倍もの成果が得られるわけではありません。ただ、それが積み上がって大きな成果につながり、デジタル上でのアクションに落とし込めるというのがメリットだと思っています。
――細かなチューニングを繰り返すことで、いずれ大きな成果になってくるというわけですね。具体的にはどのようなことをしているんですか。
たとえば、各セグメントで微妙にディーラーに来店するタイミングが違うのであれば、それに関連して打つべき施策が変わってきます。また、未就学児のいるファミリー層だと、比較的若い方が多くテレビを見ていない層も一定数いるのでデジタル広告やキャンペーンを強化します。シニア層であれば、早い段階でテレビCMに接触するような設計を考えます。
――では、セグメントごとに割り振る予算も変わってくるということでしょうか。
そうですね。年間の投資プランをもとに割り振っていくのですが、グローバルで持っているデータベースを分析し、何にどの程度投資をすれば、期待通りのリターンが返ってくるかを予測できるシステムを開発しています。それをもとに、各セグメントで最適な予算配分を考えています。
