※本記事は、2021年5月25日刊行の定期誌『MarkeZine』65号に掲載したものです。
問題を細分化し、検証可能な形に落とし込む
(右)株式会社リクルートプロダクト 統括本部 マーケティング室 ENGLISHマーケティングG マネージャー 奥田真嘉(おくだ・まさよし)氏
1989年生まれ。奈良県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。2013年、リクルート入社。「ゼクシィ」のWEBマーケティングを担当後、子会社経営企画・事業開発担当を経て、「スタディサプリENGLISH」へ。2020年より現職。
(左)株式会社リクルート プロダクト統括本部 マーケティング室 ENGLISマーケティングG 進藤ももこ(しんどう・ももこ)氏
1992年生まれ。滋賀県出身。京都大学経済学部卒。2015年、リクルート入社。「スタディサプリ」の高校営業担当後、2019年にマーケティング部へ異動。2020年より「スタディサプリENGLISH」のマスプロモ担当。
――奥田さんはマスプロモーションとデジタルプロモーションの両方を統括しているとのことですが、テレビCMに特に期待している役割を教えてください。また、両チャネルの一貫性についてはどのように考えていますか。
奥田:テレビCMに期待している効果はCVRを維持した認知率の成長です。スタディサプリENGLISHは2015年にサービスを開始し、2019年4月からテレビCMを開始しましたが、当初は「デジタルだけではこれ以上認知率が引き上がらない」という状況でした。逆にデジタル施策のCPAが見合っていれば、テレビCMは必要ないという考えです。そのためどちらも同一の土俵で判断していくことになりますが、マス施策は投資を回収するまでの時間が長いため、その違いは考慮しています。
また、統合マーケティングの考え方は大切にしていますが、統合を意識しすぎるよりも、あくまで顧客起点、成果起点で考えるようにしています。たとえばテレビCMは認知、デジタルは刈り取り、という使い分けをよく聞きますが、それは作り手側の思惑であって、お客様からすればそうではないかもしれず、検証して初めてわかることです。この点も含め、スタディサプリENGLISHでは仮説を立て、各制作プロセスを細分化し、ファクトベースで検証していくプロセスを大切にしており、これを“調査ドリブンCM開発”と呼んでいます。特に英語に対するニーズは多岐にわたるので、「学習成果が上がる」「続けられるUX」という通底する強みは大切にしながら、あとはそれぞれの持ち場でA/Bテストを繰り返し、磨いてもらうようにしています。
――MarkeZine Day 2021 Springの講演において、調査ドリブンCM開発の考えに則ったクリエイティブ制作について、ご説明いただきましたね(※1)。
奥田:はい。テレビCMの運用ドライバーは、クリエイティブ設計(誰に、何を、どうやって)と投下設計(いつ、どのくらい、いくらで)の2つに大別できます(図表1)。
投下設計については取りうるパターン数が限定的なので、事前検証、つまりシミュレーションで解決できる問題が多いと思っています。
たとえば、放映前に一定程度データが得られる局シェアや絵柄、止め時間などについてはデジタルマーケティングのように事前に各パターンを試すということに尽きます。たとえば男性がターゲットなら逆Lやコの字が良い、主婦層に届けるなら全日で安くといった定説がありますが、すべてのパターンについて見積もりをとって検証してみると、想定とは若干違うという部分が出てきたりします。細かくシミュレーションするだけで、数%の改善余地が見つかることも多いものです。一方、どれくらいの投下量でサチュレーションが生じるのか、季節要因が与える影響などは放映前にはデータがないため、事後検証の重要性が増します。とは言えGoogleトレンドや自社データで事前に一定程度予測を立てることは必要です。
ちなみにスタディサプリENGLISHで特に検証の効果が大きかったのは、日当たり投下量のA/Bテストでした。よく勝ちパターンと言われるのが「最初は厚めに出して、そこから半分ぐらいに落としていく」という方法ですが、本当にそうなのかを確かめるため、サイト来訪と視聴ログを紐付けて、各エリアでA/Bテストを実施しました。
代理店さんとのディスカッションで多くの時間を割いているのは、それぞれの切り口をいか図表に検証可能な問題に落とし込んでいくのかということ。また、これだけ多様な検証をしようとすると、エクセルでの分析では限界が生じることもあります。そのため代理店さんにはデータサイエンティストを巻き込んだチーム編成にしてもらうようにお願いし、私自身も手を動かして、最適化のスクリプトを作るようにしています。