「全員顧客インタビュー」で仮説検証が進むチームに
――ここからは奥田さんのチームでテレビCMを担当する進藤さんにも加わっていただき、テレビCMを運用する体制をどのように作っているのか、うかがっていきます。
奥田:大前提として、自社のマーケターが仮説を持てるようになることを一番大切にしています。私のグループにはテレビCM担当以外にも、デジタルマーケティングやサイトのLPの担当など、それぞれ違う専門性を持ったメンバーが集まっていますが、全員必ず、顧客理解の部分に関わってもらい、インタビューの機会を持ってもらうようにしています。
進藤:私も1年ほど前にテレビCMのチームに入りましたが、顧客インタビューを通じて自分の中に顧客像が作られてきたと感じます。そのときに大切なのは、誰かにモデレートしてもらうのではなく、自分で場を回し、議事録もとるようにすることです。そうすると納得のいくまで質問できますし、自分の頭にも残りやすくなります。
奥田:その上で、制作パートナーとの関わり方については、マッシュアップ型、つまり自社と代理店さんをはじめ外部の方々と良いものを持ち寄って、混ぜ合わせていく組織を志向しています。それを可能にしているのが、対等なディスカッションです。代理店さんのプレゼンを聞くという姿勢ではなく、ディスカッションの場になるよう、マーケターが会議のアジェンダの責任を持ち、論点整理も行います。私たち側からのオリエンもただの初期仮説にすぎないので、「もっとこうしたほうが良いのではないか」というアイデアがあるのであれば、それをいただいて要件自体をブラッシュアップしていきますし、提案をいただく場でも、私がアジェンダシートを投影してメモをとっていたりして、代理店さんから驚かれたこともありました。

――会議の場でいかに活発なディスカッションを生むか、工夫されているのが伝わります。
奥田:はい。他にはそれぞれの役割は想定するものの、分担をガチガチに決めすぎないようにもしてきました。マーケターはオリエンをする人、代理店やクリエイティブディレクターは提案をする人と決めてしまい、それぞれの情報の行き来がプレゼンの場の1回だけ、ということになると、修正のスピードがものすごく遅くなります。その場で議論して何往復もできれば、お互いの仮説の精度が上がり、学習が進みますよね。
――テレビCMの制作過程では各領域のプロフェッショナルが関わることも影響し、マーケターがリーダーシップをとったり、意見を出したりするのを躊躇してしまうこともありそうです。
奥田:そうですね、テレビCM開発の難しさの一つはそこにあると思います。ですが、うまくハンドリングできない理由としては、マーケター側が仮説をクリアに持てていないことが大きいのではないでしょうか。そして仮説が持てない原因は、自分の中に顧客像がインストールされていないから。実は私も担当になったばかりの頃はインタビューの経験が少なく、その状態でテレビCMを見ても「いいような、悪いような……」と判断に困っていたことがあります。
進藤:私がやっているのは、まずは自分で手を動かし、数をこなすことです。テレビCMの領域は初心者向けの教科書やマニュアルがとても少ないにもかかわらず、現場に出るとベテランのクリエイティブディレクターさんたちと一緒に仕事をすることになります。そのため事前調査もクリエイティブディレクションもやるし、放映のアクチュアルデータの抽出も一通りやってみた他、顧客インタビューも20人、30人と数を重ねています。
また、チームの中ではクリエイティブディレクターさんや監督さんが良い作品になるよう知恵を絞ってくれますが、事業会社のマーケターにとって一番の目的は、CVに寄与することです。そのためのポイントは絶対に外さないというのは、やらなければいけないことだと感じます。
他には、単純な方法ですが他社のテレビCMを分析して、自分の中に事例を増やすようにしてきました。テレビCMがどのようなターゲットを狙っていて、どのポイントを訴求しようとしていて、なぜそのタレントさんを起用しているのかなどを考えてみるようにしたことで、感想に留まらない、具体的な議論ができるようになりました。
――最後に今後テレビCM施策に関して、取り組んでいきたいことを教えてください。
奥田:これまでスタディサプリENGLISHでは、仮説検証型のテレビCM運用に向けて手法を開発し、フレームワークも整えてきました。検証ポイントとしてはサービスの利用意向を最優先としてきましたが、それだけでなく、たとえばターゲットの方々の記憶に残る、印象に残るといったCMのあり方も想定できます。今後はそうした観点についても、今あるフレームを応用しながら検証していきたいと考えています。
※1 2021年3月2日開催MarkeZine Day 2021 Springの講演レポートをWeb「MarkeZine」で公開している