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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(PR)

デジタル時代だからこそ、紙媒体は「感覚」に強く響く/アカデミック視点で探るコミュニケーションの理想形

 消費者の生活にデジタルが急速に浸透している一方、リアルの強みを活かした店舗やイベントが人気を集める動きも見られる。マーケティングコミュニケーションにおいても、紙のDMとデジタルを組み合わせることで、手触りや重さといった「感覚」を通じて、強いメッセージを届けることができるはずだ。本記事では「感覚マーケティング」をテーマに研究する3名の先生方にインタビューし、アナログとデジタルを効果的に組み合わせるコツを、アカデミック視点で語ってもらった。

“不可解で非論理的”な人間の行動を解き明かす

――今回は、千葉商科大学商経学部の外川 拓先生、東京国際大学商学部の平木 いくみ先生、早稲田大学商学学術院の權 純鎬(こん すんほ)先生にお話をうかがいます。まずは、先生方の研究領域についてお聞かせください。

外川:私たちは共通して「感覚マーケティング」をテーマとしていて、私は主に消費者がもつ“人間くささ”にフォーカスした研究に取り組んでいます。

 人間の行動について語られるとき、かつては人間をコンピュータに見立て、理路整然と情報を処理するようなモデルが用いられてきました。しかしよく考えてみると、私たちはすべての物事について、筋道を立てて判断しているわけではないですよね。現在は、うまく説明のできない様々な要因から影響を受けて、なんとなく物事を決めているという側面も重要視されるようになってきていますその判断要因の一つが感覚なのです

千葉商科大学商経学部 准教授 外川 拓先生
千葉商科大学商経学部 准教授 外川 拓先生

平木:私は、「楽しい」「ワクワクする」「悲しい」といった人間の感情が、消費行動にどのような影響を与えるかについて研究をしています。

 最近の興味は、外川先生と同様に「必ずしもよく考えていない」消費者像にあります。私が大学院に入った2000年頃は、どちらかと言えば「よく考えて動く」消費者が前提とされていました。しかし出産や子育てをしながら研究を続けていた10年間を経て、もう一度本気で研究しようと大学院のゼミに戻ったとき、「感覚で動く消費者」にスポットが当たるようになっていました。

 私自身も、訪れた店舗の音や色、雰囲気などに感情や感覚が刺激されて、衝動的にモノを買ってしまうことがあります。このような、論理では説明しにくい人間の消費行動を解き明かしたいと考えています。

東京国際大学商学部 教授 平木 いくみ先生
東京国際大学商学部 教授 平木 いくみ先生

權:私の専門はお二人と少し違って、電子と紙の媒体比較がメインです。電子書籍のほうがかさばらなくて便利なのに、なぜか紙の書籍を好む人は多いですよね。音楽や映像コンテンツも完全にデジタル化しているにも関わらず、CDやDVDという形あるもので買おうとする消費者もたくさんいます。このような一見、非論理的で不可解な現象を紐解くための一つのヒントが「触覚」だと考えているんです。

早稲田大学商学学術院 助手 權 純鎬先生
早稲田大学商学学術院 助手 權 純鎬先生 

DMを受け取った消費者の一連の行動を明らかに

――先生方が取り組まれた、日本郵便さんのプロジェクトにおける共同研究『クーポンの送付形式と消費反応-印刷媒体と電子媒体に着目して-』の結果は、以前MarkeZineにもご紹介いただきました。研究について、率直な感想を改めてお聞かせいただけますか。

共同研究について

 富士フイルムの協力で行われた本研究では、紙のDMとEメールを組み合わせたキャンペーンについて検証し、以下の結果が明らかになった(参考記事)。
(1)紙のDMはEメールより訴求力が高く、30代以下で好印象
(2)30代以下は紙のDMに「温かみ」を感じる
(3)ロイヤリティの高い顧客にはEメールは響かない

平木:私たちが日ごろ取り組んでいるアカデミックな分析が、企業の役に立っているという実感が得られました。普段研究するときは、論文を読んで仮説を立てて検証するプロセスをとるのですが、分析結果にどれだけの価値があるのかを実感するのは、なかなか難しいものです。しかしこの研究結果は実務家の皆さんからも大きな反響があり、研究の意義を強く実感しました。

外川:消費者がDMやメールを受け取ってからクーポンを使うまでの一連の行動を、まるでムービーを見るかのように理解できたのが印象的でした。アカデミックな領域では、特に希少な機会だったと思います。

權:実はクロスメディア研究の中でも意外と、紙とデジタルを統合した研究は少ないんです。この実証実験を通じて、デジタルとアナログは敵対するものではなく、補完関係にあるとわかったのは大きな成果だと考えています。

デジタル時代だからこそ、紙媒体は「感覚」に強く響く

外川:結果についてもう少しお話すると、デジタルネイティブの消費者に紙のDMによるアナログコミュニケーションが響くというのはとても意外でした。

平木:そうですね。若年層と日々向き合っている実務家の方々ともお話させていただいたのですが、「デジタルネイティブにデジタルでメッセージを送っても、思っていたような反応が得られない」という声が上がっていて、衝撃を受けました。

外川:デジタルでは特に、ユーザーが自発的に得たいと思っているメッセージ以外は、見られることもなく埋もれてしまいがちです。そこに追い打ちをかけるようにアプローチをしたところで、到底メッセージは届かないのだと痛感しました。

――共同研究の結果と先生方のご専門である「感覚マーケティング」の知見を実務に活かすには、どのような方法が考えられるでしょうか。

平木:店舗やDMといったアナログなコミュニケーションには、既に「感覚マーケティング」が多数取り入れられています。店頭で、消費者が近づいたら音で気づかせたり、店内を良い香りで満たしたりといった手段もその一つです。

 また心理学の知見を応用して「サプライズ効果」を狙うこともできると思います。これは、クーポンや現金など予期しない収入や意外な贈り物をもらうと、嬉しくなっていつもよりたくさん消費をしてしまうという現象です。たとえば、予想外のお小遣いが入ったからケーキを買って帰ろう、といった状況です。

 メールで告知や訴求を行う前に、まずは紙のDMを送って意外性や高い価値を感じてもらうことで、コンバージョンを高めることができるでしょう。

消費者は「大切にされているか」を無意識で測っている

外川:これはすべてのマーケティング施策に共通していると思うのですが、重要なのは消費者に「自分は顧客の一人として大切にされている」と感じてもらうことです。それはアナログでもデジタルでも同様です。消費者は、企業が自分をどれぐらい大切にしてくれているのかを、無意識のうちに測っています。

 先ほどの共同研究では、「郵便は手間がかかっている」と思っている人たちは、DMを受け取ったときに好意的な反応を示しました。デジタルネイティブはDMをもらうことに慣れていないため、「こんなに手間のかかるものを送ってくれたんだ」と、大切にされていると感じた人が多かったのではないでしょうか。

權:確かに「労力を知覚すると人は高く評価する」という研究結果は、デジタルマーケティングにも生かせるでしょうね。

 ある研究で、消費者に電子書籍と紙の本、両方を見せて「いくらだと思いますか」と値段をつけてもらったところ、多くの人が紙の本を高い値段をつけました。しかし電子書籍の表紙の次ページに赤く校閲の入ったゲラのビジュアルを1枚挟む仕掛けを施して、値段をつけてもらうと、イメージする価格が紙の本と同じくらいの値段まで上がるんです。

 DMのクーポン利用率を調べる別の研究では、デジタルのDMはクーポン番号を簡単に入力できる一方で、紙媒体のDMは一文字ずつタイピングする必要があったのですが、その一手間があるにも関わらず、クーポンの利用率は紙媒体のDMの方が高いという結果も出ています。わざわざクーポン番号を入力するのは面倒なので、EメールからURLで遷移してクリックしてもらったほうがコンバージョンが上がるのではと思いきや、紙媒体の方が結果的にコンバージョンにつながっていくようです。

平木:こうした行動は、論理ではなかなか説明のつかない部分ですよね。小売業でも感覚をビジネスに取り入れることで、売り上げにつながるという研究結果が出ています。

 小売業のトップマネージャーを対象とした「センサリー志向」の研究では、経営者が感覚的なことを重視している企業は売り上げが増大しやすいという傾向が見られます。これからは経営トップが自ら指揮を執って、感覚的な要素をデジタルマーケティングに生かす戦略を立てても良いのではないかと思っています。

デジタルとアナログは補完関係にある

――先生方の研究領域では、デジタルとアナログの掛け合わせについて、興味深い結果が多数発表されているのですね。両方を用いた効果的なコミュニケーションのコツを教えていただけますか。

外川:デジタルとアナログを二項対立で捉えないことが大切だと思います。「デジタル vs. アナログ」という考え方ではなく、「デジタル with アナログ」と考えるべきです。

 メールやソーシャルメディアといったデジタル施策も、使い方やタイミング、内容、送る相手を正しく選定すれば効果的なのは当然のこと。デジタルとアナログ、いずれも消費者に「あなたのことを大切にしていますよ」と伝えるための手段と捉え、“いいとこどり”のハイブリットにしていくと良いのではないでしょうか。

 特に紙媒体であるDMは、たとえ捨てられてしまうとしても、一度見なければ捨てることすらできません。確実に手に取ってもらえる特性を活かして、メリットを感じてもらえるような施策や、思わず読んでしまうような印象に残る仕掛けをDMに施し、デジタルへ誘導していくなど、やり方は無限にあると思います。

權:両媒体の特性や人間の感覚をうまく利用して、意外性を演出することが重要ですよね。共同研究では、紙のDMとEメールの送付順が重要であることも示唆されましたし、DMを送った後に、リマインドとしてEメールを送ることで、DMを嬉しいと思う人の割合も増えました。このように、受け取った人の喜びや嬉しさ、意外性が増幅するようなデジタルとアナログのかけ合わせ方を模索していただきたいと思います

紙という媒体が行動を促すメカニズムを探りたい

――最後に先生方の研究について、今後の展望を教えてください。

權:デジタルネイティブに紙のDMが効く理由を、もっと詳しく解き明かしたいですね。これはマーケティングのみならず、教育学など様々な分野で研究が進められているものの、まだはっきりした理由はわかりません。紙という媒体が人の行動を促すメカニズムを、より深く探っていきたいと思っています。

外川:權先生がお話ししている通り、紙のDMには持ったときの手触り、重さ、印刷の香り、形状、開封するときの動作など、消費者の五感に働きかける要素がたくさん詰まっています。すなわち紙のDMは、「複合感覚」によるコミュニケーションが可能な媒体なんです。今後は最も効果的な「感覚の組み合わせ」を追究したいと考えています。

平木:紙でできたDMは、その厚みにありがたさや価値を感じる効果もあると思います。たとえば毎年届いた分だけ束となって厚さが感じられる年賀状も、自分や家族の年月、歴史を感じさせるものなのかもしれません。どんな人にアナログ施策が効き、どんな人にデジタル施策が効くのかという消費者像を、もっと掘り下げていきたいですね。

――本日はありがとうございました。

デジタル×アナログの事例&研究成果をアーカイブサイトにて公開中! 閲覧はこちらから!

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この記事の著者

石川 香苗子(イシカワ カナコ)

ライター。リクルートHRマーケティングで営業を経験したのちライターへ。IT、マーケティング、テレビなどが得意領域。詳細はこちらから(これまでの仕事をまとめてあります)。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/01/29 10:00 https://markezine.jp/article/detail/32728