アフターデジタル=オンラインがオフラインを覆う状況
有園:今回は、昨年春に『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP社/尾原和啓氏との共著)を上梓して大きなインパクトをもたらした、藤井さんをお訪ねしています。前回の高広さんとの対談(参考記事)では、サービス・ドミナント・ロジックについて話したんです。その最後のほうに、単なるデータドリブンではインテリジェンスがない、今後企業にはデータとCXを結び付けたインテリジェンスが必要……といった話が挙がり、この話はぜひ藤井さんに聞きたいと思ってご依頼しました。直近で、御社は「UXインテリジェンス」という概念を打ち出されていますよね?
藤井:はい。おっしゃるように、データとUXを結び付けることは不可欠だと思っていて、この2つを回してUXを向上させていくことをUXインテリジェンスと称しています。……この一文だと、相当ざっくりですが。
有園:まさにその部分を、詳しくうかがいたいです。まず、書籍や各所で述べられていることとは思いますが、“アフターデジタル”時代とそこにおける企業の課題について、簡単に解説いただけますか?
藤井:“アフターデジタル”とは、デジタルがかくも当たり前になった現代のことを指しています。リアルな世界にプラスαでデジタル世界が出てきたころをビフォアデジタルとすると、アフターデジタルは「オンラインがオフラインを覆いつくした世界」です。ユーザーが常にネット上に存在し、裏を返すと企業が顧客と常時接点を持てるようになったことで、かつてはオフラインだったペイメントや飲食、移動などにまでデジタルが広がっています。その結果、デジタルがリアルを内包するような状態になっています。
藤井:アフターデジタルの状態は、特に中国で進んでいますが、日本でもユーザーの側はもうこちらに軸足が移っています。それなのに、多くの日本企業ではいまだに“ビフォアデジタル”的な発想でデジタルトランスフォーメーションをしようとしている。僭越ながら、それはそもそも立脚点が間違っているのでは……? というのが、書籍での指摘のひとつでした。
“アフターデジタル”の世界がわからない人
有園:この1年、書籍もヒットしましたし、藤井さんも各所で講演や取材活動をされていましたが、一方で“アフターデジタル”の理解が難しい人もいると感じられたそうですね。
藤井:そうですね。年齢や役職によっては、リアルがデジタルに内包される状況がピンとこないというか。顧客が完全にデジタル化していることを前提に考えられない。
有園:わかります。書籍を読んで私はすごく納得したんですが、同時にこの世界観がまったく理解できない人もいるだろう、と思いました。すごく端的にですが、20世紀は目に見えるとか触れる領域で――学問的には厳密には違いますが、いわばニュートン力学的な世界観でビジネスをしてきたと思います。それがデジタルが登場して、見えないし触れないデジタル情報が飛びまわり、それを扱えるようになって、量子力学的な世界観がスタンダードになってきた。
エリック・シュミットとジョナサン・ローゼンバーグが著した『How Google Works』(日本経済新聞出版社)の中に、「大きな問題とは、たいてい情報の問題。十分なデータとそれを処理する能力さえあれば、たいていの難題の解決策は見つかると考えている」という文があるんですが、これを読んで、Googleが量子力学の世界観で世の中を見ていることがよく表れているな、と思いました。ついていけてる(笑)?
藤井:僕はおもしろいです(笑)。
有園:そもそも、自然界は人間に見えないことや触れないことであふれていて、そのごく一部が我々が知覚できるリアルな世界なのだ。そう考えると、デジタル空間がリアルより広いのは当然で、内包される図も当然なんですが、わからない人もきっといますよね。ただ、その一方で“アフターデジタルのその先”とも言える状況も出てきている?
藤井:はい、それが「インテリジェンスが必要だ」と考える発端になっています。