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有園が訊く!

「マーケティングの死」の本質 「サービス」が「モノ」を内包し、顧客と価値を共創する時代を理解する


 デジタル上でのコミュニケーションは、企業のマーケティングやブランディングを明らかに変革し、速度と深度を増している。有園雄一氏が業界のキーパーソンや注目企業を訪ね、デジタルが可能にする近未来のマーケティングやブランディングについてディスカッションする本連載。2019年を締めくくる今回は、高広伯彦氏がゲスト。「モノ」ではなく「サービス」を中心として考える「サービス・ドミナント・ロジック」への転換、顧客体験をベースにした組織のOSのアップデート、アドテクベンダーの行く末まで、今起きている変化を語り尽くす。

「マーケティングの死」というキーワードの背景

電通デジタル 客員エグゼクティブコンサルタント 有園雄一氏

有園:さて、令和最初の対談で年内最後の回に、私のGoogle時代の上司でもある高広さんをお招きしました。つい先日『宣伝会議』のマーケティング特集で高広さんが「新しいマーケティングはもう生まれないのでは」という趣旨の寄稿をされていて、もう少し掘り下げて聞きたいと思ったんです。

高広:『マーケティングの死』というキーワードすら頭に浮かぶ」と書いていた記事ですね。

有園:そう、記事中にあったマーケティング組織の解体などを考えると納得ではありましたが、これはけっこう重大なテーマだと。今、マス広告の重要性が相対的に低くなる中で、マーケティングやコミュニケーションの在り方を考え直したいというフェーズに入っているなと思っていたので、重なる部分もありました。

 加えて、電通がホールディングス体制になって、事業会社としての電通の代表取締役は遠谷さんになるそうですが、歴代の代表で初めてデジタル領域を経験してきた方なんですよね。かたや博報堂DYメディアパートナーズは、しばらく前から、デジタル経験の長い矢嶋さんが代表取締役をされている。デジタル経験者が電博の代表に就く時代になった、これはけっこうパラダイムシフトが起きつつあると個人的には感じています。

 はじめに、高広さんが「マーケティングの死」を感じた背景をうかがえますか?

高広:実は業界外から見てみると、そもそも世の中的にはマーケティングって地位は高くないんですよ。僕は大学院の経営学系博士課程に一応籍を置いていますが、たとえばアカデミックの世界だと、社会科学の中に経済学があって、そして経営学がありますが、経済学者から見ると経営学なんて学問じゃない、と思われている向きがある。そして、経営学の中ではせいぜい会計や財務や戦略は大事だけど、マーケティングなんて大したものじゃないと思われています。信じられないかもしれませんが。

スケダチ 代表/社会情報大学院 特任教授 高広伯彦氏

価値を決めるのは企業ではなく顧客

高広:一方で日本の実務におけるマーケティングを考えると、1950年代に「マーケティング」という概念が北米から輸入され、製造業を中心として長く定着してきました。いわゆる、「モノ」を売るためのマーケティングです。それがこの10数年ほどは、こうした従来型のマーケティング志向に対して否定的な見方が出てきています。たとえば日本でもよく知られているコトラー教授の提唱する「マーケティング3.0」「4.0」が代表的ですね。

有園:それで、“「モノ」を売る”というマーケティングを見直す流れが生まれているわけですね。

高広:そう。そして、その中で今もっとも注目を集めているのが、「サービス」という概念です。たとえば水筒という「モノ」は「保温・保冷ができる」という“価値”を内在していて、その商品を使う人は、皆等しくその“価値”を享受できると考えられてきました。しかし「サービス」という視点を入れると、事情が変わってくる。そもそも「モノ」そのものに“価値”があるのではなく、お客さん側がある状況において「保温・保冷をする」ことによって初めて“価値”が創出される……そのように考えます。これを“Value-in-Use”=「使用価値」と呼びます。つまり、「モノ」が存在するだけでは“価値”があるわけではないということです。

 「サービス」という考え方がなぜ重要なのかというと、企業や買い手などのある経済活動における登場人物の間でのインタラクションによって初めて価値が生まれるという視点を提供してくれるからです。使われずにただ存在するだけの「モノ」では価値がない。そうすると「この“モノ”に価値があるよ」というマーケティングの仕方はもはや無効なんじゃないか、と。

有園:ある種、一方的である。

高広:その一方的なマーケティングは、これまで企業と顧客との間に情報格差があったから成り立っていたんです。「“Self-Educating Buyers”=自己学習する買い手」という言葉があります。インターネットの出現以降、実際の購入に至るまでにいろいろなことを調べるようになり、お客さん側がどんどん情報を得るようになったので、情報格差という最大の武器も使えなくなってきました。

 一方で十分に情報を得たお客さんたちは、その知識を持って「モノ」の使い方を決めて、結果“価値”が生まれるようになります。つまり企業は情報の主導権を握れなくなってきているし、むしろお客さんの持っている知識をも資源として活用し、マーケティングを含む経済活動をしなければならなくなってきているのです。

 さて、ここで少し考えてみてほしいんですけど、そもそも「サービス」って、相手がいないと成り立たないものですよね。「モノ」は、スーパーの棚などにあれば人を介在しなくても売れますが、「サービス」の場合は常にその提供者と享受者が同時に存在します。たとえば高い技術がある美容師がいるとしましょう。でも、その存在だけでは意味がなくて、お客さんがいて初めて「髪を切る/切られる」という「サービス」が成立するといった話です。しかも、顧客の側も“頭を動かさない”という協力体制が必要なので、「サービス」というのは生産活動と消費活動にお互いが参加し合うということが前提になります。

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/12/26 20:23 https://markezine.jp/article/detail/32603

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