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B2B New Vision

SaaSには大きなホワイトスペースがある。ベンチャーキャピタリスト倉林 陽氏が注目する新しい世代

 一貫してBtoB SaaSへの投資を手掛けてきたDNX Venturesの倉林 陽氏。今回は投資家の視点から、この領域の可能性についてうかがいました。後半には、若いビジネスパーソンに向けたSaaS時代のキャリアについての貴重なアドバイスも!

BtoB SaaSはベンチャーキャピタルの主戦場

――クラウドやSaaSの領域への投資が盛り上がりを見せていますが、2015年くらいまでは「まだBtoBやるんですか」「儲からないですよ」と同業の方から言われていたそうですね。

倉林:そうですね。私はSaaSビリーバーなのでこの領域ばかりやっていますが、2018年くらいにメディアで「SaaS元年」という記事が出るようになってきて、世間の認知もようやく上がってきたというところでしょうか。

倉林 陽氏 DNX Ventures Managing Director2015年3月より現職。Sansan、マネーフォワード、チームスピリット、フロムスクラッチ、オクト、サイカ、カケハシ等、50社を超える日本のSaaS/Cloudベンチャーへの投資実績を保有。1997年に富士通株式会社に入社し、Walden Internationalへの出向を含む様々なコーポレートベンチャーキャピタル業務を担当。2003年、三井物産株式会社に入社し、日本とシリコンバレーでベンチャー企業への投資、および投資先の事業開発を担当。MBA留学後は、Globespan Capital PartnersおよびSalesforce Venturesにて日本代表を歴任。同志社大学博士(学術)、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営大学院(MBA)修了。著書『コーポレートベンチャーキャピタルの実務』(中央経済社)

倉林 陽氏 DNX Ventures Managing Director
2015年3月より現職。Sansan、マネーフォワード、チームスピリット、フロムスクラッチ、オクト、サイカ、カケハシ等、
50社を超える日本のSaaS/Cloudベンチャーへの投資実績を保有。1997年に富士通株式会社に入社し、
Walden Internationalへの出向を含む様々なコーポレートベンチャーキャピタル業務を担当。
2003年、三井物産株式会社に入社し、日本とシリコンバレーでベンチャー企業への投資、および投資先の
事業開発を担当。MBA留学後は、Globespan Capital PartnersおよびSalesforce Venturesにて日本代表を歴任。
同志社大学博士(学術)、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営大学院(MBA)修了。
著書『コーポレートベンチャーキャピタルの実務』(中央経済社)

――一方で、SaaSを代表する企業、セールスフォースの日本法人は今年20周年を迎えます。国内SaaS市場の20年をどのようにご覧になっていますか。

倉林:セールスフォースの日本法人の立ち上げは非常に早かったと思いますが、米国本社設立の翌年ですから異例なことです。その後、アメリカのマーケットリーダーが次々に日本に入ってきて、日本の顧客にも浸透してきました。日本のスタートアップもビジネスを効率化するさまざまなサービスを立ち上げているので、これからさらに活性化していくと思います。

――ベンチャーキャピタル(VC)の役割というのは、スタートアップへ投資してビジネスを成長させ、その会社の価値を高めてリターンを得るというものだと思います。こちらは企業がファンドを立ち上げて投資を行なうコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のランキングですが、1位のGoogle Venturesに続いてSalesforce Venturesがランクインしています。

 最近では「BtoB SaaSに投資が集中している。BtoCでもチャレンジしてほしい」という声もあるのですが、そのくらいこの領域での投資が盛んになっているのでしょうか。

倉林:一部に誤解があると思うのですが、もともとアメリカでは、BtoB SaaSはベンチャーキャピタルの主戦場なんです。過去20年のベンチャーキャピタル全体のリターンをBtoBとBtoCで比較した場合、BtoBのほうが多いというデータがあります。またBtoB投資全体のうち、約4割がソフトウェアです。そして、いまソフトウェアというと全部クラウドかSaaSになっています。ですから、日本がアメリカのトレンドに追いついてきただけなんですね。

――なるほど、だからBtoB SaaSに投資が集中していると感じるのですね。

倉林:アメリカのVCの状況を知らないと、そういうイメージになってしまうのもしょうがないかもしれません。わかりやすくBtoBとBtoCの違いを表すとしたら、「BtoCはアート、BtoBはサイエンス」だと思います。VCとして安定的にリターンを出すにはやはり再現性が必要です。BtoCでは、Facebookのように初期投資が何百倍にもなるケースもありますが、その傍らには企業価値が0円になってしまった会社が一杯ある。そこに投資して成功するというのはVCとしても非常に難しいことです。

 私は50社ぐらいBtoB SaaSの会社に投資をしているので、「あの会社はこのときこうだった」ということがわかりますし、KPIを見ればどこに問題があって売上が伸びていないのかも把握できます。セールスフォースなど先進的な企業の10-k(企業の年次報告書)を見て打ち手を学んだり、アメリカのVCのブログを読んだりして日本に合うように手法をアジャストし、A/Bテストを地道にやり、データを取って改善していく。だからBtoB SaaSへの投資は再現性があるわけです。

 もちろんBtoCへの投資も増えてほしいと思っていますが、BtoB SaaSへの投資が進んでいる背景にはこうした状況があるということを理解してほしいと思います。

SaaSで変わった、企業と顧客の関係性

――科学的な経営のほかに、投資家はSaaSのどこに魅力を感じているのでしょうか。

倉林:エンタープライズ市場のバリューチェーンを変えたという点がSaaSのすごいところだと思います。

 かつての日本にはBtoBのスタートアップはほとんどありませんでした。起業家も、いいVCもいなかったので仕方がないのですが、顧客に製品を届けようと思ったら、まずSIer(システムインテグレーター)に依頼して審査を受けて外購品登録してもらい、顧客に納めてもらう。このときの顧客窓口はシステム部門です。その後、実際にソフトウェアを使う顧客企業の社員の方に届きます。そうしないと売れないという状況があったのです。でも、スタートアップはそんな時間をかけていられません。成長が止まってしまうのでセクシーなグロースにならないんですよね。

 しかしクラウドによって、直接顧客にサービスを届けることが可能になりました。AWS上にアプリケーションを作ると、顧客の側も自社のIT部門を通さずに、HRのSaaSだったら人事部門、マーケティングツールならマーケティング部門の主導で導入が決まっていく。アプリケーションを作ってお客さんと向き合えさえすれば、すぐに売上が立つというのがクラウドのすごいところです。

――SaaSにはサブスクリプションモデル、月額課金という強みもあります。以前、倉林さんは「月額課金はリレーションシップを売るようなもの」とおっしゃっていたのが印象的でした。

倉林:SI(システムインテグレーション)やパッケージソフトの場合は、納品や販売をしたらそこで仕事が終わります。システム納入後に呼び出されるとしたら、何か問題が発生して怒られるとき。あるいは、システムが古くなってきたから改修したいという場合に連絡が来るかもしれません。

 一方で、リレーションを売るビジネスというのは、プロダクトだけではなく、セールス、オンボーディング、カスタマーサクセスを含めた「顧客体験」というものすべてを提供します。契約が決まってからがスタートで、未成熟なプロダクトをお客様のフィードバックを受けてアップデートしていく。VCから集めたお金で構築したサービスを1年で切られたら、投資を回収できません。オンボーディングをしっかりやって成果を出すことでカスタマーサクセスを実現し、更新につなげる。これを繰り返していくことによって投資した金額を回収し、事業が成長していきます。

 SaaSの場合はしっかり顧客と向き合って、継続的にお金を払っていただく。それは顧客側から見ると継続的にコストがかかるということなので、その体験をしっかりエンジョイしていただく必要があります。

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この記事の著者

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

井浦 薫(編集部)(イウラ カオル)

MarkeZineで主に書籍を作っています。
並行して、MONEYzineにも力を入れています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/02/17 09:00 https://markezine.jp/article/detail/32757

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