SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

B2B New Vision

SaaSには大きなホワイトスペースがある。ベンチャーキャピタリスト倉林 陽氏が注目する新しい世代

データ開示、M&Aにも積極的な経営者たち

――日本では昨年、Sansan、freeeといったSaaSの会社が上場して大きな注目を集めました。

倉林:日本では上場した企業が黒字にならないと、「この会社には問題があるのでは」と考える人が多いと思いますが、成功するIT企業はグロース志向で経営しないと大きな会社にならないのも事実です。Sansanは2019年6月に東証マザーズへ上場しましたが、4、5年前に上場しようと思えばできたはずです。それをしなかったことが、寺田社長の素晴らしい経営判断だったと思います。

 日本の場合は、上場したら黒字を出さないと株を売られて時価総額がつかない。そうなると増資もできないし、M&Aもできない。一方、売上のグロースレートでSaaS企業の時価総額を測るというのがアメリカの機関投資家の考え方です。2019年12月に上場したfreeeは、調達額の7割ぐらいが海外の機関投資家でした。SaaSの場合、上場してすぐに黒字にならなくても、企業側がグロースのプランをロジカルに説明し、投資家がそれを理解して資金を出せば、赤字であってもすごい時価総額がつきます。会社にとってはお金が調達できて、またグロースに向けてアクセルを踏める。

――freee上場の際には、Twitterで「普段はあまり見ることのできない数字を公開しているね」と驚きの声が上がっていました。それは、海外から調達するために必要だったということでしょうか。

倉林:機関投資家からすると、「利益」というわかりやすい指標ではないところで判断をすることになるので、適切な情報開示を求められると思います。可能性を買ってもらうわけですから、その可能性を担保する蓋然性をデータで提示しなければなりません。適切な情報開示をして投資家と擦り合わせをしていくやり方は、これからも進むと思います。

――マネーフォワードも海外から多くの資金を調達していますが、M&Aを積極的に行っていることでも知られています。同社代表の辻さんは「M&Aをして良かったことは、グループ内に社長が増えたこと」とおっしゃっていました。こういうところも非常に興味深いのですが。

倉林:M&Aというのはデジタルの世界に必要な経営手法で、アメリカのテクノロジー企業では必須です。スタートアップを100%買収して、プロダクトと人材と売上を取り込み、良いパフォーマンスを出した人には権限を委譲する。デジタルの世界は変化が激しいので、若い人にかじをとらせなければいけません。セールスフォースも多くの事業を買収していますから、マーク・ベニオフの周囲にはファウンダーCEO経験者がたくさんいると思います。

 ちなみに、アメリカはスタートアップのエグジットの9割がM&Aなんですね。ほとんどIPOはしません。セールスフォースが買収したTableauは時価総額1.7兆円。M&Aでもそのぐらいの値段で買われるわけですから、上場にたどり着く会社というのはほとんどないわけです。一方、日本のスタートアップの多くがマザーズ上場。そういう意味では、日本とアメリカというのはまったく違うマーケットなのです。

「ベンチャー投資は博打」と思っていませんか

――お話をうかがっていると、SaaSのスタートアップの世界には、従来の日本企業とは違う経営のお手本があり、それを実践することがスピード感のある成長につながっているのだと実感します。

倉林:でも、日本の大企業の中には自分の業界にふさわしい経営手法をとっている会社もありますし、すべての会社がアメリカ流の経営をしなくてもいいと思うんですよね。

 たとえば化学品です。シリコンバレーを探しても、こういう分野にはスタートアップがいません。なぜなら、5年、10年のスパンではディスラプティブなイノベーションを起こすことが難しいので、誰も投資しないのです。けれど30年かけて基礎研究をして、安定した環境でいい製品を生み出せるのであれば、日本の終身雇用が合うかもしれない。そういう会社は無理にCVCブームに乗って、スタートアップとアクセラレーションしなくてもいいと思います。

 その一方で、日本ではテクノロジー業界に合う経営をしている大企業が少ないですから、優れた日本のSaaSの経営者が、優秀なエンジニアとデザイナーとお金を集めて勝負をすると、非常に勝つ確率が高い。アメリカの場合、もちろんファンドによって違いはありますが、スタートアップの成功率は世間で言われているような数字ではありません。大体5割はプラスのリターンが出ます。

――経営を洗練することで確率を上げることができると。

倉林:「千三つ」、1,000に3社しか成功しないなどと言われますが、本当にそんな再現性のない状況だったら機関投資家からお金が集まるわけがありません。我々が投資するのは、スクリーニングをして選んだ会社です。アメリカの場合は、5割はプラスのリターンが出ています。そのうちの30~40%半分くらいが3倍、5倍になっていき、残りの10~20%は10倍とか100倍の規模に成長していくのが一般的と言われています。

 BtoBの起業家になるには、エンタープライズの課題を理解しなければなりません。日本でも最近やっと三菱商事、三井物産、マッキンゼーにいた人たちが起業するようになってきました。逆に、大企業はなかなか魅力的なSaaSを出せていないし、今後も難しいと思います。こういう点からも、SaaSスタートアップの領域には大きなホワイトスペースがあると言えます。

次のページ
SaaS時代の組織とキャリア

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • note
B2B New Vision連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

井浦 薫(編集部)(イウラ カオル)

MarkeZineで主に書籍を作っています。
並行して、MONEYzineにも力を入れています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2020/02/17 09:00 https://markezine.jp/article/detail/32757

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング