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花王廣澤氏が若手視点で聞く、これまでとこれからのマーケティング

デザインは欲望を満たすもの、マーケターは欲を見つける努力を【花王廣澤氏×コンセプター・坂井氏対談】

 花王のマーケター・廣澤祐氏が、業界で活躍しているキーパーソンと対談する本連載。今回は、ウォーターデザインの代表取締役でコンセプターの坂井直樹氏をゲストに迎え、マーケターのデザインの向き合い方について考えていく。サービスやプロダクト設計において、UI(ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)は、一層重視されるようになってきた。そこには、形や体験など、何かしらを「デザインすること」がともなってくる。では、「そもそもデザインとはなんなのだろうか?」。対談は、廣澤氏のそんな疑問から始まった。

デザインが持つ2つの意味

廣澤:昨今、「デザイン思考」や「デザイン経営」といったキーワードが熱を帯びています。しかしながら、そもそも「デザインとは何か?」が、曖昧だと思うのです。初歩的なところからですが、デザインの始まりについて教えていただけますか。

左:花王株式会社 コンシューマープロダクツ事業部門 キュレル事業部 廣澤 祐氏右:株式会社ウォーターデザイン 代表取締役/コンセプター 坂井 直樹氏
左:花王株式会社 コンシューマープロダクツ事業部門 キュレル事業部 廣澤 祐氏
右:株式会社ウォーターデザイン 代表取締役/コンセプター 坂井 直樹氏

坂井:現代デザインの基礎は産業革命から数えれば160年、ドイツのバウハウス(1919年に設立された造形学校)からだとわずか100年ほどの歴史です。

 デザインが出てくるまでは職人による工芸が中心でしたが、大量生産が可能な工業化にともない、工芸を数値化する必要が出てきたのです。つまり、世界中で同じクオリティのものを大量に生産できるようにするためにデザインが求められるようになったんです。

廣澤:デザインの誕生は、意外と最近のことだったのですね。

坂井:デザインとは機能的なもので、本来であれば設計と形・スタイリングの2つの意味を持っています。日本だけがなぜか、デザインは「いろいろな形やスタイリングを表す」言葉として定着しています。不思議です。

廣澤:デザインの語源であるdesignareには「計画を記号で表す」といった意味や、坂井さんの著書『デザインのたくらみ』(トランスワールドジャパン)のタイトルにもあるように、企画する、企む……といった意味があると思います。だから、形のないものにも、「デザイン」という言葉を転用しているということでしょうか。

絵を描くデザイナー、絵を描かないコンセプター

廣澤:坂井さんは、コンセプターとしてお仕事をされていますが、デザイナーとコンセプターの違いについても教えてください。

坂井:簡単に説明すると、絵を描く人がデザイナーで、描かずにデザインに関与していく人が、コンセプターです。たとえば、日産マーチのBe-1プロジェクト(1987年)に関わったときは、もう少しプロデューサー的な立ち位置にいましたが、コンセプターとして活動していました。

廣澤:当時、コンセプターという職業はなかったんですよね。

坂井:そうです、コンセプターと名乗ったのは、世界で僕が初めてなので。日産のプロジェクトについては、先方から「自動車のことは自分たちが一番わかっているけれど、人々が何をほしいかがわからないんです」と依頼されたことがきっかけでした。「何が欲しい」とはつまり、欲望ですよね。僕は、欲望の専門家です。だから、ファッションのデザインをやっていたのに、声がかかったのだと思いますよ。

廣澤:欲望を見つけて形にする専門家として、Be-1のコンセプトを作ったんですね。

 当時は真四角なデザインの車が一般的な中で、丸みを帯びたデザインのBe-1は、世の中に大きなインパクトを与えました。その欲望は、どのようにして発見して形にされたのでしょうか。

坂井:各産業の専門家は、今あるトレンドの中で最善のものを作るのは得意です。だから、カーデザイナーも四角い車が流行っていた当時、その中で良いものを作ろうとした。四角くない車を作ることがリスクだったからです。

 ただ、僕は車の専門家ではなかったし当時免許も持っていなかったくらい車に興味がなかった。だからこそ冷静に考えて「四角い車しか市場にないのはおかしい、逆行してやろう」と決断しました。

 スタイリングの意味合いでのデザインは、お金持ちに見られたいとか、異性にモテたいなど、人間が自分の欲望を満たすものでしょう?

廣澤:デザインは、欲望を満たすもの。

坂井:それなのにカーデザイナーは、デザインを進化させたいとずっと考えてきた。プロダクトへの関心や愛情が、人一倍強いからですね。でも消費者は、「カーデザインが進化した車に乗りたい」と考えているわけではありません。

廣澤:企業にとって、他社と違うことをするのは、一般的には勇気がいるものだと思います。そのようなコンセプトを提案したとき、坂井さんとデザイナーとの間に、対立は起きませんでしたか。

坂井:対立は起きますが、徹底的に話し合ってきましたよ。コンセプトワークは、発想が伝われば、どんな方法でも構わないんです。ビジュアル、言葉、音楽、匂い、色、なんでもいい。いろんなツールを使って、伝えました。

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この記事の著者

マチコマキ(マチコマキ)

広告営業&WEBディレクター出身のビジネスライター。専門は、BtoBプロダクトの導入事例や、広告、デジタルマーケティング。オウンドメディア編集長業務、コンテンツマーケティング支援やUXライティングなど、文章にまつわる仕事に幅広く関わる。ポートフォリオはこちらをご参考ください。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/03/02 08:00 https://markezine.jp/article/detail/32820

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