海外・国内のリテールAIの現状

このような世の中の流れの中、小売業においても構造変革が起きようとしています。ネット販売で小売業界に参入し2019年の全米小売業ランキングではウォルマートに続いて2位になったAmazonは、レジレスのリアル店舗Amazon Goで業界に大きな衝撃を与えました。さらに、Amazonの登場以降、小売店の閉店は相次ぎ、2019年のアメリカでの閉店数は9,300店と過去最高を記録。この流れは今後も続くと思われます。
これに対してウォルマートやクローガーといったリアル店舗型企業は出店を抑えてもAI企業の買収、AI人材の獲得や人材育成投資に莫大な費用を投じています。アリババの前会長ジャック・マー氏が2016年に「ニューリテール構想」として、「オンライン市場とオフライン市場が融合し新しい小売戦略が誕生する」と述べていたとおりのことが起こっています。
アメリカの小売業では、顧客がモバイルでオーダーして、ピックアップか配送を選べるサービスが一般化しています。その他、店内を自動で動くロボットによる商品の管理(欠品や棚違い、価格表記や消費期限などのチェック)を行う実験(アホールド・デレーズ、ウォルマート)、電子棚札によって商品の管理(欠品の告知や在庫数管理)、顧客向けプロモーションや案内を行うクローガーのエッジシェルフ、最近では冷ケースのドア一面がデジタルディスプレイになっているもの(ウォルグリーン)などもあります。


デジタルディスプレイ搭載のリーチインクーラー「クーラー・スクリーン」
決済でも前述のAmazon Goのようなジャストウォークスルー型の店舗や、店内備え付けもしくは自身のスマホでスキャンしながら買い物ができてレジは通らなくてもいいシステムが、サムズクラブ、クローガー、マイヤーズなど多数のチェーンで実験(一部実装)されています。日本でもクラスメソッド社がレジレスの店舗を開発、実験店をオープンしています。
また、日本の小売チェーンではトライアルがAIカメラを自社開発。さらにスキャンしながら買い物ができ、レジを通らなくても良く、クーポンなどお得な情報も見ることができるスマートショッピングカートを装備した店舗を拡大中です。スマートショッピングカートのようなものは日本でも数社が実験中で世界でも5ヵ国で開発が進んでいます。
加えて同社では、AIカメラを装着した冷蔵機器を中心として、冷蔵機器メーカー、物流会社、卸会社、食品・飲料メーカーとデータを共有。全体のシステムの中での効率化、販売数のアップを目指す取り組みが始まっています。日本の他の小売チェーンでも様々なAIの導入実験が行われているようです。
店舗のテクノロジー化によって生まれるデータ
このように、小売の店舗がデジタル化されていくということは、商品の動きや顧客の行動がデジタルデータ化される、ということです。さらに小売内のデータ以外にもビーコンやスマホの位置情報によって、店舗外や店舗間での顧客の移動がデータ化できるようになりました。そうなるとAIの活用によって色々な予測や分析が可能になってきます。
さらにそのデータをいかに活用するか、ということが小売とメーカーの課題になっていきます。これまで広告でメーカーから流されていた情報とPOS=売上という小売現場での結果の間をつなぐ、顧客の買い方や行動が手に入ることによって、マーケティングの手法や考え方、さらには商品の作り方などが変わってくると思います。
人口が減っていき市場が縮小することが明白な今、市場は当然縮小しますし雇用する人の数も減っていきます。その中で小売やメーカーが生き残っていくには、データを制することが重要なポイントになってきます。
特にリアルの小売業にとってAmazonの脅威への対抗策は急務です。極論すればAmazonは「商品の販売はデータ取得の手段であり、そこでの利益は最小限でいい」という考えがベースになっています。そのため、リアルの小売業が太刀打ちするのは大変な状況になっています。
ただ、小売にもチャンスはあります。それは、データのポテンシャルです。ネット上の顧客とリアルの顧客では、リアルの顧客のほうが圧倒的な情報量を誇っています。具体的には人の顔や表情、動作などのデータが挙げられますが、データが多すぎてそれを扱うべき手段が今までありませんでした。
Amazonがホールフーズを買収し、Amazon GoやAmazon Books、Amazon4-starなどのリアル店舗を続々展開しているのは、データ取得の手段が整い、リアルのデータが有用だと理解しているからです。先述のスマートショッピングカートやSNSとの連携によって、購買の現場でリアルに、個々に、そして直接情報の発信が可能になります。