最速で伸びるYouTube市場インド、Netflixは苦戦
インドYouTube市場の急速な拡大を後押ししている主な要因として挙げられているのが、スマホと格安通信プランの普及だ。
eMarketerは、こうした理由を背景に2019年インドのデジタルビデオ視聴者数は2億9,080万人と前年の2億4,510万人から18%以上増加したと推計。1億7,950万人だった2017年からは62%増加した計算となる。格安通信プランはさらに普及する見込みで、これにともない2020年には3億3,050万人、2021年には3億6,880万人に増加する見込みだという。
このデジタルビデオ視聴者数の定義にはYouTubeだけでなく、Netflixなどのサブスクリプション型コンテンツの視聴者も含まれているが、その大半はYouTube視聴者で占められている。上記のとおり、2019年のデジタルビデオ視聴者数は2億9,080万人、このうちYouTube視聴者数は2億7,190万人。全体の93.5%を占めているというのだ。
eMarketerはデジタルビデオ視聴者数の増加にともない、YouTube視聴者数も伸びていくと予想。その数は2020年に3億870万人、2021年に3億4,200万人に拡大する見込みという。視聴者数が年10%以上の伸びを見せる右肩上がりの成長市場として期待を集めている。
インドの人口が13億人であること、また若年層が多く、今後も人口増が予想されていること、さらには動画コンテンツ需要が他国に比べ高いという文化的理由などを考慮すると、eMarketerの強気な予想が大きくはずれる可能性は小さいと言えるかもしれない。
YouTubeが市場を席巻している一方、Netflixは苦戦を強いられている。eMarketerによると、YouTubeのデジタルビデオ市場占有率が93.5%であるのに対し、Netflixは5%以下で足踏みをしている状況という。2019年インドのNetflixサブスクライバー数は810万人。
無料で視聴でき、インド向けコンテンツが充実しているYouTubeに対し、Netflixはサブスクリプション価格が相対的に高額なため競争力が削がれている。Netflixインドの月額利用料は500ルピー(約7ドル)からで、視聴は1つのスクリーンに限定されている。一方、インドのサブスクリプション動画配信市場で70%のシェアを誇るHotstarの利用料は年間365ルピー(約5ドル)。Netflixの利用料はHotstarに比べ16倍以上高いことになってしまうのだ。

続々登場、フォロワー数1,000万人以上のYouTubeチャンネル
インドのYouTube市場の可能性に以前から注目していた人々は少なくないはずだが、最近起こったある出来事で同市場への注目度は一気に高まったと言えるだろう。
これまでYouTubeチャンネルフォロワー数で世界最多を誇っていたスウェーデン・ユーチューバー「PewDiePie(ピューディパイ)」が、インドの「Tシリーズ」に追い抜かれてしまったのだ。YouTube界隈では2018年末頃から「PewDie Pievs Tシリーズ」などと銘打った企画で、TシリーズがいつPewDiePieを追い抜くのかという話題で盛り上がっていた。

2018年末時点、PewDiePieのフォロワー数は約7,800万人、これに対しTシリーズは7,760万人だった。その後、両チャンネルともにフォロワー数を伸ばし、現在Tシリーズが1億1,500万人、PewDiePieが1億100万人に達した状況だ。Tシリーズは組織チャンネルである一方、PewDiePieは個人チャンネルという位置づけ。PewDiePieが個人チャンネルとして初めてフォロワー1億人を突破したと様々なメディアが大々的に報じていたのは記憶に新しいのではないだろうか。
Tシリーズは主に音楽PVを配信しているチャンネル。インドでは音楽PVやドラマを配信する組織チャンネルが強い印象だ。Tシリーズに次ぐインド第2位のチャンネルは「Sony Entertainment Television India(SET India)」。フォロワー数は5,770万人とTシリーズほどではないにしろ、巨大なフォロワー基盤を有している。主にドラマのティザー動画やフルエピソードを配信している。
この他にも日本の基準で考えると驚くべき規模のチャンネルが多数存在する。2019年10月時点では、フォロワー1,000万人を超えるチャンネル数は52個確認できる。地元紙The Hinduが2019年4月に伝えたところでは、フォロワー100万人超えのチャンネルは1,200以上もあると伝えている。5年前、100万人超えのチャンネルは2個のみだったという。
100万人超えのチャンネルには個人クリエイターが運営しているものも少なくない。商品やサービスのレビューに従事するYouTuberは多く、他の国同様に消費者の購買意思決定に大きな影響力を与えている。
インドを代表する自動車/二輪車メーカーのバジャージ・オート。同社代表のラケシュ・シャルマ氏がThe Hindu紙の取材で、YouTubeが消費者にリーチするための死活的なタッチポイントの1つになったとまで語るほどにその重要性は増している。実際、バジャージ・オートの新モデルをレビューする動画は数多くアップロードされ、いずれも数十万回から数百万回の視聴数に達していることからも、影響力の大きさをうかがうことができる。
人口13億人で、今後さらに人口が増えると見込まれるインド。ネット普及率やスマホ普及率にはまだまだ伸びしろが残っており、前述の数字は今後も頻繁なアップデートが必要となるだろう。Tシリーズだけでなくフォロワー1億人を超えるチャンネルが多数誕生する可能性は大いにあると言えるのではないだろうか。