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MarkeZine Day 2020 Spring(AD)

DXをどう進める?マーケターの役割は「顧客視点」と「業務効率化」の2つをつなぐこと

 スマートフォンの爆発的な普及で、消費者の購買行動はデジタル化している。そのような状況下、リテール企業はどのようにデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を推進すべきなのか。2020年3月10日に行われたMarkeZine Day 2020 Springでは、CaTラボ オムニチャネルコンサルタント逸見光次郎氏とランチェスター代表取締役の田代健太郎氏が登壇し、リテール企業のDXにおいてマーケターが果たすべき役割について語った。

100年以上続いた売り方が激変

 「マーケターが推進する、リテール企業のDX」と題された本セッション。CaTラボ オムニチャネルコンサルタントの逸見光次郎氏とランチェスター代表取締役の田代健太郎氏が、リテール企業を取り巻く課題とその解決策について語った。

株式会社CaTラボ オムニチャネルコンサルタント 逸見 光次郎氏
株式会社CaTラボ オムニチャネルコンサルタント 逸見 光次郎氏

 逸見氏のキャリアは、バラエティに富んでいる。大学卒業後に入社したのは三省堂書店。以降、ソフトバンク イーエスブックス(現、セブンネットショッピング)を立ち上げ、Amazon ジャパンでBooksMDを担当。その後もイオンのデジタルビジネス戦略担当、カメラのキタムラ 執行役員EC事業部長、ローソンマーケティング本部長補佐、千趣会執行役員マーケティング担当などを歴任し、経営と現場、ITと営業、デジタルとアナログの両方に携わってきた。

 こうした経験を踏まえ逸見氏は、リテール企業を取り巻く市場環境について「デジタル化やスマートフォンの普及で、100年以上続いてきた“売り方”が激変している」と指摘。既存の宣伝手法や販売方法では市場で生き残るのは難しく、変わらなければいけないこと強調した。

 「スマートフォンの普及にともない、消費者が能動的に情報を得ることができるようになりました。一方、売る側も消費者のパーミッション(許諾)を得て、顧客の消費行動や嗜好性を理解するデータを取得することが可能です。企業は『個』がどのような消費者なのかを把握し、『個』に合ったアプローチができる時代になっているのです。しかし残念ながら、それを実現できている企業は多くありません」(逸見氏)

 通信環境の変化だけではない。顧客の消費行動の変化を示す数字もある。リテールの市場規模は1997年の148兆円から2016年の128兆円に減少している一方、訪日観光客が年間4兆円(2018年度実績)を消費するようになった。このことからも、“マス”に向けて広告を打つという従来のやり方を脱し、DXに向けた体制構築を急ぐ必要があることがわかる。

業務プロセスを根底から見直すことが本質

 では、リテール企業はDXをどのように捉えるべきなのか。田代氏はDXの定義として、経済産業省が2018年9月に発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン Ver. 1.0 (以下、DXガイドライン)」の内容を紹介した。

株式会社ランチェスター 代表取締役 田代 健太郎氏
株式会社ランチェスター 代表取締役 田代 健太郎氏

 それによると、DXは「経営・業務・IT すべてを変革し、競争優位に立つこと」を指す。つまり、これまでの業務をITで効率化するレベルではなく、企業組織や既存の業務プロセスを根底から見直すことがDXの本質であるというのが、経済産業省の見解だ。

 これまでの「デジタル化」の目的は、その多くが既存の業務プロセスを維持したまま、処理スピードを向上させることだった。しかし既存業務の効率化だけでは、先に挙げた急激な変化に対応できない。特にリテールは顧客密着型のビジネスだ。田代氏は「顧客の消費行動が変化している以上、顧客を理解し、柔軟に対応できる組織体制にする必要がある」と語った。

 逸見氏は、DXの推進にあたってリテール業界が抱えている課題として「マーケティング部門が商品部や営業部、販売部と並列に扱われていないこと」挙げる。

 「リテール業界では商品部と販売店舗営業部の発言力が大きく、マーケティング部は“彼らの下組織”という立ち位置でした。そのため組織的にも、DXを推進するという体制になっていません。しかし本来はマーケターこそが、DX推進のフロントラインに立つ存在であるべきなのです」(逸見氏)

データの点在・定義のズレがDXを阻む

 次に両氏は、リテール企業がDXを進めていく際の道筋と障壁について議論した。逸見氏は「現在は顧客の購買行動データがある程度取得できるのだから、データを分析して商売を考え直さなければいけません」と強調した。

 たとえば、これまでのPOSデータからは、「いつ」「どの店で」「何が売れた」しかわからなかった。しかし、デジタルでPOSデータに顧客IDを紐付けることができれば、「どういった属性の顧客が」「どのようなカスタマージャーニーを経て」「何を購入したか」までがわかる。さらに、その顧客が新規顧客なのか、既存顧客なのか、既存顧客であればどのような購買活動をしているのか(毎年継続/新規継続/休眠復活)まで判明する。

 また田代氏は、データの点在を問題点として指摘した。

 「BI(Business Intelligence)などを活用して売上や在庫、発注、仕入れといったデータを分析し、次にとるべきアクションを決める。マーケティング戦略が確立している企業では、ごく自然に行われているプロセスですが、こうしたデータがバラバラに点在していると、お互いを連携して分析することができないのです」(田代氏)

 データの点在がもたらす罠は他にも存在する。同じデータであっても部署ごとにデータの定義が異なる事態が発生し、議論の食い違いが起きてしまうこともあるのだ。

 さらにリテール企業は、データを活用して業務効率化しないと、販売の現場は人手不足で立ちゆかなくなる可能性もある。過去に逸見氏が執行役員EC事業部長として働いていたカメラのキタムラでは、店舗販売員の業務効率向上を目的に、手元のタブレットで在庫が見られる仕組みを構築した。その結果、店舗販売員は顧客からの在庫問い合わせなどを接客しながら確認できるようになった。これにより、人手不足による販売機会損失が削減できたという。

商品勘定から“顧客勘定”へシフトせよ

 こうした状況の中、両氏が重視しているのが、DX推進におけるマーケターの役割だ。逸見氏はリテールがDXを進めていくにあたって、これまでの「商品勘定」から「顧客勘定」へシフトさせることが重要だと考えている。

 「たとえば、年間300億円の売上目標を立てたとします。その場合、『シューズ15万足で250億円、アパレル2万着で25億円』という商品の集計ではなく、『30万円の買い物をしてくださるお客様を3万人、10万円の買い物をしてくださるお客様を5万人、5万円の買い物をしてくださるお客様を10万人』というように、お客様単位で考えていくことです。つまりマーケターは、『いくら買い物をしてくださるお客様が何人いるのか』をしっかりと数値で把握することが大切です」(逸見氏)

 その際、顧客IDがあれば、購入した顧客が既存顧客か新規顧客なのかがわかる。両者をLTV(顧客生涯価値。この場合は単価と購買頻度)に分解し、財務諸表に結び付けて可視化すれば、会社全体に対する影響も把握できる。こうした顧客分析とその施策を、経営に与えるインパクトとして可視化することで、経営層のマーケターに対する意識が変わっていく。

顧客視点と業務効率化をつなぐのがマーケター

 リテール企業のDX推進は、顧客視点の「サービスにおけるDX」と、「社内のDX」に大別できる。顧客接点サービスのDX化とは、オムニチャネルの実現だ。モバイルアプリからのアクセス・検索傾向から嗜好性を分析し、パーソナライズされた広告を表示させたり、実店舗に誘導したりする。店舗のデジタル化が進んでいれば、デジタルサイネージによる商品のレコメンドや購買後のフォローなどが考えられる。

 一方、社内のDXには、前述した業務効率化はもちろん、社内データの一元管理による「データ駆動型経営」が挙げられる。経営層がリアルタイムで各部署のデータを確認できるプラットフォームを構築し、意思決定ができる環境を構築する。さらに、生産者や卸業者、倉庫業者といったサプライチェーンともデータ共有できる体制の構築も欠かせない。

 企業のDX化は顧客軸での改善活動。そしてその核となるのが、マーケターである――。これが逸見氏と田代氏の見解だ。

 「カメラのキタムラの例のような業務効率化と顧客データ分析による顧客接点サービス、両者がつながっていて初めてDXが実現されます。その両者をつなぐ役割を担っているのが、マーケターなのです」(田代氏)

 「マーケターはデジタルツールの運用や、デジタルマーケティングのKPIの改善だけではなく、顧客のLTVを全社の利益に結び付けて、経営から現場まで、費用対効果を含めた説明ができると良いでしょう」(逸見氏)

 最後に両氏は「マーケターはより大きな視点でデータを活用し、企業のDXを推進して変革してください」と訴え、セッションを締めくくった。

★こちらのレポートも要チェック★
・Biz/Zine Day「DXで変わる、店舗の顧客体験
・その他DXセミナーレポート「アプリ導入でDXは推進されるのか?!

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この記事の著者

鈴木 恭子(スズキ キョウコ)

 東京都出身。週刊誌記者などを経て、2001年IDGジャパンに入社。「Windows Server World」「Computerworld」などの記者・編集を経て2013年にITジャーナリストとして独立。主な専門分野は組込系セキュリティ。現在はIT(Information Technology)と...

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MarkeZine(マーケジン)
2020/04/13 10:00 https://markezine.jp/article/detail/33040