自前かありものか、その判断が投資効率を左右する
有園:そして、企画してみる。
野口:そうですね。企画に際してまとめた「5W1H」というのがあるのですが、その中でポイントは「WHEN:いつまでにどう用意するか」です。今、大企業ではデータサイエンティストやAIエンジニアをとりあえず雇用する動きがありますが、何もAIって内部で作るのが前提でなくてもいい。自前の必要があるのか、AIベンダーをパートナーにカスタマイズしてもらうか、それとも既にプラットフォーマーが用意している構築済みAIでいいのか。投資対効果を見極め、制御できる状態になるのが、AI企画には含まれています。

有園:確かに、これはコストに大きく関わりますね。ここまでの流れに事例のインプットを加えて、4ステップなんですね。
野口:はい。下図を見ていただくとわかるように、前半のステップはいわばAIの基礎力です。後半のステップは並行して進めてもいいと思います、事例も最終的に企画力につながります。
事例を探すのに便利なのはTwitterです。ここでも、あらかじめ自分が関わるビジネスではどれが有効そうで、どんな事例が役立つかの目途があるほうが集めやすく、体系的に理解できると思います。

有園:この、左のビジネス推進力と、右のAI実装力というのは?
野口:結局、文系AI人材としては図の縦列だけ押さえても不十分で、横列がないとビジネスインパクトが生まれないんです。ビジネス推進力、ビジネスの理解はどんな仕事でも重要ですよね。また実装力と書いたのは、AIは何らかのシステムに組み込んで本番化するので、そのプロジェクトマネジメント力という意味合いです。
AIに置き換わるのは“葛藤のない”仕事
有園:なるほどね。ここまでを踏まえて、改めてAI人材の重要性を考えたいんですが、大前研一さんが20年ほど前に「昔は“読み書きそろばん”と言われたが、今の社会人にとって必要なスキルは“英語、会計、IT”だ」と言われていました。これが今さらに変化していると私は感じていて、“AI、データ、ヒューマンインテリジェンス”だと言えるんじゃないかと。
あるいは、“AI、データ、UXインテリジェンス”と言っても良い。特に今、デジタルトランスフォーメーションが日本企業の喫緊の課題ということを踏まえると、「ヒューマンインテリジェンス」よりも「UXインテリジェンス」がベターかも。「UXインテリジェンス」という言葉は、ビービットの藤井さんとの前回の対談『アフター・アフターデジタルの世界で理解すべき 「UXは経営課題」の意味』を参考にしていただければと。
で、さっきの大前研一さんの話に戻ると、英語はもちろん大事ですが、もはやAI通訳機のポケトークで代替できるし、会計も作業的なところは機械ができます。で、当時のITツールを使う能力はもう常識で、これからはデータ解析と、そしてUX追求と密接な人間を理解する力、人間力みたいな要素がむしろ重要になってくる。
野口:100%、同感ですね。これ、経営に必要な“人、モノ、カネ”ともリンクしているんじゃないかと思いました。労働力というより、人を理解する知性が欠かせなくなり、データ解析とAIによって新しいモノ、価値が生み出されるようになっている。かつ、お金の部分ではこれまでのような短期的な収支ではなく、M&Aやスタートアップとのオープンイノベーションなども含めて、中長期的にエクイティを築いていく視点が大事になると思います。
有園:そうですね。いくら優れたUXを提供しても、ビジネス自体が破綻したら意味がないから、中長期的に回っていくのかという視点は大事だと。最後に、AIがますます広がる世の中の展望をうかがえますか?
野口:AI拡大と雇用の減少の話題も出ましたが、ある程度は事実だと思います。試行錯誤のない、葛藤のない仕事はAIにどんどん置き換わっていくはずです。一方で、それこそスマートシティなどが進めば、AIの企画や保守運用などの新たな仕事が町中に生まれます。だから、AIを使う側に早く回ることが大事です。先陣を切っていけば、新しいビジネスにおける世界観をつくっていける。そうすると、日本全体としてもグローバルにも立ち向かえるようになると思います。
有園:今日はありがとうございました!
本対談にご協力いただいた野口さん、現役の高校の先生から授業で書籍『文系AI人材になる―統計・プログラム知識は不要』を使いたいと打診されたことをきっかけに、中学校・高校の教室に自腹で献本をしているそうです。教員の方々、また母校に置けるという方がいらっしゃいましたら、ぜひTwitterなどで野口さんにご連絡ください(野口さんのTwitterはこちら)! 日本の未来を創っていく若い方たちにもAIに興味をもってもらえる機会が広がりますように。
