データに基づいたKPI設計を
三浦氏は、最初に「“データマーケティング”とは、データを活用して事業をグロースさせることである」と定義した。グロースとはつまり、認知から継続購買に至るまでの各プロセス間の数値を向上させ、売上を最大化することだ。その上で、同社のデータマーケティングプラットフォーム「b→dash」を活用するクライアントの成功事例を紹介した。
あるスクール型の教材サービスを運営している企業では、データに基づきビジネスプロセス上でどの工程を改善すると売上が上がるかを分析し、新たに施策を実行した。その結果、全社の年間売上の5%に相当する、約10億円の収益増を実現。まさに理想のデータマーケティングを実現した企業の1つだ。
この企業が運営するスクールでは入会契約時に売上が発生し、レッスン修了時に売上を計上できる。さらに、追加レッスンの販売によってアップセルを狙っていた。多くの人にレッスンを修了してもらい、追加レッスンを申し込んでもらうことが、売上を上げるポイントだった。
会員ごとにコース情報、受講情報など各種データを可視化し、分析した結果、コースを修了する人としない人とのギャップは、契約直後の来店頻度にあることがわかった。入会後1ヵ月以内に3回以上のレッスンを受講している人は、そうでない人に比べて80%以上修了率が高い。そのため、最初の1ヵ月に3回以上来店させることをKPIとして改善施策に取り組むことにした。
データに基づく改善策で来店率、レッスン終了率がUP
施策としては、レッスンの際に講師から次回予約を直接促すオペレーションを入れた。また、その場で予約しなかった人には、レッスン当日と3日後、5日後それぞれにSMSとメールで予約を促す案内を送付した。そうしたところ、予約率は14%以上アップしたという。
また、予約していたのに忘れて来店しないということを防ぐために、予約前日と当日にリマインドの連絡を入れるオペレーションも追加。これにより、来店率も12%アップの改善につながった。
その2つの数字が上がることで、最初の1ヵ月に3回以上レッスンを受講する人が増え、レッスン修了率もアップした。その結果、前述のように10億円の年商拡大へとつながったのだ。
「データマーケティングをきちんと行うことで、この企業に限らず様々な業種・業界の事業をグロースすることが可能です。ほとんどの成功事例には共通する6つのステップがあることがわかりました。我々はそれらをフレームワーク化し、『Growth method(以下、グロースメソッド)』と呼んでいます」(三浦氏)
事業成長を約束する、6つのグロースメソッドとは?
では、グロースメソッドとはどのようなものか。三浦氏はグロースメソッドに必要な6つのステップを挙げた。
1つ目の「ファネル」は、先ほどの成功事例のように数と率の観点から顧客の行動プロセスを操作可能な変数に変えていくということ。
売上に至るまでに、顧客はどういった行動をたどっているのかをすべて変数化していき、どの数字を改善すると売上が上がるかという方程式を作り上げていく。先ほどの成功事例の場合も、ファネルの可視化からスタートしていった。
たとえば、小売業で特定の商品を売りたい場合、商圏人口から認知率を出し、そこから来店率、入店してからその商品棚の前の流入率、視認率、手に取る率などをすべて数値化していく。そのうち、どの変数の改善が売上向上に一番寄与するのかを考えていく。
2つ目の「ボトルネック」は、売上増加を阻害するボトルネックを特定するフェーズ。たとえば、ECサイトのユニークユーザー数が1万人いたとして、そのうち購入者が100人だとしたら、CVRは1%となる。
そして、その1%を分解していく。商品閲覧率が80%で、そのうち商品選択率が10%あり800人がカートに入れているが、実はカート落ち率が高く最終的に100人になっていたことがわかった場合、ボトルネックはカート落ちだと特定できる。
ボトルネックは改善可能性が高く、改善時の売上インパクトが大きい。どの企業でも必ずボトルネックはあるので、ここを改善すれば売上を上げることができる。
3つ目の「マイクロスコープ」は、顕微鏡で覗いたかのようにデータを細かく見るということだ。ボトルネックの不調要因について、解像度を上げて分析していく。
先ほどのECサイトの例において、どういう人がカート落ちしているのか、ユーザーの属性別や行動別、どんなページを見ている人が多いか、どのくらい滞在しているのか、ページの遷移はどうなっているのか、過去の購買額といった行動履歴などを見ていく。また、特定のセグメント別に分解していき、傾向を把握していく。
こうした解像度の高い分析をするためには、データの統合をしていくことが望ましい。最近はデータの統合基盤としてCDPやDMPがあるが、これらを活用すると様々な切り口でデータを見ていくことが可能になる。
4つ目の「リバース」は、ボトルネックの逆側の数字に注目するというフェーズだ。たとえばサイトからの購入者が1,000人いて、会員登録を促したときに100人しか登録しない場合、登録率は10%ということになる。リバースではこの逆の数字、つまり会員登録しない90%の理由を徹底して分析していく。
先述の成功事例の場合は、このフェーズでは、すぐに次のレッスンを予約しない理由をインタビューなどで聞いていった。その結果、「忘れてしまうから」「調べるのが面倒だから」といった理由が出てきたことから、次回予約の案内を複数回にわたって送るといった施策につながった。
5つ目の「アンリフューザブルオファー」は、絶対に断れない提案だ。数字が上がらない理由を徹底的に考え、その理由を潰していくという一番大事なフェーズである。
引き続きサイトの会員登録数を例にすると、購入者のうち90%が会員登録しない理由に注目し、アンケートやヒアリングなどを行う。そして、そこから一番大きな理由を見つけて、徹底的に潰していく。
たとえば、「今登録する理由がない」というのが一番大きな理由となっている場合、その場で会員登録すれば次回20%オフクーポンをプレゼント、後日登録の場合はインセンティブはなしといった仕掛けを作ることで、今すぐ会員登録する理由が生まれる。「相手の不買理由を潰していくことで購買率が高まる」ということ。
6つ目の「オペレーション」は、改善のための施策を実施して、徹底したKPIモニタリングを行うことだ。グロースしている企業のKPIモニタリングには、2つの特徴がある。
1つは、日次でKPIモニタリングをしていること。もし不調の数字があれば、そこに対してすぐに会議を開いて潰していく。
もう1つは、「アクションKPI」を設定しているということ。これは、結果としての指標を見だけではなく、その指標にインパクトを与えるような能動的なアクションやコントロールできるようなアクションについても計測していくということだ。
成功事例のスクール型の教材サービスの場合では、講師が予約を促すオペレーションをどれだけ実行したか、それを生徒がどれだけ受領したかというアクションもきちんと測っていった。
データマーケティングに潜む2つの落とし穴
ここまで6つのフレームワークを紹介してきたが「それらすべてを実践したからといって、効果が出るとは限らない」と三浦氏は語る。というのも、データマーケティングを実践する際に、落とし穴にハマってしまう企業が少なくないからだ。
データマーケティングの落とし穴にハマってしまう理由として、大きく2つのことが挙げられる。
1つは、データがバラバラになっているから。細かい分析をするためには、様々なデータが必要となる。それらを紐付けして掛け合わせて分析しようとしたときに、データがバラバラのツールで管理されていると、膨大な時間がかかってしまう。その結果、様々な切り口で分析を行うことも難しくなる。しかし、こうした課題は、CDPやDMPといったデータの統合基盤を活用することによって、解決できる。
2つ目は、データ運用に大幅な工数がかかってしまっているから。様々なデータを取込、統合し、MAやBIなどの活用ツールで使えるようにするという工程がこのデータ運用だ。実はCDPを導入しただけでうまくいくわけではない。なぜかというと、取込と統合にものすごく時間がかかるのだ。「b→dash」を導入する前のクライアントにヒアリングをしたところ、平均で1回あたり300時間ほどにもなった。
その後の変換の工程も大変だ。統合されたデータを活用ツールで利用できる形「データマート」に変換するのだが、これも1回あたり80時間ほどかかる。
つまり、新しい切り口で分析を行うたびに、380時間も要してしまうことになる。
また、これらの運用工程を行うためには、SQLというプログラミング言語を理解したエンジニアの確保も必要だ。社内でそれだけのリソースを割けるほどエンジニアを確保する、もしくは外注することが可能なのは、一部の大企業だけになってしまうだろう。
データ統合と運用にかかる工数・コストという課題を解決し、マーケター自身で運用可能な「b→dash」
フロムスクラッチが提供するデータマーケティングプラットフォーム「b→dash」は、データの”統合”と”運用”の課題を解決する機能を搭載しているため、多くの企業に導入され、問い合わせも相次いでいるという。具体的にはどのようなものなのだろうか。
まずデータ統合の問題については、CDP機能が備わっている。データ運用の問題については、SQLの知識やプログラミング不要で運用できる「データパレット」という機能を開発。同機能は、社内のデータサイエンティストが25万時間以上の解析作業で蓄積した、110業種・13万テーブル分のデータ処理ナレッジをGUI上に昇華させた技術だ。
アニメーションやガイドが表示され、ボタンをポチポチと選択していくことでマーケター自身での運用を可能にする。そのため、エンジニアの登用コストや外注コストを大幅に抑えることができる。
また、上述の通り、データ統合と運用に約380時間かかっていたような運用工程も短縮され、3時間ほどでできるので、工数も大幅に軽減される。
「工数が減るということは、マーケターの時間の使い方も変わってきます。浮いた時間で、仮説の検証や企画・施策の検討に集中できるようになり、本来マーケターがすべき重要な仕事、つまりグロースハックのための業務に時間を割くことができます」(三浦氏)
また、「b→dash」は様々な機能をオールインワンで搭載している。
事業の成長にデータは欠かせなくなっている一方、データマーケティングの落とし穴にハマって疲弊しているマーケターもいることだろう。そういった企業は、一度自社のデータマーケティングのプロセスや導入しているツールの見直しを、同記事を読みながら行ってみてはいかがだろうか。