ミレニアル世代にとって「選ぶ」は時にストレスとなる
たとえば、寝具直販のCasper(キャスパー)という会社がある。創業は2014年。マットレスや羽毛布団などの寝具を作り、オンラインで販売するというスタートアップだが、わずか6年で推定時価総額1,200億円となった注目の業界破壊企業である。特に目新しさを感じない寝具の通販企業が、なぜ時価総額1,000億円を超えるユニコーンになったのか。
そのキーは「ミレニアル」にある。この会社の共同経営者は5名だが、全員がミレニアル世代なのだ。そのため、この世代の消費志向を熟知しており、それを見事にサービスに活かしている。
Casperは自らを「スリープ・カンパニー」と呼び「寝具ではなく、眠りを売っている」とするこだわりを持っている。ただし、ここまでは日本の企業でも珍しくない。言うは易く、行うは難し。ポイントは、その使命をいかに真剣に追い求めるかだろう。
彼らが追求しているのは、高級品や複雑な品揃えではなく「ぐっすり眠る」という経験である。そのために「心地よい眠り」を徹底的に研究し、シンプルに「1種類のマットレス」を開発したのだ。しかも販売はオンラインのみである。
今までの消費感覚であれば「いろんな商品の中から選んだ方がいいに決まってる」「実際に、触って、寝てみなければわからないよ」というのが当たり前かも知れない。
しかし、ミレニアル世代は金銭感覚やモノに対する価値観が異なっている。ショールームへ行って、店員から接客を受け、バリエーション豊かなラインアップを試し、自分なりの一品を選ぶという購買行動そのものにストレスを感じる人が増えてきたのだ。その背景には「モノよりコト」「お金より時間」という若い世代のインサイトがあると思われる。

「シンプルさ」と「つながり」が、ミレニアルの心を動かす
このような課題を「シンプル化」によって解決しようと考えたのがCasperだ。彼らは徹底的に「眠り」を研究し、そもそも消費者に合わせて複数のタイプのマットレスを用意する必要はないという結論に達した。マットレスの生地について入念な調査を行った結果、ユーザーの多くは二種類の素材を好み、その二つを使用したマットレスを作ればユーザーに眠りの満足感を提供できる。そう結論づけたのだ。
価格はリーズナブルな500ドル。それをオンラインのみで販売することにした。「選ぶストレス」「購入のストレス」「足を運ぶストレス」をごっそりと排除し、シンプルな顧客体験を提供したのだ。「試してみなければ不安」という人に向けて「100日間のトライアル」と「一年保証」をつけ、集合住宅でも簡単に配送できるよう、小型の冷蔵庫ほどに梱包できる画期的なパッケージも開発した。
さらに、CasperはSNSでの顧客コミュニケーションをとても重視している。CasperのFacebookのフォロワーは65万人を超えているが、多くのフォロワーがレビューを書き、消費者同士が活発にコミュニケーションをしている。ほぼすべてのコメントや質問にはCasper自身が返答して「顧客とのつながり」を醸成しており、結果的にSNSのコメント欄がそのまま商品説明やPRの役割を担うようになっている。InstagramやTwitterもフォロワーも10万人を超えており、SNSごとの特徴を活かしたコミュニケーションを丁寧に行っているのだ。
「売ったら終わり」ではなく、SNSなどを通じてユーザーとつながり続けるのもCasperの特徴であり、ミレニアル世代の感覚なのだ。この点も、お店で展示・販売する旧来のマットレス販売業者とは異なるところだろう。