「サステナブル」なくして、ビジネスにあらず
最後に、ミレニアル世代の価値観変容の中でも、もっとも広範囲に影響を与えるものとして「サステナブル」を取り上げておきたい。
「持続可能な」「ずっと続けていける」を意味するこのキーワードに対して、ミレニアル世代の関心は強まっている。これも当たり前のことで、若い世代にとって、地球が壊れていくことは、まさに「自分ごと」だからである。
国連が主導したSDGsの影響もあり、今やサステナブルは世界中の企業の合い言葉のようになりはじめた。テクノロジー型の業界破壊企業も、その多くが地球環境保護、エネルギー問題、社会問題などのサステナブルな要素と密接に結びついている。
たとえば、LanzaTech(ランザテック)という業界破壊企業が持つ技術は「排気ガスをエタノールに変えて再利用する」というもの。テクノロジーやビジネスモデルそのものが、完全にサステナブルを意識したものになっている。
彼らが掲げるスローガンは「カーボンスマート」。カーボン(炭素)を循環的に利用する社会の実現を目指している。同社がユニークなのは「排気ガスから、別のエネルギーや資源を生み出す」という、循環そのものに対するイノベーションを起こしたところだ。
たとえば、ある製鉄所が軽くて丈夫な鉄製品を作り、それが航空機の機体の一部となる。LanzaTechはそのような既存のビジネスプロセスに入り込んで、製鉄所から出る排気ガスを利用してエタノールを作り、新たに「バイオジェット」と呼ばれる航空機の燃料を作りだしている。あるいは、エタノールは合成繊維やプラスチック、ゴムなどにも加工できるので、航空機の別の部分の素材として利用することもできる。既存のサイクルをそのままに、無理なくサステナブルを実現しているのがLanzaTechという企業の特徴なのだ。
2019年ディスラプターのトップとなった農業支援サービスのIndigo AG(インディゴAG)は、1兆トンの二酸化炭素をカットするという「テラトン・チャレンジ」を実施中であり、野菜や果物をコーティングすることで長持ちさせるApeel Sciences(アピール・サイエンシズ)では、食品ロス、水の節約、電気の節約を具体的な数値を掲げている。人工肉のImpossible Foods(インポッシブル・フーズ)は、食肉生産のために「森林が伐採され、牧草地になることで、より炭素の放出量が増え、生物の多様性は損なわれる」ことを数値で掲げている。
若い世代にとって、サステナブルであることは当たり前であり、むしろ対応していない企業は「足切り対象になる」と考えたほうがいいだろう。選択消費が重要であると考えるミレニアル世代も増えており、彼らがリードする業界破壊企業も、当然ながらサステナブルは強く意識している。
ビジネスが成長するほど、地球環境がよくなり、人々が幸せになっていく。そのようなCSVモデルへの大胆な事業転換を図り、人々の共感を得ることは、企業としての生き残りをかけた選択といえるのではないだろうか。
「業界破壊企業」についてより詳しく解説した本を出版しました
最後に、5月19日にミレニアル世代がリードするディスラプターを解説した『業界破壊企業 第二のGAFAを狙う革新者たち』という本を出版したのでご紹介したい。業界破壊企業の紹介にとどまらず、WeWork問題から新型コロナショックまで、そのインパクトや今後の見通しについて書き下ろした。また、お金視点の経営から、幸せ視点の経営へ。未来の方向まで示唆させていただいた。ご興味ある方は、手にとっていただけると幸いである。