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「リアル店舗の強みは維持し顧客接点を広げていく」フィッツのインハウス戦略が机上の空論にならなかった訳

 多くの企業にとってデジタルシフトは優先課題だ。香水やコスメを製造・輸入・販売しているフィッツコーポレーションも、リアル店舗での強みを維持しながら、デジタル活用の体制構築に挑んでいる。デジタル化を視野に入れた組織作りはしばしば“机上の空論”となってしまいがちだが、同社マーケティング部の桜井氏は「実は現場社員もデジタルに対する危機感、学びたい気持ちをもっている」と話す。では、社内全体を巻き込みながら、インハウス化を目指すためのポイントとは。桜井氏と同社にインハウス支援を提供するハートラス取締役CSMOの高瀬氏に聞いた。

店舗に固執しすぎていた?顧客接点の見直しがきっかけに

――はじめに、自己紹介をお願いします。

桜井:フィッツコーポレーション(以下、フィッツ)で男性化粧品事業・ヘアケア事業に携わりながら、コミュニケーションデザインチームの統括をしています。広告宣伝、クリエイティブ制作、広報を担当するチームが含まれていて、その横にあるEC推進チームとのリレーション強化を推進していく役割も担っています。

株式会社フィッツコーポレーション マーケティング部 執行役員 桜井孝氏
株式会社フィッツコーポレーション マーケティング部 執行役員 桜井孝氏

高瀬:私はハートラスでCSMOとして、事業全体の戦略とマーケティングを管掌しています。

――本日はフィッツさんのデジタル推進のお取り組みについてうかがいます。生活者のライフスタイルの変容を受け、企業側もデジタルを活用しながら事業を成長させていくことが求められるようになっていますが、卸売業界のデジタルシフトは現在どのようなフェーズにあるのでしょうか。

桜井:ここ数年間でデジタルシフトを推進している企業と、そうでない企業にはっきり分かれてきた印象です。進んでいる企業はID-POSデータと自社のアプリの会員データなどを結合してデータマーケティングに取り組んでおり、SNSやアプリに力を入れているところも増えています。フィッツももっと進めていかなければと、課題感を持っているところです。

――フィッツさんでは、現在どのようなことが課題になっているのでしょうか。

桜井:フィッツは卸売メインで直営店を持っていませんし、直営のECも道半ばの段階です。小売店を通じてお客様に商品を手に取ってもらうことが肝心なため、これまではリアル店舗におけるタッチポイントで消費者にどうアプローチしていくかに注力していましたし、そこがフィッツの強みであることは変わりません。

 しかしいわゆるD2Cを起点にする企業はまったく違う考え方をしているのを知って、私たちはリアル店舗というひとつのチャネルに固執しすぎていたかもしれない、と考えるようになってきました。リアル店舗に来てもらう前の接点で、いかにお客様にファンになってもらうか、コミュニケーションを深めていくかが我々の課題であり、これから注力していきたい部分です。

社内にナレッジを残すことを目標に

――では、ハートラスさんにインハウス支援を依頼することに決めた理由を聞かせてください。

桜井:お客様とコミュニケーションを取っていく上でデジタル化が課題であることは明確だった半面、社内だけで考えていては、なかなか解決策が出ないことがありました。

 中でも一番の課題だったのは、社内の体制構築です。どんなに外部の優秀なパートナーとお取り組みさせていただいたとしても、社内側の体制が整っていなければ、その力を最大限生かすことはできません。また、一時的なアウトプットで終わってしまって、社内にナレッジが残っていかないことも課題となります。最終的にインハウスでやっていきたいとの考えはあったものの、どう進めて良いのかわからず悩んでいました。

 そんなときに出席したマーケティングカンファレンスで、ハートラスさんがインハウス支援をメインに展開していることを知り、すぐに高瀬さんにお話を伺いに行ったんです。

高瀬:ご依頼をいただいたのは、2019年の5月です。フィッツさんは経営方針の中でデジタル活用がキーワードのひとつになっていたものの、リアル店舗に強みを置いていらしたので、デジタル領域の組織体制やリソースの観点で、人員不足や仕事が属人化している点など、課題が散在していました。

株式会社ハートラス 取締役 CSMO高瀬大輔氏
株式会社ハートラス 取締役 CSMO 高瀬大輔氏

高瀬:その状況から、デジタル施策に取り組む前に、まずはそれを回すための体制や仕組みをどう作るかが重要になると考えを巡らせていました。

ベストな組織編成とは?現場社員からもアイデアが集まる

――では、具体的にどのように体制構築を進めていったのか教えてください。

高瀬:一段階目として、現状の整理と課題設定を行いました。そこでのアクションは2つに大別されます。まずは理想的な組織体制について明確化していく作業です。人員配置からどのような人材に来てほしいかということまで、議論しながら固めていきました。

 次にブランドをひとつ選定し、描いた体制で実際に運用してみました。そのブランドで過去何をやってきたのか振り返り分析を行い、外部パートナーとのコミュニケーションフローや、オリエンにおけるポイント、出てきたプランニングに対してどういう観点で見ることが必要かということについても、お伝えさせてもらいました。

桜井:私たちはこの段階を「フェーズ0」と呼んでいたのですが、一斉に動きだす前に、社員みんなで2~3ヵ月間ディスカッションをしたことが、そのあとの動きに大きく影響を与えたと思っています。

桜井:社員それぞれが考えるベストな動き方について意見をもらえたのは良かったですし、上層部で決めた新しい体制を“決定事項”として指示するのとでは、社員たちの納得感も違うでしょう。

 また、コミュニケーションデザインチームとEC推進チームとで、業務の役割分担があいまいになっていた部分があったのですが、この問題に関しても、どうしたら業務効率化できるかを社員自らが話し合って、体制を刷新することができました。この時間があったからこそ、その後の展開を自分ごと化して、自分たちの業務・チームだからという形で動かしていくことができたのだと思います。

高瀬:回を重ねるごとに、みなさん自分の意見を出してくれるようになっていきましたよね。机上の空論にならず、再現性のあるプロジェクトとして進んでいるのは素晴らしいです。

デジタル活用の目的がより明確に

――実際にお取り組みを開始されて、成果が現れている点はありますか。

桜井:PDCAを検証していく仕組みが構築されつつあります。フィッツは売上の大部分を卸売が占めているため、広告運用がすぐに収益に結びつくわけではないのですが、引き続き、考え方の基盤を強固にしていくことが重要だと考えています。

 また、社内全体に起きた変化として「自分たちはどのような目的でデジタルを活用するのか」という根幹の考えが、より明確になってきています

――どのような方向性が見えてきたのでしょうか。

桜井:フィッツは「香りを通して、生活者にとってより豊かなライフスタイルを創造していく」ことを目指しているのですが、そのためには、自社ブランドのファンを増やしていくのはもちろん、極論、フィッツの製品ではなくとも、香りを楽しんでくださる生活者がもっと増えていくように、働きかけていく必要があると考えています。その点においてデジタルは強みをもっていて、直接お客様とコミュニケーションできる場として、もっと活用していくべきと考えがまとまったのです。

フィッツコーポレーションのスティック型練り香水「ヴァシリーサ パフュームスティック」
フィッツコーポレーションのスティック型練り香水
「ヴァシリーサ パフュームスティック」

高瀬:結果的に、トリプルメディアの見直しまで着手されていましたよね。ネット広告をやったからデジタルシフトということではなく、社内のオペレーションやルール、体制をデジタルシフトさせるために作り変えたことが一番の成果と言えると思います。

 私たちから見て、フィッツさんのインハウス支援がスムーズに進んでいる要因は、経営アジェンダにデジタルシフトが組み込まれていること、桜井さんを中心に、経営サイドへ状況が常にレポーティングされている点にあると思っています。社内の経営会議にもご一緒させてもらうこともありますし、まさに経営ごととしてデジタルシフトに取り組まれているのが伝わります。

現場の危機感、学びたい気持ちに応えていく

――組織改革の取り組みに対して、社内からはどんな反応がありましたか?

桜井:「やらなければと言いながらも、長い間実行できていなかった課題を見える化できた」「やるべきこと、目標とゴールの明確化ができた」など、各所から良い反応をもらっています。実は最近、表面化していなかっただけで他部署の社員にもWebマーケティングに対する課題感や学びたい気持ちがあったのだと気づいた出来事があって

 先日、Webマーケティングの基礎が学べる研修をハートラスさんに実施してもらったのですが、自由参加にもかかわらず、社員130人のうち90人がその研修に参加したんです。参加者の半数以上は、業務上直接的にはWebマーケティングの知識を使わない部門の社員で、こういった部門からの参加率が高かったのには驚きでした。

高瀬:オンラインでの開催とはいえ、大勢の方に参加していただいたので、講師も緊張していましたよ(笑)。こうした教育プログラムやコンテンツは、社内に知見やノウハウを貯めていただくために提供させてもらっています。

桜井:営業担当を例にしても、商談相手であるバイヤーさんの意識も変わってきているため、Webマーケティングの知識をインプットしていかないと、商談にならないということもあるのだと思います。これからも、様々な役割の部門を巻き込んでいくとともに、社員の前向きな気持ちに応えるかたちで、研修の場やデジタルに関する会話を増やしていきたいですね。

目指すゴールは「お役御免」

――最後に今後の展望を教えてください。

高瀬:私たちハートラスが最終的なゴールとしているのは「お役御免」。知識やノウハウ、スキルが社内に蓄積されていく状態のことで、それは土壌である組織や体制があってはじめて達成されるものです。

 フィッツさんとは「夏頃には社内のリソースでインハウスを進めてみましょう」と話していて、進んでみてまた課題が出てきたときに、それをどうフォローアップするか一緒に考えていけたら良いのではと思っています。

桜井:私たちも、まず自分の足で立ってみることは強く意識しています。壁が出てきたとしても、まずは自分なりに登ってみた後で、こういう登り方でいいのか、もっと楽なやり方、スピーディーに登れる方法があるんじゃないかと、アドバイスをいただくことで、力がつくと思うのです。キャンペーン、プロモーションの展開も控えているので、これからが勝負どころですね。

――本日はありがとうございました。

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2020/10/30 17:17 https://markezine.jp/article/detail/33701