アプリ企業がMMMを実施するメリット
――MMMは、テレビCMなどのオフライン施策を中心に行っていたり、リアル店舗で商品を展開するブランドに適した分析手法の印象がありましたが、グノシーのようなデジタルサービスにも、活用できるのですね。
アレックス:おっしゃる通り、MMMはオフラインとオンラインを含めた、総合的な効果測定が可能なことが特徴です。グノシーは定期的にテレビCMも実施されていますから、MMMが適していたと言えます。今回は、オフラインとオンラインの全体ROASを改善することを、目的に置きました。また、Web施策とテレビCMを横断で分析するにあたり、目的変数を既存KPI(CPD7)ではなく、広告インプレッションに設定することで、KGIにより近い指標に対する効果計測を行いました。
砂川:MMMのメリットは、売上への貢献度を把握できるだけではありません。媒体ごとに広告投資の伸びしろを可視化することもできます。もっと広告予算を増やせば成果が期待できるのか、それともこれ以上は期待できないのかを把握することで、的確な予算アロケーションが実現できます。
石井:私たちのようなデジタルサービスは、リアルタイムで様々データを計測することができます。そのため、前日の数値を見て今日はどんな施策を打つか考えることが得意ですし、グノシーも徹底的に科学の視点で施策を判断しています。
一方で、テレビCMやオフライン広告の効果は数学で証明するのがまだまだ難しい領域です。特に数ヵ月、数年単位の傾向を見ながら適切な判断をするのは難しく「あのときテレビCMをもっと打つべきだったのではないか」と感じたこともありました。MMMでその点がクリアになるとわかり、試してみる意義をより強く感じました。
MMMとサードパーティ計測で、Web媒体の評価に違いが
――それではMMMの結果について、まずは売上への貢献度の観点から教えてください。
野崎:まずは、媒体評価に大きな違いがありました。これまで広告費を多く投資していた媒体が、必ずしも高い広告効果を得られていたわけではなかったことが見えてきたのです。
石井:たとえば特定の媒体から流入したユーザーは、継続率が高い反面、ROIで見ると、あまり良くない結果が出ました。これは、これまで理解していた認識と異なり、ギャップを感じました。
その一方、ターゲティング精度の高いFacebook広告を含む一部媒体は想像通りに広告効果が高く、思っていたことが改めて数値で証明されたなと思います。
砂川:サードパーティの計測ツールとMMMで、評価が異なるWeb媒体があったことは、興味深いところでした。たとえばFacebookは、CPD7の観点では必ずしも最も高い評価を与えられる媒体ではありませんでしたが、MMMによってKGIに近い指標で見たときは、より高い評価が出ていました。
石井:今回の結果から、ROIの観点でのメディアプランニングの再考ができると気づけたのは大きな収穫でした。
広告投資の伸びしろを、データで証明
――続いて、広告投資の伸びしろについては、どのような結果が出ましたか。
砂川:ROIは高いものの、これ以上投資しても数値の伸びが期待できない媒体が見つかった一方、FacebookやInstagramは「広告投資の伸びしろがある」との結果が出ました。
広告投資の伸びしろは、サードパーティの計測ツールではわからない観点です。何を目的とした施策なのかで評価が変わることに注意が必要ですが、広告効果を最大化するには、MMMの指標である広告投資の伸びしろも参考に適切な予算配分が重要だと考えます。
野崎:FacebookやInstagramはアクティブユーザーが多く、投資の余地がありそうだという認識は持っていました。しかし、CPD7で評価したときの効果を見ただけでは、投資する決め手が足りない状況だったのです。MMMから投資の伸びしろがあるとわかり、より活用できるチャンスが広がったと感じています。
石井:投資の伸びしろが可視化されたことは、私にとっても大きな学びでした。たとえば、CPAが500円の媒体と1,000円の媒体があったとき、500円の媒体にいくら予算を投資するかは、マーケターや広告代理店担当者の肌感覚で判断されることが少なくありません。
今回のMMMで、「この媒体は、何%ぐらいまで投資できる」「この媒体は予算を増やしてもコンバージョンは変わらない」といった観点について、科学的にアプローチできる準備が整ったと思います。