「OneNDA」のコンセプトとは
――「OneNDA」のコンセプトについて教えていただけますか。
酒井:これまで取引の開始前に個別に締結されてきたNDAを統一化して、そこに賛同する企業・個人間では、当該統一ルールが適用されることになるという、コンソーシアム型のプロジェクトになります。これにより契約当事者双方がルールを把握して、迅速に取引を開始することが可能になります。

――「OneNDA」ということは「NDA(秘密保持契約)」に特化しているサービスなのでしょうか。
酒井: まずはそのように考えています。6月中旬にOneNDAのティザーサイトを公開したときに、多くのポジティブな意見をいただきましたが、質問として最も多かったのは「NDAのひな型を作って公開してくれるんですか」というものでした。
このプロジェクトでは、NDAのひな型を提供するわけではありません。すでに多くのNDAのひな型が存在している以上、我々がひな型を作り提供しても、世の中にあるひな型をひとつ増やす程度のインパクトしかないと考えます。そのため、僕たちは「OneNDA」という組織、コンソーシアムを作って、ここに参画した企業には常にそのルールが適用されるという状態を作ろうとしています。
――「参加企業にルールが適用される状態」というのは、どうイメージすればいいでしょう。
酒井:たとえば、日本にいる人には日本の民法が適用されています。誰も何も言わないし、僕たちが何をしているわけでもないのですが、いま、民法が適用されている状態なわけです。コンビニでおにぎり買うときには、民法にもとづいて売買契約が成立します。

「OneNDA」に参画すると、「これは秘密情報として扱わなければいけない」「この秘密情報を破棄してはいけない」などのルールが適用されている状態になります。「日本にいれば民法が適用される、One NDAに参画していれば統一ルールが適用される」このような世界を作りたいと思っています。
――参画企業は、これまでのように契約書を作らなくてもいいんですね。ビジネス上、そういうやり方は成立するものなのでしょうか。
酒井:はい、これは成立すると考えています。契約の成立要件は「意思表示の合致」です。「契約書を作らなければいけない」ということはありません。たとえばいま「これを売ります」「これを買います」というのを口頭で合意すれば契約が成立します。メールなどで一筆書いておくというのでもいいですし、もちろん契約書というかたちできっちりルールをすべて記述してもいいのです。
そのように、契約が成立するさまざまなかたちがある中で、互いに「OneNDAに参加します」という意志表明をすることによって、個別取引において当該ルールが適用されることが宣言され、別途の合意がなければ、当該ルールに基づく契約が成立すると考えます。これも契約のひとつのかたちとして有効なのです。
このイメージについて身近な例で言うと、Amazonを最初に使うとき、利用規約に同意しますよね。あれでAmazonと自分たちの間で契約の効力が発生している。それとかなり近い発想です。この場合は「利用規約に同意する」というかたちで契約が拘束力を及ぼすようになっています。OneNDAでも、その統一ルールに同意すれば、もうその後はそのルールがずっと適用されている状態になります。
僕たちはいろんな契約のかたちがあっていいと思っています。契約書というかたちでなくてもいい。なので、OneNDAではまず統一ルールを策定してそれが適用される世界を作りたいと思っています。

――各社が個々に契約書を作るのではなく、統一ルールにみんなが参加を表明する。逆転の発想というか、パラダイムシフトが起きるということですね。ローンチ当初のターゲットユーザーはどんな企業を想定していますか。
酒井:まずは、SMB、スタートアップ、あとはフリーランスの人たちを想定していますが、大企業にとってもメリットがあると思っています。大企業においても、取引先によって契約書を修正したり、それを管理することはもちろん、関係各社によって異なるルールで情報をやりとりして、その情報を管理するのはかなり大変な作業です。
一方、OneNDAの場合は、「OneNDAのルールなら、こうやって情報管理をすればいいよね」と考えることができる。ルールが統一化されることによって、情報管理コストを下げることができるのです。大企業も自社の契約書のひな型を使いまわすのではなく、統一ルールを使うことに中長期的なメリットがあると考えています。実際に大企業からも参画希望の声もいただいています。
