新たな旅や移動の在り方に向けて
――コロナ禍で、タビノコ以外に注力されていることはありますか。
千歳:今後を踏まえた話でいうと、企業にとって重要な従業員の労働環境とヘルスケアマネジメントの観点から、ワーケーション(ワーク+バケーション:観光地やリゾート地で休暇を取りながらテレワークする働き方)に力を入れています。
たとえば、京都に本社を構える伝統的な繊維メーカー、ミツフジさんの提供するウェアラブルIoTソリューションを活用した商品造成などに取り組んでいます。具体的には、当社の客室乗務員や社員のテストで得られたバイタルデータを基に、ワーケーションによってどれほど生産性が上がるかを測定。企業にお返しするパッケージです。単に「涼しいところで仕事をしよう」と打ち出すのではなく、そこで仕事をしたらストレス値が下がって、健康になった、というところまでを支援できたらと。
――それはおもしろいですね。どこからアイデアが生まれてきたのでしょうか。
千歳:コロナ禍で一気にリモートワークが進む一方で、家では子どもの面倒を見る必要があるなど、プライベートな空間で仕事をするのは難しいという問題が浮かび上がってきていました。仕事をする場所は、家ではないところが必要なのではと。その中の選択肢の一つとして、ワーケーションが出てきたんです。ただ、個人の力ではどうしようもない部分もあるので、会社が仕組みを整える必要があります。オフィスは縮小しつつも、全国の何か所かに拠点を置いて、家庭をもっている人も独身の人も、気持ちよく働けたらいいのではないかと考えました。
企業がそういった選択肢を柔軟に取り入れるようになると、旅行、仕事、生活の境目がなくなるはずです。そういうワークライフミックスを当社が上手くサポートしていけると良いですね。
そういう働き方、生き方を経験すると、人はだんだん価値観が変わってくるはずです。もっといろいろな拠点で働きたいという人は、いずれアドレスホッパーに。さらには、二拠点で生活したい、移住したいという段階になってくる。地域側としては、そういう人にどんどん来て欲しいわけですよね。このように、ワーケーションを一つのトリガーにして、いろいろな生き方、価値観が生まれてくるのではないでしょうか。今まではお金に余裕のある人しかできなかった生活が、普通の選択肢になり得ると考えています。
社会の変化を謙虚に受け入れつつ、人と旅をつなぎたい
――最後に、今後の展望について教えてください。
千歳:当社は「日本とアジアをつなぐ」をビジョンの一つに掲げていますが、「つなぐ」が一つのキーワードになると思っています。それは物理的な話だけではありません。人の想いを含めて、地域の良さを発信したい人とそこに行きたい人を結びつける。タビノコにもそういう側面がありますし、私たちが本質的にやらなければならないことは、いろいろなものをつなぎ合わせていくことなのではないかと考えています。
この業界のビジネスは、飛行機の台数を増やして供給量を増やすことが成長パターンの典型ですが、そうした線形のモデルだけではなく、多様な移動目的を演出したり支援することでビジネスを広げていく気風がPeachにはあります。もっと人の生活を豊かにしたり、移動という行為の先にある目的にフォーカスしていけたらと。
私たちが描いているのは、
日常生活のふとした瞬間に湧いてくる「ここ行きたい」という想い
↓
行くにあたって必要な情報収集や準備の過程で「知ってる×知ってる=知らない」といった気づきを与える場づくり
↓
旅(実際に赴くことで広がる価値、ライブ感)
↓
帰ってきて思い出が共有される
↓
その人の思い出がきっかけになって、また誰かがそこに行く
という「旅好き」が相互作用を促すようなカスタマージャーニーです。そういう場づくりができたらと思っていますが、飛行機の移動が提供できているのは、その中のほんの一部分です。まだまだアプローチできていない部分がたくさんあるので、そこをどのように埋めていくかは課題ですね。
コロナ禍とはいえ人が移動しなくなるわけではありません。社会の変化を謙虚に受け入れつつ、その中でなくならないであろう需要にしっかりと応えていきたいです。