創業期は「プロダクト1本勝負」
現在Sansanにおいて、首都圏のSMB領域とともに、新規事業であるオンライン請求書サービス「Bill One」のマーケティングを担当している柳生氏。BtoB企業のマーケティング/セールス活動は、創業期と拡大期では展開が異なるという。
「BtoB企業の創業期において重要なのは、一つのプロダクトに注力してマーケティングとセールスを行い、ビジネスを軌道に乗せることです。一方、拡大期になると事業の柱となるプロダクトがいくつもローンチされ、事業拡大が加速化します。従業員規模は200人を超え、複数プロダクトのマーケティングとセールスが同時並行で行われている状態になっているはずです」(柳生氏)
同社では2007年の創業から従業員規模が200人を超える2016年までを創業期と位置付け、「名刺管理」という概念の啓蒙と認知拡大のため、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」一本で勝負していた。
その戦略が奏功し、2019年までの3年間で従業員は一気に500人まで拡大。2020年には700人を超えた。そんな同社は現在、拡大期の真っ只中にある。エンタープライズ企業の攻略を重点戦略とし、Bill Oneを始めとする新規事業や、既存顧客のアップセルにも力を入れる。
「データドリブンな戦略」に立ちはだかる壁
続いて柳生氏はデータ戦略に言及し、成長フェーズごとに取るべき行動は大きく異なると語った。
「創業期において重要なのは、正確なデータを蓄積し、マーケティングファネルのPDCAを回すことです。その後、拡大期に移行すると、部署別に蓄積されたバラバラなデータを一元的に集約し、取引先法人ごとにまとめる必要があります。営業活動を属人的なものから、全社的に統一されたデータドリブンなものへと転換していかなければいけません」(柳生氏)
このようなデータ戦略上の課題を、同社ではどのように解決し、事業拡大につなげてきたのだろうか。
創業期に苦労したのは、抜け漏れなく正しいデータを収集し、マーケティングファネルごとの正確な数字を把握すること。その数字から、受注率や商談化率などステップが変わるときの転換率を割り出し、セールス活動に活かすことだった。
「創業期は社内の体制も未熟で、根拠となるデータに抜け漏れが多く、なかなか正しい転換率が計算できません。メンバーごとに商談の精度もまちまちで、受注予測が立たずに目標を達成できないということもよくありました。あらゆるデータがちぐはぐで、PDCAを回せない。その頃の当社は、データ戦略がうまく機能せず、悪循環に陥っていたと思います」(柳生氏)
そこで同社が行ったのは、データ入力にかかる負荷を減らしながら正確な情報を収集すること。さらに収集したデータを社内で一ヵ所に集約し、マルチデバイスで管理できるようにした。特にオンライン商談では、リード情報を獲得することが難しく、意外な壁になったという。
「商談相手の名前と部署は把握できても、同席している他の方のデータをオンライン上で知るのはなかなか難しかったです。オンライン商談では、顧客データの蓄積やアップデートができず、商談後に適切なアプローチができないケースが増加しました」(柳生氏)
そのような課題がコロナ禍で一気に顕在化する中、同社はSansanの「オンライン名刺」機能の提供を開始した。SansanやEightの利用企業であってもなくても、名刺情報のURLデータを送り合うだけで名刺交換が完了する。またSansanユーザーでない場合も、受け取った名刺情報が自動的にスマートフォンの連絡帳に登録される。名刺を送り返す場合は、スマートフォンで名刺を撮影するだけで名刺交換が可能だ。